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晴也は当然といった口調で正志の質問に答えた。
「父がまだNELにいる。それに、あの研究所のネットワークは、ここからも見られる」
「え?」
思いもかけない発言に、思わず志織は声を漏らした。
「NELの情報が、ここに漏れているんですか?」
「漏れているなんて失礼な。これでも私は、NELの研究員だ」
失礼な、と言いつつ、彼はまだ笑っている。
「そうなんですか? 研究員証は?」
「そんなもの、とうになくした。かなり前から、私はここで一人で研究することを許可されているからね」
あまりにも信憑性のない話だ。晴臣の息子がNEL研究員だったというのは聞いたことがあるが、就職後すぐすぐにやめてしまったと聞いていたし、研究員証がないなら彼の話を証明するものは何もない。彼が何らかの手法を使って、勝手にNELの情報を盗み見ていると考えたほうがしっくりくる。志織はそれ以上詳しく聞くのはやめた。
その代わり彼女は、姿勢を正して晴也を見つめた。
「晴也さんに、お願いがあります」
「志織さんからお願いされるとはね。何でしょうか?」
わざとらしい口調に不愉快さを覚えるが、志織は気にしないようにして続けた。
「正志を、ここで引き取ってくれませんか」
「志織っ?」
正志がぎょっとして志織を見つめる。しかし彼女は正志を見ずに頭を下げた。
「お願いします。あそこを抜け出した以上、正志の居場所はないんです」
「じゃあ何故、君は正志くんを逃がしたんだ?」
面白がっている口調で晴也が問いかける。志織はゆっくりと顔を上げ、晴也と目を合わせた。
「正志は二十五年間も監禁されていました。ロボットとはいえ、感情を持っている以上、正志の心は完全に荒廃していたんです。でも、自己満足かもしれませんが、私が正志の管理担当になってから、兄は落ち着きを取り戻しました。それなのに、正志を壊そうとする人間はまだいたんです。しかも、そのせいで私の命が狙われた。もうあの場所には、私も兄も、いられなかったんです」
「あ、そう」
晴也は両手を弄びながら、興味なさげに返事をした。聞いておいてこの態度は何なのかと、晴也に対して苛立ちが募る。彼に助けを求めたのは間違いだったのではないかと、志織は思い始めていた。