5-1
志織は一人、車椅子に乗って正志の部屋を訪れた。この車椅子は最新のもので、乗っている人間がどう動きたいのかを察知して自動で動いてくれる。もちろん、誤作動したときや危険を察知した時のため、非常停止ボタンもついている。志織は、車椅子の肘掛けについているボタンを見つめ、これは正志にも本来あるべきものなのだろうかとぼんやり考えた。
扉を開き部屋の中に進んでいくと、正志がこちらへ駆け寄ってきて檻にしがみついた。
「志織っ、大丈夫だったのか?」
「うん、平気」
まだまだ本調子ではなかったが、心配をかけたくなかったので笑顔を作ってみせる。すると正志は心配そうに眉をひそめた。
「平気なら、そんなものになんか乗ってないだろ?」
正志がこちらへ手を伸ばす。志織も極力近寄ったが、触れることは叶わなかった。実は今日、誰にも内緒で檻の鍵を持ち出してきたのだが、誰かが監視していると思うと使うのはためらわれた。
「本当に大丈夫か? 安静にしていなくていいのか?」
「うん。まだ、本調子じゃないけど……」
「そうか……」
正志はじっと志織を見つめた後、突然頭を下げた。
「志織、ごめん」
「マサにい? どうしたの?」
突然の行動にどうしていいか分からず、彼女は戸惑った声をあげることしかできない。正志は顔もあげずに続けた。
「父さんに、志織を頼むって言われて、志織を守るって決めてたのに……守れなくて、ごめんな」
「マサにい……」
こんな正志に、自分が殺されかけたのは正志のせいだと告げたら、どんな反応をするだろう。それが恐ろしく、志織はなかなか本題を切りだすことができなかった。