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第5章 翔と聡太の恋心



相変わらず翔と聡太は同じ部屋。

舞輝と別れて、寮に帰ってきてくつろいでいた。


「なぁ、翔。」

「ん?」

「こないだの話しの続き。」

「こないだ?あぁ、俺さ・・・の後。」

「うん。俺さ・・・多分舞輝のこと好きなんだ。」


翔の動きが止まった。


「なんだって?」

「舞輝のこと好きになっちまったんだ。」


聡太の爆弾発言に翔は慌てた。


「おい、本気か?」

「本気にきまってるだろ?冗談で言ったらお前殴ってたろ?」

「当たり前だ。」


翔は聡太を見た。


「いつから?」

「卒業公演の稽古入ってから。お前と舞輝のダンス見た時、舞輝綺麗だったんだ。でも、俺には翔みたいなリフトできないし、到底、翔や達弥さんに勝てるわけないって思ってた。でも、今日舞輝と初めて踊って気持ちよかったんだ。舞輝、俺と踊って踊りやすいよって言ってくれたんだ。お世辞かもしんないけど、すげぇ自信ついた。」


聡太は顔を赤らめて語った。


「わかるよ、その気持ち。舞輝には不思議な力があるんだ。俺もそうだった。卒業公演の前日、女の子思いのリフトだって言われた。だから本番で最高の踊りが出来たんだ。」

 

 思い出すな・・・

 

 卒業公演の前日。

 二人で遅くまで練習して帰った。

 二人で踊る演目、振りもリフトも完璧な仕上がりだった。

 でも、何かが足りず、二人でひたすら模索していた。

 本番は明日だというのに・・・。

 分かれ道で、舞輝にずっと組んでみたかった、組めて嬉しいと伝えた。

 舞輝は、あたしも嬉しいと言った。

 そして、翔のリフトは女の子思いだと言った。

 俺は、舞輝だからだと言ったが、それは違うと返された。

 一度は別れたのに、舞輝に呼ばれ振り返ると、走って向かってきた舞輝にキスをされた。

 これだって言った。

 二人の踊りに足りなかったもの、それは”愛”という感情。

 二人が想い合う感情。

 舞輝は明日だけ許すと言った。

 一日限定の恋人。

 これで今の名コンビと言われる舞輝と翔がある。

 舞輝の言葉は不思議な力がある。

 

「そんで?どうすんだよ。舞輝には達弥さんがいるじゃないか。」

「もういいって言ってただろ、チャンスかなって思ってる。」

「おい、聡太。」

「俺だって、この気持ちどうすることもできないときがあるんだよ。気持ちは伝えたい、そう思ってる。」

「そうか・・・。俺が口出しすることじゃないしな。でも、舞輝には達弥さんが必要なんだよ、それは達弥さんも同じだ。それはわかっとけよ。」

「ああ。」

 


舞輝はカーテンを開けた。

お向かいの部屋の明かりは点いていない。


 このまま終わってしまうのかな・・・・

 もう、話し合う余地もないの?

 

それを自分から言う勇気はなく、カーテンを閉めソファに腰掛けた。

 

 どんくらい顔見てないんだろう・・・・

 声、聞いてないんだろう・・・・

 今、何してるの?

 

 

「お前、大丈夫か?」


真人が達弥のグラスを取り上げた。


「達弥飲みすぎだよ。」


ここは近くの居酒屋。

廉たちを誘って飲みに来ていた。


「もしかして、まだ舞輝ちゃんと仲直りしてないのか?」


廉が言った。


「ああ。舞輝がわからないんだ。何を考えてるんだか。」

「心当たりはないのか?」

「ない!・・・あっ、もしかしたら・・・・、玲子ちゃんにキスされたとき、舞輝がちょうど帰ってきたとこだったんだ。」

「見られたのか?」

「あぁ。

「それは仕組まれたことだって説明したのか?」



拓が聞いた。


「もちろんだよ。」

「なぁ、達弥。お前大事なこと忘れてないか?」


廉が真剣な眼差しで言った。


「なんだよ・・・大事なことって・・・」

「舞輝ちゃんのトラウマだよ。前の男のことでトラウマがあるって言ってたじゃないか。例え仕組まれたことだとしても、舞輝ちゃんの心の傷は深かったんじゃないのか?」

 

