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松田と二人で部屋に入ると、正志は檻の中心で眠っていた。
「ここ数日、怖いくらいに大人しいんです。座り込んで、じっと宙を見つめて、まるで何かを考え込んでいるように……」
松田の台詞にドキリとしつつも、志織は表情を変えずに正志を見つめた。
「私のバイタルサインが彼に届いているそうですから、それを分析していたのかもしれません。私が彼の能力については説明しましたから、彼は今まで知らなかった自分の能力も知っています」
「そうでしたか。てっきり不調でも生じたのかと……」
松田が頷いた時、正志の体がピクリと動いた。何度か瞬きをすると目を開け、むくりと起き上がる。
「おはようございます」
松田が声をかけると、正志はこちらを振り向いた。その途端目を見開いてこちらへ駆け寄る。
「っ、志織?」
「マサにい、久しぶり。心配かけてごめんね?」
正志はぶんぶんと首を振った。
「いや、大丈夫だ。志織が徐々に回復してることは分かってた。それに……」
正志の表情がやや曇る。
「志織が危険な目に遭ったのは、俺のせいだしな」
「そんな顔しないでよ」
マサにいのせいじゃない、とは言えなかった。正志はきっと否定するだろうし……志織自身、殺されかけた原因は、正志にあると考えてしまっていた。
松田がいるため脱出計画について話すことなどもちろんできず、志織は何とか二人きりになれないかと思案していた。
「松田さん、正志と二人にしていただけませんか?」
「駄目です」
彼女は即答した。
「あなたは以前、無断であの檻の中に入ったでしょう。あの後私と雪本さんは上から厳重注意を受けたんです。あなたも何度も注意されたでしょう?」
「……そうですね」
あの時あのようなことをしてしまった以上、正攻法で正志を二人きりになることは不可能だろう。逃げる計画を立てることもできない。それならば……。
正志が暴れていないことを直接確かめられたので、二人は退室することにした。部屋を出る直前、志織は正志を振り返って片目を瞑って見せた。正志は一瞬はっとした表情をし、軽く頷いた。
正攻法で二人きりになれないなら、危ない橋を渡るまでだ。