5-7
正志の部屋に入ると、彼は寝ていた。彼の充電時間であるから当然だ。志織は檻に近寄り、正志の檻を揺らした。
「マサにい、起きて」
何度か声をかけると、彼は身じろぎして目を開いた。眠そうな目が志織を数秒見つめ、はっとしたように起き上がる。
「志織……なんでこんな時間に? 監視は?」
「今はマサにいは寝てる時間だから、監視はいないの」
「二十四時間監視してるんじゃないのか?」
「前まではね。でも、マサにいが……その、暴れなくなってからは、その必要はないんじゃないかって話になって。コストもかかるから、寝ている時間の監視はなくなったの。あ、でも、今の時間は録画と録音はされてるはず。電気がついちゃったから」
「そっか……」
正志は険しい顔でじっと志織を見つめた後、ふっと頬を緩めた。
「無茶しやがって」
楽しげに口元を緩め、彼は志織のすぐそばまで歩み寄ってきて座った。志織も彼の前に座りこむ。
「でも、来てくれて嬉しいよ。こうやって志織とゆっくり話せるんだから」
正志はそう言うと、急に声を落として息の音だけで囁いた。
「で、例の件だけど」
「うん、そのことなんだけど……」
志織が囁き声で返すと、正志は早口で囁き返した。
「大声の会話にも話を合わせてくれ。万一、今夜のことがばれたとき、これを聞かれてもいいように」
志織はその囁きにちょっと目を見開き、小さく深呼吸した。
「こうして話す機会は、あまりなかったよね」
「ごめん、私には、いい案が思いつかなかったの」
普通の話し方の後に小声で囁く。
「せっかく久しぶりに会ったのにな」
「俺もだ。警報を鳴らさずにここを出られる方法が分からない」
二つの会話を同時に成立させるというのは、かなり頭を使った。おかげで、三十分ほど話しただけでくたくたになってしまった。しかも結局、話し合いの結果分かったことは、「正志が警報を鳴らさずにここを出るのは不可能である」ということだった。
危険を冒した割に成果が得られなかったことにがっかりし、志織は正志の部屋を後にした。