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第2章 ありきたりな罠



劇団員になった舞輝は、地方公演に出るようになった。

地方といっても、大阪に専用劇場があり、1作品で東京公演と大阪公演とあるのだ。

東京公演を終え、今、大阪公演の真っ最中。


達弥は、ライブハウスでのイベントや、バラエティー番組の収録と大忙し。


「お疲れ様です!」


クイズ番組の収録後、タレントの玲子レイコに声かけられた。


「お疲れ様。」

「この後、食事いきません?」

「いいよ。」

「わぁ!嬉しい!じゃ、どこにします?」

「廉たちに聞いてくるよ。」


達弥は楽屋に戻って行った。

玲子は、誘ったのは達弥だけであって、s-wingじゃない。


「ちっ。」


結局、4人と食事に行くことになった玲子だったが、めげなかった。


「達弥さんって、お付き合いしてる人いるんですか?」


すると、聞いてもいないのに廉が答えた。


「こいつには超―かわいい彼女いるんだよ。」


達弥は少し照れているようだ。


「ふーん。残念。あたし達弥さんの大ファンなんです。」

「どうも。」


食事会はお開きとなり、外に出た。


「じゃ、俺達駅に向かうよ。」


廉と拓。


「俺歩く。」


真人。


「俺、タクシーで帰る。」


と、達弥。


「玲子ちゃんは?」


廉が聞くと、


「あたしもタクシーで。」

「じゃぁ、達弥に玲子ちゃんまかせるよ。じゃぁな!」


解散となった。


「どっち方面なんです?」

「新宿方面だよ。」

「あたしもなんです!」

「そうなんだ!」


達弥はタクシーを捕まえると、玲子を乗せ、


「運転手さん、しっかり送り届けてね!じゃぁ、おやすみ。」

「え?達弥さん!」


達弥は乗ることなく、ドアが閉まって車は発進してしまった。


「お客さん、どこまで行きます?」

「知らないわよ(怒)」

 

 

玲子はこれだけじゃ諦めなかった。

仕事が一緒になる度に達弥に声をかけ食事に誘った。

誘うたびに廉たちもくる。


今夜はそうさせないんだから・・・。


「達弥さん!」

「あぁ、お疲れ!」

「あの・・・」


玲子は俯いて何かを言いかけた。

「どうした?」


「相談したいことがあるんです。いつもみなさん一緒でなかなか言えなくて・・・。」

「俺でよければ聞くけど・・・。」

「ホントですか!嬉しいです!じゃぁ、19時にこのお店に来てください。私、打ち合わせが1本あるのでそれ終わったら行きますから。」

「わかったよ。」


達弥は楽屋に戻って行った。

玲子はニヤっとし、携帯を取り出した。


「あ、もしもし。今夜うまく行きそうよ。」


達弥は時間通りに玲子の指定した店に行った。

遅れること10分、玲子も到着した。


「ごめんなさーい!打ち合わせ長引いちゃって。」

「いいよ。」

「ワインでも飲みません?」


玲子はワインを頼んだ。

ウエイターがワインを持ってくると、玲子はグラスを持って、「乾杯!」と言った。

乾杯。」


グラスとグラスが綺麗な音をたてた。

綺麗な音と共に、店の外でも、シャッターがおりる音がした。


「いただき♪」


結局、玲子が一人で自分のことを喋り続けただけだった。

別れ際、


「私、達弥さんが好きです。」

「え?」

「必ず、達弥さんをものにしてみせます!」


玲子はニコッと笑ってタクシーで帰って行った。


なんだったんだろうな・・・。


その後も、玲子からのしつこいアプローチがあり、達弥は少し疲れていた。

舞輝の声が聞きたい。

でも、舞輝も毎日ハードなステージで疲れているだろう。

帰ってくるまでの我慢。

達弥はソファーに横になり、ケータイをしまった。



数日後。

朝早くに、電話が鳴った。


「ハイ・・・。」


事務所からの電話だった。

週刊誌に玲子と食事をしているとこを撮られたという。

しばらく仕事はマネージャーが送り迎えすることになり、自宅待機となった。


よかった、今日は休みで。

でも・・・舞輝とは撮られないのになんで玲子ちゃんとは簡単に撮られちゃうんだ?


