7-1
電車を乗り継ぎ、駅からバスに乗り、そこから徒歩で山道を登り、目的の場所にたどり着いたのは夜の十時過ぎだった。
「ここ、か?」
正志は怪訝そうに、目の前にそびえる建物を見上げた。
「ここなはず……住所はここだし、この近くにほかに建物なかったし」
山の中、ぽつんと立っているその建物は、真っ白な外壁の三階建だった。所々窓から明かりは漏れているものの、全体の印象としては暗く不気味である。
「ここに、誰がいんの?」
「もうすぐ分かるよ」
志織は正志の質問には答えず、玄関に向かうとためらいなくチャイムを鳴らした。不満げな正志が志織の後ろに立つ。
「誰だ?」
玄関に明かりがつくとともに、どこからともなく男性の声が聞こえた。どこかにスピーカーとマイクがついているのだろう。
「高村志織です」
「ああ……来ると思ってたよ。思ったより遅かったが。後ろにいるのは?」
どうやらカメラもついているらしい。志織と正志は顔を見合わせた。
「正志です」
「ああ、君があの……。早く入って、階段を上って、三階の突き当りの部屋へ来てくれ」
ガチャリと音がし、玄関のドアが解錠したのが分かった。志織が迷いなくドアを開け中へ入ると、納得のいっていない表情の正志もしぶしぶついてきた。
中は真っ白な廊下に明かりが煌々とついていて、夜闇に慣れた目に光が眩しかった。志織が目を細めて立ち止っていると、正志は平気な様子で彼女の横を通り過ぎて先へ進んでいく。
「あの声、聞き覚えがないんだけど、誰?」
正志の声は不機嫌だ。
「私も会うのはすごく久しぶり。正直、この人に会うのは賭けなんだけど」
「賭け?」
途端に正志の声がますます尖る。
「かくまってくれるってことじゃなかったのか?」
「かくまってくれるかも、としか言ってないよ」
「でも、あの人なら断らないとも言っただろ」
口論しながら階段を上り、三階の廊下を歩く。突き当りまでくると、ドアを開けようとした志織の手を正志が掴んだ。
「大丈夫なのか? ここを開けたら、俺たちを捕まえようとNELの奴らが待ち構えてるかもしれないんだぞ?」
「そしたらもう、仕方ないよ。ここまで来ちゃったんだし」
志織の決心が変わらないことを悟ったのか、正志はため息をついて自分からドアを開けた。