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その後の一週間で志織は、正志が自分の知っている正志ではないことを認めざるとえないと知った。志織が知っている正志は、優しくて、穏やかで、少々のことでは怒らない、志織を見守ってくれる兄だった。しかし今の正志は、志織の姿が視界に入らないと狂ったように暴れる、凶暴な青年だ。志織があの部屋にいるときは記憶の中の彼と同じなのだが、彼女がいなくなると分かった瞬間、暴れだす。その時の彼の表情は、なぜだか志織の頭を真っ白にさせ、彼女は立ちすくんだまま動けなくなってしまう。正志もそれに気づいているらしく、志織がいるときは極力取り乱さないよう自制しているらしかった。その証拠に、正志が我が身を壊さんばかりに大暴れするのは、いつも志織が部屋から退出した後だった。彼女はいつも、異常に暴れる正志を、モニター越しに見ていた。志織はできればずっと正志のそばにいたかったが、正志の部屋に泊まりこむわけにもいかない。倒れてしまっては元も子もないからと、彼女はいつも後ろ髪を引かれながらも部屋を出ていた。
志織が正志と再会して、数日が過ぎた。前日が休みだった志織は、幾分リフレッシュした気分で正志の部屋を訪れた。いつもは手ぶらでここを訪れていたが、今日は大きな紙袋を持っている。松田は怪訝そうな顔をしていたが、紙袋については何も聞かなかった。
志織が入室すると、正志は動きを止めた。
「志織っ」
「昨日、来れなくてごめんね。休みだったの」
「大丈夫だよ。志織も俺のとこに来る以外の用事があって当然だ」
正志はにっこりと笑って見せた。