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監視カメラを意識しながらではあったが、二人は人が溢れる街中を見物して回った。正志は始終きょろきょろしていて、たまに気になるものがあると志織にその説明を求めた。それらの解説をしながら、志織は、周囲の人間を警戒していた。自分たちを見ている人間がいないか、いたとしたらどんな意味を込めてみているのか、気になって仕方がない。もしかしたら、自分たちの顔が一般人にも知れ渡っているのではないか。今にも雪本や斎藤が目の前に現れ、自分たちを確保しに来るのではないか。もしそうなったら……志織は罪に問われ、正志は今度こそ、『不要になる』まで監禁され続ける。再会した時の、絶叫し暴れていた正志の姿が脳裏をよぎった。
しばらく楽し気に周囲を見回して散策していた正志だったが、ふと志織の顔を見て立ち止った。
「どうしたの?」
志織が聞くと、彼はしばらく考え込むような表情をし、呟いた。
「ごめん。はしゃぎすぎた。そろそろ、目的の所へ行こう」
「目的の所?」
「志織は、俺を観光させるために、ここまで連れてきたわけじゃないだろ? 誰かの所へ連れて行ってくれるんだろ?」
志織ははっとして正志を見つめた。彼女が何を考えていたのか、正志にばれてしまったのだと、彼の表情を見て悟った。
「……ごめん」
「なんで志織が謝るんだよ? 志織は、俺が少しでも楽しめるようにしてくれたんだろ?」
正志はにっこりと笑って見せた。
「こうして外に出て、街を歩き回れるなんて、二十五年前だって思ってなかった。あの頃だって俺は、ずっと家の中だったんだ。外の世界がどんな風なのか、ずっと知らなかった。少しでも知れただけで満足だよ。でも、そろそろ行かないと、追手が来るかもしれない」
「……そうだね。行こう」
これから向かう所は山の中であるから、しばらく街には来られないと告げると、正志は足を止め感慨深げに周囲を見回した。志織もつられて足を止める。彼女の馴染みの街ではないものの、ここのように人が負おう、たくさんのビルに囲まれた町というものはどこにでもあった。でも、今この瞬間に見るこの光景は、普段とは違うものに思われた。
都会の景色を目に焼き付けるように、二人は歩道でしばらく立ち止まっていた。行きかう人々が怪訝そうな顔をしていたが、そんなことは気にならなかった。恐らく今後、このような場所に二人揃って立つことは二度とないだろうと、志織は感じていた。秋にしては暖かい日差しが、ビル群の窓に反射してキラキラと輝いていた。