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松田は、三つめの認証で、正志のいる部屋とは別の部屋を解錠した。正志はまだ起きるまで五分ほどあるらしく、一応形式としては正志が暴れてから部屋に向かうことになっているらしい。
「起動後数分で暴れだしますから、すぐ監視室を出ることになりますけどね」
松田は苦笑し、監視室の扉を開けた。
監視室は簡素だった。二つのモニターが設置された机の前に椅子が二脚置いてある。部屋の隅にはごみ箱と、小さな冷蔵庫が供えられていた。机上には他にも引き出し付の小さな棚があり、そこに様々な備品が供えられていた。
一つのモニターには部屋の全体が、もう一つのモニターには正志がアップで映っていた。正志は檻の中心で、気を付けの姿勢から力を抜いたような仰向けの姿勢で目を閉じていた。
「そろそろ起動します」
時計を見た松田が声を発した瞬間、正志が目を開いた。彼はゆっくりと体を起こし、伸びをした。ぐるりと一周檻を見回すと、がちゃりと拘束具の音が響いた。
正志の目に光はなく、虚ろだった。
「志織は……」
正志の声に志織はびくっと肩を震わせた。あまりにも懐かしすぎる声であったが、その声色は今まで聞いたことがないほどの敵意がにじみ出ていた。
「志織はどこだよ、会わせろ」
正志が立ち上がる。正志をアップで映しているカメラは、彼の動きを追った。
昨日志織と会ったから、正志は志織の名を呼んでいるのだろうか。
「正志はいつも、あなたの名を呼んで暴れているんです」
志織の表情を読み取ってか、松田は静かな口調で補足した。
「そうですか……」
二十五年間、正志は、志織の名を呼び続けていたのだろうか。二十五年たってやっと、その声が彼女の元に届いたということだろうか。