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それから志織は、体調を回復させるためにベッドで大人しく安静にしていた。正志も志織の無事を直接確認し、以前のように暴れることは止めていた。というのは口実で、二人とも、どうやったらNELから脱出できるのかということを一日中考え込んでいた。正志には正伸が健在だったころのNELの地図がインプットされており、施設はその当時から大きな工事が行われたことはなかったため、彼はどこに出口があるのかを把握していた。志織は志織で、誰にも気付かずに正志をあの部屋から脱出させる方法を必死に考えていた。しかし、あの部屋は常に監視者がいるため、知られずに脱出するのは難しい。監視されていない時間は正志の充電時間のみだ。さらに、正志の検査のときに分かったことだが、彼を部屋の外に連れ出そうとすると施設中に警報が鳴り響くシステムになっているようだった。これを解除するにはかなりの権限が必要で、もちろん志織にはそんな権限はなかった。「逃げるなら、連れて行く」と言ったはいいが、その計画はまったくと言っていいほど思いつかなかった。
何度も検査され、彼女の身に危険が及ばないような対策について何度も話し合われ、正志の檻に入ったことを何度も怒られ、ようやく普段の業務に戻ることを許可されたときには、車椅子であの部屋を訪れたときから一週間以上が経過していた。志織が行動するときには絶対に誰かが着いて行くこととなり、自宅で一人でいることが危険だということで、NEL指定のホテルに宿泊することとなった。ホテルとNELの往復も、買い物などの外出も、送迎や護衛がつく。ホテル生活などという贅沢な生活はもちろんしたことがなかったため、こんな状況でなければ浮かれていただろう。
あの部屋まで続く、真っ白で殺風景な廊下は、久しぶりに歩くと余計に寂しく不気味だった。