2-5
松田がロックを解除した瞬間、志織は松田を押しのけ、勢いよく扉を開けた。部屋に駆け込んだ途端、正志の叫び声と、彼が檻に体当たりする金属音が耳に突き刺さる。その音の激しさに、志織は思わず体を震わせ足を止めた。それと同時に、叫び声と金属音も止んだ。
「志織……」
低く優しい声が静かになった部屋に響く。志織はゆっくり通りに近づこうとしたが、松田に腕を掴まれて引き止められた。
「危ないです、近づかないでください」
「大丈夫ですよ。見て分かりませんか?」
「大丈夫そうに見えますが、行かせる訳にはいかないんです。万一あなたの身に何かあったら、私の責任ですから」
「……分かりました」
志織は頷き、正志に向き直った。何か言おうとしたが、なんと声をかけていいのか分からず、松田に掴まれていない手で前髪を掻きあげた。
「志織、元気だったか?」
体当たりした時のまま、檻にもたれ掛かるような格好で、正志は志織を見つめていた。
「うん」
彼女が頷くと、正志は安堵したように表情を緩めた。
「よかった。ごめんな? お父さんに、志織を頼むと言われてたのに、全然面倒見れなくて」
「ううん、平気」
「あの後、どうやって暮らしてたんだ?」
「中学卒業までは、おばさんたちの家で暮らしてた。高校から寮に行って、大学からは一人暮らし」
「おばさん?」
「お父さんのお姉さんと、その旦那さん。子供がいなくて欲しがってたし、お母さんは一人っ子だったから、ちょうどいいんじゃないかって言われて」
「そっか……一度挨拶に行かなきゃな。俺がこんなことにならなきゃ、迷惑かけることもなかったし」
「……うん」
挨拶に行くなど、きっと一生叶わないだろうと思いながらも、志織は頷いた。