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傷だらけで笑う正志に痛々しさを感じつつ、志織は手にした紙袋を掲げた。
「服、買ってきたよ」
正志の服を買う許可がなかなか下りず、彼の服を買うという約束を果たすにも時間がかかってしまっていた。正志は紙袋を見ると顔を輝かせた。
「志織が俺に服を買ってくれたのか? 嬉しいなあ……」
「着てみて。今から五分だけ、手錠とか外してもらえることになってるから」
志織は鉄格子の隙間から紙袋を差し入れた。正志はそれを受け取ると早速服を取り出した。
「これ……」
「そういうの、好きだったよね?」
明るいブルーのパーカーに黒のシャツ、細身のジーンズ。黒の靴下と白いスニーカーは色をNELから指定され、志織はその指定の中から服似合いそうなデザインのものを選んできた。服を自由に選ばせてくれたのだからそこも自由に選ばせてくれてもよさそうなものなのだが、上の考えることというのはよく分からない。
志織がモニターを操作すると、大きな音を立てて正志を拘束していた金属が外れた。
「ありがとう」
正志は優しく微笑むと、早速着替えを始めた。くたびれたTシャツの脱ぎ方が、記憶の中の正志と重なる。胸にこみ上げてくるものがあり、志織は慌てて正志から目を逸らした。
二十五年前の記憶で選んだから、その服が正志に似合うのか、志織には自信がなかった。
「どう、似合う?」
話しかけられ彼を見る。
あの頃と全く変わらない正志が、照れ臭そうに笑いながら、そこにいた。
「何、俺の着替え見たくないから、目逸らしてたの?」
昔はそんなこと気にしなかったのに、と正志は茶化すように言ったが、志織は言い返すことができなかった。
堪えることができず、志織はぼろぼろと涙をこぼした。