4-8
愕然としたまま言葉を発することができない志織を、雪本は冷酷な視線で射抜いた。
「気にならないか? 何故、高村が正志を作ったのか」
「……分かったんですか?」
志織が目を見開くと、彼は推論の段階だが、と断りを入れてから話し出した。
「正志は、誰かが伝える前に、君が殺されかけたのを知っていた。検査結果、君のバイタルサインが常に正志に転送されていることが分かった。正志は基本的には人間と同じように生活できるようにできているが、危機的状況に陥った際にはとてつもない力を発揮できるうえ、君に危機があればすぐに察することができる。これらから推察できる、正志が作られた理由は、君の保護だ」
「保護……?」
「普段は人間として共に生活し、君を育てる。万が一君の身に危機が迫った場合には、君を守る。停止条件は、その役割が不要になった時――つまり、君が正志を必要としなくなった時だけだ」
雪本は大きく首を振った。
「そんな理由で重大な規律違反をするなど、考えられないが……辻褄の合う仮説は、これしかない」
頭が混乱しているのを感じ、志織は目を閉じた。正志が作られたのは、自分のため……父は、自分のために、重大な規律違反を犯し、そのストレスで死んでいったというのか。父が死んだのは、正志が苦しんでいるのは、志織のせいだというのか。
雪本の冷酷な声が聞こえ、志織は目を開けた。
「正志はまだ検査結果について知らない。君のバイタルサインを察知できることは自分でも気づいているがね。そこで、君の口から、検査結果を説明してもらいたい」
「私から……?」
うまく声も発せない状態の彼女が説明しなければいけない理由などあるのだろうか。理解ができず、志織は戸惑いの視線を雪本に向けた。
「正志がいつ暴れだすか分からない。極力早く、君の生きている姿を見せてやらなければいけない。君からの説明なら、正志も信じるだろう。とはいえ、今の君に詳細な説明ができるとは思っていない。私が今君に行った説明を、君の口からしてくれればそれでいい」
それでいい、と簡単に言えるような内容ではなかった。しかし雪本の視線は、志織が断ることを許さないというように鋭かった。
「分かり、ました。お受けします」
志織はゆっくりと頷いた。