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正志はすぐに二人をかくまってくれそうな人物の元を訪れようとしたが、志織はそうはしなかった。その前に、やりたいことがあった。二十五年も監禁されていた正志に、少しでも外の世界を楽しんでほしかったのだ。それに、二人ともNELを脱出した時の服装のままだったから、少しでも変装しておきたかった。防犯カメラに写ってしまえば一発でばれてしまうが、少なくとも人の目はごまかせる。
二人はまず、男女どちらの服もそろえている、全国展開しているアパレルショップに入った。店の中は冬物をたくさん揃えていて、外がまだ秋であるので、正志はギャップに少々気おくれしていた。
「多分、まだ秋物も売ってると思うんだけど……」
店の奥に進んでいくと、ようやく今の時期に合ったものを売っているコーナーを発見した。
「これとかどう?」
明るいオレンジ色のパーカーを差し出すと、正志はあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。
「派手だろ」
「でも、今までの正志の服って、寒色ばっかりだったでしょ? こういう色来たら、多少はごまかせると思うんだけど」
「志織、からかってない?」
正志はげんなりした表情を浮かべつつ、ジャケットを脱いでパーカーを羽織った。
「目に痛いんだけど」
鏡を見た正志が顔をしかめる。だが、新鮮な色のパーカーは、彼によく似あっていた。
「結構似合ってるよ、印象も違うし」
「そう? そんなに印象違うなら、これにしようか」
正志は首をかしげながらも脱いだパーカーを買い物かごに入れた。
結局、正志はそのパーカーとジーンズ、志織もベージュのセーターと紺のパンツに、二人分の秋物のコートを購入した。店内のトイレで着替え、店の外で待ち合わせると、志織の姿を見た正志は目を丸くした。
「いつも白衣とスーツしか見てなかったけど……やっぱり、大人になったな」
「何それ、老けたって言いたい?」
「違う違う。大人びて見えたのは服のせいかと思ったけど、私服でもやっぱり大人だったから、成長したんだなって思ったんだよ」
「そりゃ、二十五年も経てばね」
この年になって大人になったなどと言われるとは思っておらず、志織は苦笑した。そんな彼女を、兄は眩しそうに目を細めて見つめていた。