忘れていた。

達弥が一緒にいることで舞輝のトラウマはなくなったもんだと思っていた。

過去は消えても、トラウマはそう簡単に消えるもんじゃない。



「そうかもしれない・・・」

「達弥、しっかりしろよ!舞輝ちゃんにはお前しかいないことくらいわかってるだろ?」

 

廉が言った。

 

「そうだよ。それに、達弥だって舞輝ちゃんがいないとダメなんだから。」

 

拓が言った。

 

「そうだよ・・・俺は、舞輝がいないとダメなんだよ。」

 

 舞輝に会いたい・・・。

 

廉たちと別れて、達弥はフラフラしながら家へ戻った。

酔ったままベランダへでた。

舞輝の部屋の明かりはもう消えていて、ベッドのライトが点いていた。

 

起きているかもしれない・・・

達弥は、棒で舞輝の部屋の窓を突いてみた。

なんの反応もない。 

寝てしまったのかもしれない。

それとも気づかないふりしているのか?

 

達弥は部屋に入った。

酒が入っていてよかったと思った。

素のままじゃ、考え込んでしまう。

明日も仕事だ。

今日はもう何も考えずに眠りたい・・・。

 

「舞輝・・・」


達弥は眠りについた。

 

 

次回作の稽古にすでに入っている。

今日も専用スタジオで行われていた。


「はいっ、休憩入ります!」


舞輝は食堂に行って、いつもどおりこんもりおかずを盛って席についた。


「一緒にいい?」


聡太だった。


「もちろん。翔は?」

「まだ稽古してる、先輩につかまったんだ。」

「何よりもご飯大好きなのに、かわいそう。」


舞輝は笑いながら言った。


「ほんとだな。」

「どう?こないだのディスコの成果でた?」

「あぁ!うまくいかなくて迷惑かけてたとこも今日は出来た。舞輝のおかげだよ、ありがとう。」

「あたしはなんもしてないよ、聡太の実力。」

「翔も言ってたよ、舞輝には不思議な力があるって。」

「不思議な力?」

「うん。舞輝に言われるとすごい自信がつくんだ。踊りやすいよっていってくれただけで自信がついて、今日、相手の子に迷惑かけることなく踊れたんだ。」

「そっか。なんだか照れるな。」

「また、一緒に踊ってくれ。」

「もちろんだよ!あたしなんかでよければ。」


舞輝は微笑んだ。


「舞輝がいいんだよ、俺は。」

「またまた。」

「ホント!翔がずっと羨ましかった。舞輝を独占してて。」

「独占って・・・」


舞輝は苦笑いした。


「翔が舞輝のこと好きだったように、俺も舞輝のこと好きだった。」

「聡太。」

「まっ、翔や達弥さんには叶わないって思ってたから今まで言わなかったんだけど。密かに今も想ってる。」


舞輝は黙っていた。


「でも、舞輝には達弥さんじゃなきゃダメなんだ。俺らは舞輝が笑っててくれればそれでOKだから、なんかあったらいつでも言えよ。俺らの大事な姫なんだから、できることは協力する。」

「ありがとう、聡太。」


舞輝の目に涙があった。


「聡太!何泣かしてんだよ!」


翔がてんこ盛りの皿を持ってやってきた。


「違うの!聡太が励ましてくれたから嬉しくて。」

「舞輝になんかあったら俺たちすっ飛んで行くよ。知らなかった?」


翔は言った。


「知らなかった。」

「バカだなぁ。覚えとけ!」


翔は舞輝の好きな肉を少しわけてやった。


「うん!翔も聡太も大好きよ!」

「おぅ!」


二人は同時に言った。


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