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いつのまにか寝てしまっていたようで、気がついた時には時計が八時近くを示していた。
「おはよう」
「ごめん、私、寝てた……?」
「熟睡してた」
正志はくすくすと笑うと、カップにわずかに残っていたコーヒーを飲みほした。
「朝食を食べたら、ここを出たほうがいい。店員さんが嫌そうな顔してた。俺はコーヒーしか飲まなかったし」
「だよね……」
混んでいなかったにせよ、一晩明かされたのは店としても迷惑だったろう。朝食はここで摂っていかないとあまりに申し訳ないので、今回は志織だけでなく正志も食事をすることにした。
朝食セットの中から適当に選んだメニュー食べ終え、二人は朝の街に繰り出した。
「なんか、久しぶりに飯食ったから、変な感じ」
腹部を手でさすりながら、正志が苦笑する。
「体調悪くなってない?」
志織の言葉に、正志は怪訝そうに眉を寄せた。
「ああ……長らく食べてなかったけど、特に問題はないらしい」
「私、何か変なこと言った?」
「何でもないよ」
「何でもないって顔してない」
志織がきつい口調で問い詰める。正志は根負けしたのか、困ったような表情を浮かべた。
「二十五年間ずっと、物として扱われてきたから、『体調どう?』って聞かれるのが違和感あって」
ぐさりと胸に突き刺さった言葉に、表情が強張る。悟られまいと顔を逸らしたが、正志はそんな志織の頭をぽんと叩いた。
「そんな顔すること分かってたから、言わないでおこうとしたんだ」
「……ごめん」
志織は謝りつつ、ごまかすために作り笑顔を正志に向けた。しかしそれも正志にとってはお見通しだったらしく、呆れた視線を向けられる。
「謝るなら、そんな顔すんな。お前は昔から、ごまかすの苦手なんだから」
「最近は結構、本心分からないって言われるけど」
「職場の人間と俺を比較すんなよ。いつから志織のこと見てきたと思ってんだ」
正志が明るく笑ったのを見て、志織もようやく表情を緩ませた。