7-2
部屋は壁が見えないほどたくさんの機械で埋め尽くされていた。NELで働いていた志織でさえも、その機械の量には目を剥いた。ここは個人の研究所なはずで、これほどの設備が整えられるとは普通であれば考えられない。しかし、ここの家主であれば、これほどのことをしてもおかしくない。部屋の中で二人に背を向けて椅子に腰かけていたこの研究所の主は、くるりと振り返りにやりと笑った。真っ黒な短髪はところどころぐちゃぐちゃとしていて、白衣も薄汚れている。
「いらっしゃい、志織さん、正志くん」
「久しぶりです」
志織は頭を下げたが、正志は怪訝そうな表情で目の前の男性を見つめていた。
「そんな目つきをしなくてもいいだろう? 君たちを通報しようなんて、全く考えていない」
「あなたは誰ですか」
今にも飛びかかりそうな剣呑な雰囲気をたたえている正志の腕を、志織は両腕で強くつかんだ。正志のそんな態度も気にせず、彼は背もたれにもたれ掛かるとゆったりと足を組んだ。
「私は、真下晴也だ。名前くらい聞いたことあるだろう?」
「マシタハルヤ……?」
正志は眉根を寄せて晴也を観察している。志織は正志の腕を掴んだまま早口で告げた。
「真下晴臣さんって覚えてる? お父さんの同僚だった人」
「ああ、名前だけは……」
正志はそこまで言うと、はっとしたように晴也を見た。
「どうも、真下晴臣の息子です」
晴也は立ち上がると、胸に手を当て仰々しくお辞儀した。椅子に座っていると分からなかったが彼は長身で、晴臣が顔を上げると、志織だけでなく正志も彼を見上げる格好となった。
「志織、なんでこの男のところに?」
本人を目の前にしているにもかかわらず、正志は晴也を睨みつけたまま不躾な質問を志織にぶつけた。
「その言い方はあんまりじゃないか?」
晴也はにやにやしながらそう言うと、再びどっかりと椅子に腰を下ろす。そして入り口のそばにあったソファを指さした。
「どうぞ、そこに座って。立ち話で終わるとは思っていない」
晴也を睨みつけたまま動かない正志を、志織は半ば強引にソファに連れて行って座らせた。
「君たちが逃げてきたのは知っている。今は何とかNEL内で処理しようとしているみたいだが」
「そんなことをなぜあなたが知っているんですか?」
尋ねる正志の声は固い。それと対照的に、晴也は気持ち悪いほど余裕を持っていた。機械に囲まれた狭い部屋に、奇妙な空気が流れていた。