表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒトガタ機械  作者:
5/74

1-5

 何がなんだか分からず呆然としているうちに、志織は小さな会議室の椅子に座らされていた。来た時に通ったいくつかのドアを戻ったことは何となく覚えているが、どこで別のドアを通ったのか、真っ白な廊下に出ることなく、いつの間にかこの部屋に押し込まれたのだ。志織の隣には斎藤が座りじっとこちらを観察している。

「高村くん」

「斎藤さん、お兄ちゃん……正志に、何があったんですか」

斎藤が何か言いかけたのを遮り、志織は聞いた。斎藤は困惑したように目を泳がせ、口を開いては閉じることを何度か繰り返したが、結局なにも話してくれなかった。

 志織の前に一人の男が座った。それは、先程の部屋で、二十五年も会っていないと言ったあの男だった。胸につけられたネームプレートには「NELロボット工学部門長 雪本」と書いてあった。

 NELとは国立工学研究所、つまりこの施設の名称である。志織や斎藤はロボット工学部門のAI分野の研究員であるから、雪本は志織たちの上司である。もっとも、志織のような一研究員が普段会うような人物ではないから、名前だけは知っていたものの今日が初対面である。

「雪本だ」

「存じております」

雪本は、この近距離でも感情が全く分からない完全な無表情で志織を見つめた。

「正志のことだが、覚えているか?」

「はい」

「二十五年前、君が正志と最後に会ったときのことも?」

「はい」

ついさっきまでは忘れていた。いや、記憶の奥底にしまい込み、忘れたと思い込んでいた。

父が死に、途方に暮れていた十歳のあの日、父の職場の人間を名乗る男たちが急に家に入ってきて、正志を連れ去ったのだ。

「君のお兄さん……正志、だったかな? 彼は、実は人間じゃない。君のお父さんが作ったロボットなんだ。しかも、法律で禁止されている、いらない感情を持ったロボット。法律違反だから、捕まえなくちゃいけないんだよ」

その中の一人が、志織をなだめるように言った台詞は、今でも鮮明に思い出せる。相手の顔は全く思い出せないのに、当時は言われたことの内容もよく理解できなかったのに、あの台詞だけは今もしっかりと心に刻まれていた。

 そして、連れ去られる正志の困惑と絶望が入り混じった表情も、自分が泣きながら正志に手を伸ばしたことも、志織はしっかり思い出していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