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志織は右手を伸ばし、檻をぎゅっと握りしめた。
「志織、服、ありがとう」
正志は微笑みながら、改めてお礼を言った。
「覚えててくれたんだ、俺がこういうの好きだってこと」
「というか、マサにいはいつもそんな服着てたでしょ? 私の中で、マサにいの服はそういう感じなの」
「ここ来てからいつも殺風景な白い服ばっかで、飽きてたんだよ」
正志は心から嬉しいといったような笑顔を浮かべ、服と志織を交互に見た。
その後二人は、二人が共に過ごした七年間の思い出を語り合った。父親の癖、作ってくれた料理、三人で遊んだジグソーパズル、正志と志織の喧嘩、志織が幼稚園で書いた絵……話は尽きなかった。二人は檻を挟んで地面に座り込み、時折笑い声を上げながら会話を楽しんだ。正志の笑顔は志織の記憶の中のそれと全く同じで、志織は昔に戻ったかのような錯覚を覚えた。時折、二人の記憶に齟齬があったが、それはそれでいい笑いの種となった。
何時間話しただろう。正志が目を眠そうに瞬かせるようになってからやっと、二人は会話をやめた。
「ごめん、そろそろ眠くなってきた」
正志は大きなあくびをした。
「私こそごめんね、夢中で話しちゃった」
「今度は、志織のことも聞かせて。今どんなことしてるのかとか。白衣だから、ここの研究者なのは分かってるけど」
正志は床にごろりと横になった。
「おやすみ」
「おやすみ、志織」
正志は志織に向かって微笑むと、天井を向いて目を閉じた。
「……充電に入りましたね」
疲れた声が部屋の隅から聞こえた。はっとして振り返ると、松田が部屋の隅で座り込んでいた。志織は、松田が同じ部屋にいたことをすっかり忘れていた。
「すみません……」
「いえ。それにしても、あなたと正志は……」
松田は正志を見た。
「本当の兄妹のようですね」
志織は何も言えず、松田を見つめる。
「帰りましょう。また六時間後に」
「はい」
二人は立ち上がると、正志を一人残して部屋を出た。