第4章 消えないトラウマ
舞輝は、また同じことで傷つくのではないかと自然に心が達弥を遠ざけていた。
達弥を嫌いになったわけじゃない。
消えきらなかった過去のトラウマ。
舞輝から自然に笑顔が消えていた。
舞輝は怖かった。
それをかき消すために、舞輝は翔や聡太と一緒にいるようになった。
ぽっかり開いた穴。
達弥ではなく、翔や聡太、俊太にまで及んで埋めようとしていた。
いつものように、達弥と舞輝はベランダでおしゃべりタイム。
「明日、どっか行こうか?」
「ごめん、明日なんだけど・・・」
「なんか予定あった?」
「うん、翔たちと、ボーリング大会なんだ。行ってもいい?」
「いいよ、行ってこいよ!あまり翔くんたちと遊ぶことないだろ?楽しんでこいよ。」
達弥は言った。
「ありがとう。」
こんなのが頻繁に続くようになった。
思わずため息。
「なんだよ?ため息なんかついて。」
真人が言った。
「幸せにげちゃうよ〜」
拓も言った。
「実はさぁ、あの玲子ちゃんの事件以来、舞輝と仲直りしたんだけど、様子がおかしいんだ。」
「様子がおかしいって?」
「うん、デートしてても、ベランダで話してても、ないんだ。」
「ないって?」
廉が聞いた。
「ないんだ、笑顔が。」
3人とも、黙ってしまった。
達弥が舞輝を笑顔にさせた。達弥の一番好きな、エネルギー源である舞輝の顔から笑顔がなくなった。
「解決はしたんだろ?」
「あぁ。」
「じゃぁなんだっつうんだろ?」
「ホントは許してくれてないのかなぁ?最近、翔くんたちとばっか遊んでるんだ。」
達弥は肩を落とした。
「舞輝ちゃんに聞いてないのか?」
「聞けないんだ。」
「なんで!」
「・・・・」
「らしくないなぁ。」
廉が言った。
「どうしたんだよ!達弥。笑わない舞輝ちゃんを笑顔にさせたのはお前じゃないか!またお前が笑顔にさせてやればいいんだよ!」
「そうだよ、達弥。」
真人は達弥の肩をポンっと叩いた。
「頑張れよ!」
と拓。
達弥の胸が熱くなったのを覚えた。
その夜、達弥は舞輝をベランダへ呼び出した。
「最近、あんまりデートしてないね。」
「うん、そだね。」
会話が続かない。
「舞輝、何か言いたいことがあるなら言えよ。」
「え?」
「最近の舞輝、様子変だよ。笑わなくなった・・・。」
「そんなこと・・・」
「そんあことあるんだよっ。」
あまり感情的にならない達弥が大きな声を出した。
舞輝の顔が強張る。
「笑ってるんだとしたら、翔くんたちと一緒にいるときなんじゃないのか?翔くんたちと最近遊んでるから、笑ってないって思わないんじゃないのか?俺の前では笑ってないんだよ。」
「・・・ごめん」
舞輝はそれ以外何も言わなかった。
達弥は舞輝がわからなくなっていた。
なんだっていうんだよ・・・
「もう・・・いいよ。」
達弥は部屋に戻った。
「達弥さん・・・」
それ以来、達弥から連絡くることもなければ、ベランダに出てくることもなくなった。
何度か声もかけてみたが、返事がくることはなかった。
ある夜、舞輝は翔と聡太と横浜の本牧にある80年代のディスコサウンドが流れるとこに来ていた。
いわゆるディスコ。
実は、舞輝の父が趣味で経営している飲み屋なのだ。
未成年だからもちろんお酒はダメ。
踊ることが大好きな娘の舞輝が幼い頃に勝手に踊り出したのがディスコサウンドだった。
かわいい娘に免じてソフトドリンクで入店を許可しているのだ。
「すげぇ!」
翔は興奮気味。
「パパのレコード集めの趣味が高じてディスコ開いちゃったの。」
「結構、若い人もいるんだな。」
「そうなの。だから連れてきたの。思い切り踊っちゃおうよ♪」
「おっ、来たな不良娘。」
カウンターの裏から、渋いおじさんが出てきた。
「パパ!翔と聡太よ。」
舞輝が紹介すると、「こんばんは」と言って二人は頭を下げた。
「いらっしゃい、いつも娘がお世話になっています。どうぞ楽しんでってください。」
渋めの舞輝の父はニコッと笑みを見せた。
若い子がいるとはいえ、やはり中心になっているのは中年のおじちゃんおばちゃん。
その踊りっぷりは運動不足を思わせない生き生きとしたものだった。
3人はジュースで乾杯して、しばらくおじちゃん達の踊りを見ていた。
「かっこいい曲ばっかだよな。」
「そうなの。今度決まった舞台にぴったりじゃない?」
「うん。俺も女子との絡みがあるから感覚つかめるかな。」
聡太は言った。
「ところでさ、達弥さんと最近会ってるか?」
「なんで?」
「いやさ、俺達とばっかいるだろ?俺達は嬉しいけどさ。」
「ちょっとね。喧嘩中。」
「早く仲直りしろよ。あれで結構寂しがりやなんだ。」
「知ったような口聞いてるわね。もう、いいのよ。」
「舞輝・・・」
翔が言うと、舞輝は聞き流すかのように、
「聡太、踊ろうよ!」
舞輝は聡太の手を掴んで席を立った。
「え?ああ。」
聡太は慌てて舞輝に付いていった。
二人は真ん中に出ると、稽古でやった振りを曲に合わせて踊りだした。
「聡太と踊るの初めてじゃない?」
「ああ。初めてかも。翔じゃないからうまくいかないかもよ。」
「何言ってんのよ。自信持って。踊りやすいよ!」
舞輝は微笑んだ。
「サンキュー。」
聡太は照れて言った。
「おぃ、俺は仲間はずれか?」
翔がむくれて言った。
「そんなことないよ。踊ろう?」
舞輝は手を差し出した。
3人で踊りだすと、息もぴったりで気づくとお客の注目を浴びていた。
3人が繰り広げるダンスは一つのショー。
他のお客も手拍子や指笛で盛り上げる。
1曲踊り終えると、拍手喝采。
3人は照れながらお辞儀をした。
「きもちぃ〜!」
舞輝はカウンターに戻ると、ジュースを一気飲みした。
「初めてだよ、こういうとこで踊ったの。」
聡太が言った。
「いいでしょ!たまには。」
「ああ、楽しい!」
翔は汗を拭きながら言った。
「たまに来ようよ、息抜きにもよくない?」
「仲いいんだな。」
舞輝の父がジュースのおかわりを持ってきた。
「アカデミーのときからこの3人は何故か仲がいいんです。気が合うというか。」
「そうなんだよね。必ず新幹線もくっついて座ってるしね。」
「そういう友達は貴重だぞ。大事にしなさい。」
「はーい!」
3人は答えた。




