5-11
狭い廊下を大急ぎで駆け抜け、二人は真っ白な廊下に出た。
「おい」
正志が走ろうとする志織の腕を掴んで引き戻す。
「走ったら他の人たちに気づかれるかもしれない。普段通りに」
冷静な表情をしている正志を見て、志織の心も次第に落ち着いてきた。焦ってもいいことは起きない。志織は深呼吸すると、ゆっくりと一歩を踏み出した。
二人はできるだけ普通に見えるよう、普段通りの歩調で廊下を進んだ。
「出口はどこ?」
「こっち、もう少しで非常口」
真っ白な壁の途中にトイレの入り口があるのだが、男女のトイレの仕切り部分がちょうどドア一つ分の大きさである。そこは普段なら何もない壁に見えるのだが、非常事態には外につながる通路が表れる。そして、そこは、今日の点検で解放されているはずなのだ。
角を曲がると、そこには数人の研究員たちがいた。ドキリと心臓が跳ね上がる。彼らはちらりとこちらを見たが、特に気にした様子もなく向こうへ歩いていった。
「……気付かれなかったね」
「ああ、すごいな」
正志は自分が着ている白衣の裾を引っ張った。
非常口はすぐに見つかった。普段はどこにあるのか非常に分かりづらいのだが、今日だけは点検のため、薄暗い通路がぽっかりと口を開けている。志織はためらいなくそこに体を滑り込ませた。
「狭いし暗いな」
「非常口だから仕方ないよ」
足早に先を急いでいくと、向こう側に人影を見つけた。
「誰だ?」
聞き覚えのある声に体が強張る。最悪だ……。