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志織が正志の管理担当になってから、一か月が過ぎたある日、正志にとって大事件が起こった。相変わらず正志は六時間休み六時間活動するサイクルを続けていたが、暴れることはなかった。そんな正志の状況を見て、雪本がある提案をしたのだ。
「検査?」
雪本から聞いた話を伝えると、正志は目をぱちくりさせた。
「うん。マサにいの検査をしてみるって」
「どんな仕組みになってるか、ってこと?」
志織は頷いた。
雪本の提案は、正志の構造の検査であった。二十五年前からつい最近まで、彼は自分を壊そうとする活動だけでなく、自分を検査しようとする活動も拒絶してきた。設計図は二人の父が廃棄してしまっていたから、正志に関する情報は、正志による自己申告と観察からもたらされたものしかなかったのだ。
「マサにいが自分で気づいていないものがあるかもしれないし、安全に検査できるようになったからって」
正志は素直にこの検査を受け入れた。
ロボットを解体せずに仕組みを調べる検査自体は特殊ではなかったのだが、正志は二十五年もの間監禁されていたのである。この部屋を出るというだけで、かなりの大事件であった。検査はNELの就業時間後に、施設内に正志のことを知る研究者のみを残して行われた。検査室は正志の部屋から十メートルほど離れたところにあったが、そのたった十メートルが正志にとっては新鮮に映ったようだ。真っ白な壁と床と天井しかない、殺風景すぎる空間であったのだか、彼は始終きょろきょろしていた。検査室でももの珍しそうにあたりを見回し続けていたため、少しの間動きを止めてくれと注意が飛んだほどであった。
検査自体は何事もなく終わった。正志のことを知る解析専門の研究員が一名しかいないため、詳しい結果が分かるのは一週間後ということだった。
「俺も知らないことが分かるのかな」
と、正志は楽しそうにしていた。