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志織が書類をめくる間もなく、松田は正志が監禁されていた研究室へと向かった。志織も慌てて後を追う。
「正志は二十四時間モニターによって監視されていますが、暴れるようなことがあればすぐに研究員が駆けつけます。とはいえ、あれは起動しているときはずっと暴れていますから、基本的にあの部屋には起動時間中はずっと、研究員が誰かいる状況になっています」
「ずっと暴れているというのは、例えばどの程度ですか?」
「昨日あなたが見た通りです。あの暴れ方で、六時間暴れ、六時間充電をする。それを私たちは監視しています」
「六時間?」
確かに正志の休止時間は一日六時間だ。しかし、それならば、活動時間は十八時間あるはずである。六時間ごとに休止と活動を繰り返しているというのはおかしい。
松田は怪訝そうな表情の志織を見て、苦笑した。
「あなたのお父さんは、正志を徹底的に人間に近づけようとしたようですね。正志は、普段の活動量ならば一日十八時間活動が可能です。しかし、活動量が多いと、充電時間も多くなる。ただし充電時間を六時間以上に設定しなかったようで、六時間で完全に充電され、活動し始めます。ちなみに、正志は充電に入るときでも、通常の活動量ならば三時間ほど活動できるような電気は残されているんです」
「そうでしたか……」
使い切ったから充電というわけではなく、システム上活動しすぎているから休息に入るらしい。なぜそこまでして、父は正志を人間に近づけたのだろうか。志織の思い出の中の父は、真面目で、堅実で、規則など破らない人物だった。父の職場の人間たちも、父があんなロボットを作るなどとは思っていなかったと言っていた。自分の知的好奇心を満たすためとか、ましてや自分の名誉や金などというもののために、規則を破るとはどうしても思えない。あの父があれほどのことをしたのには、それなりの理由があるはずなのだが、それが全く分からないのだった。