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大丈夫だと斎藤に伝え手を外すと、志織は言った。
「それで、私に何を任せようというのですか?」
その言葉を聞き、雪本はにやりと口元を歪ませた。意地の悪さがにじみ出ている笑いだった。
彼はどこからかファイルを取り出し、それを志織に差し出した。
「正志の管理だ」
「え……?」
言われたことの意味が分からず、志織は固まった。
「正志の管理は、この研究所が一番頭を悩ませている問題だ。手錠も足枷も檻も、例えロボットの力であろうと壊せないものを使用している。もちろん、正志は人間に忠実に作られているから、それほど人間離れした力は組み込まれていないがね。しかし、万一正志が会の拘束を解き、あの部屋から逃げてしまったら……考えただけでぞっとする。だから、常に誰かが監視している必要がある。しかし正志はあの状態だから、監視者になりたがるものはいない」
「カメラで監視すればよいのでは?」
「勿論そうしている。だが、正志が暴れている間は、監視者はあの部屋で正志が脱走しないか監視せよ、というのが所長の命令だ。正志は起動している時間はほぼ暴れている。カメラの意味はほとんどないんだよ」
「……私が任命されたのは、父の尻拭いですか?」
口元に皮肉な笑いが浮かぶのを止められなかった。しかし雪本は真顔で首を振った。
「それは違う。正志が暴れないよう拘束する方法を、私たちはずっと考えていた。そしてある結論にたどり着いた。正志が心を許している相手が監視をすれば、正志は暴れないのではないか、とね。そして、正志が心を許している相手は、君しかいない」
正志の開発者・高村正伸の娘であり、正志を兄と慕っていた、高村志織。彼女以外に正志の暴走を止められないと考えるのも無理はない。