廉から着信があった。


「おぃ!どういうことだよ?」

「こっちが聞きたい。」


達弥は撮られた日のことを話した。


「お前ってツイてなさすぎ。断れよ。」


廉も呆れ口調。


「相談したいとか、話しかけられるくらいじゃ断れないだろ?」

「まぁな。達弥は優しいから。」

「舞輝ちゃんは知ってるのか?」

「まだ連絡してないんだ。知らなかったらその方がいいから。大事な舞台の最中に心配かけたくないだろ?」

「週刊誌だったら、忙しい舞輝ちゃんの目に入る可能性が低いってか。なんもないといいけどな。」


廉の意味深な言葉がホントになろうとは、このとき達弥は思いもしなかった。



「やったな、玲子。」


ホテルのベッドで男が札束を持って浮かれている。


「てこずったけどね。いつもみんな一緒なのよ、気持ち悪い。」


玲子はタバコをふかしながら、男が持っている札束を取り上げて数え始めた。


「まじサンキューな!これで借金返せるし、ハワイでも行く?」


男は嬉しいそうに玲子の肩に腕を回した。


「まだよ。」

「何が?」

「達弥には女がいるのよ。別れさせないと。」

「達弥の家まで押しかけて、帰り際にキスするわ。撮りなさいよ。今度はそれを売ればいいじゃない。二股男をつくりあげて。」

「玲子が他の男とキスするのはいまいちだけど、悪い話しじゃない。ヨーロッパでも行くか?」

「決まり。じゃ、また連絡するわ。」


玲子はベッドから出ると、バスローブを羽織りシャワールームに向かった。


「待てよ。」


男が玲子の腕を掴み、無理やりキスをした。


「やめてよ。」

「まだ帰さない。」


男は玲子をベッドに引き戻した。



達弥は通常通り、毎日の仕事はこなしながら迷惑かけた人にお詫びの電話を入れたり、達弥の疲れはピークに達していた。

達弥は今夜だけは、誰とも喋りたくなかったから電源を切って早めに眠りについた。

舞輝の舞台が今日千秋楽だったことを忘れて・・・。


その頃、千秋楽を無事に終え、ホテルのマッサージチェアーで疲れをとっていた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー。」

「舞輝気持ちよさそう。」


同期の恵美も隣でマッサージチェアーに座った。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー。」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー。」


舞輝は、ふと無意識に週刊誌に手を伸ばした。

雑にぺらぺらめくっていくと、「達弥」という文字が目に入り手を止めた。

前にも1度あった、女の人とスクープ写真。


玲子?誰?


舞輝は、書かれている内容を読んだ。


しばしば二人でいるとこを目撃されている情報をキャッチ。

グラビアアイドルの玲子を追いかけていたら、都内某所のレストランに入っていった。

そこで待っていたのは、s-wingの達弥だった。

ワインを注文したのか、ウエイターがワインを運んできて乾杯。

二人は何に乾杯していたのだろうか・・・・。


なにこれ。

ただ乾杯してるだけじゃないの。

また、なんかの間違いで、きっと達弥さんがちゃんと話してくれる。


舞輝は部屋に戻ってケータイを取り出し、達弥にかけてみた。


『おかけになった電話は電波の・・・』



繋がらない・・・

達弥さんをを信じていないわけじゃない。

でも、こんなタイミングよく電話が繋がらないのが気になる。

そういえば、大阪にいるときはあんまり達弥さんと電話もメールもしない。

頑張って!とか、おやすみとかそんな短いメール。

あたしも、忙しいだろうからって、落ち込んでて声が聞きたくても心配かけたくなくて電話できなかったり。


達弥さん、今何してんのかな・・・。

明日になれば東京にもどる。

そしたら、真っ先に達弥さんのとこに行こう。


舞輝は布団をかぶって無理やり目を閉じた。


翌日、東京へは新幹線で戻る。

翔や聡太とトランプをしながら気を紛らわした。


「舞輝?大丈夫か?」


翔が、時折見せる暗い表情に心配して聞いた。


「え?」

「ときたま上の空。なんかあったか?」


一緒にいる時間が長いだけあってよく見ている。


「ううん、大丈夫。」


舞輝は笑って見せた。


「ならいいけど。」

「あっ!お弁当食べよ!」


舞輝が買った駅弁を出した。


「おっ、思いつかなかった。さすが舞輝。なんかこの辺りに違和感が。」


翔はお腹を押さえて言った。


「そうそう、違和感がね!」


舞輝も納得している。


「わからん。」


聡太は眉をしかめた。


「聡太は少食だからね。」


舞輝は言った。


「俺、食べる方だぜ?お前ら二人が異常なんだよ。」

「失礼ね。レディに向かって。」


舞輝がむくれると、翔がケラケラ笑い出した。


「何?」

「いや、俺らって超仲いいなって。サイコーの仲間。」

「間違いない!」


舞輝と聡太は同時に言った。

舞輝は、翔たちと一緒に居るときが一番笑っていると思った。

なんでも前向きにさせてくれる。

だからって、悩んでる舞輝が自分から話すまで何も言わずそばにいてくれる。

こいつらはあたしの宝。

達弥さんとは違う安心感。

東京に到着して、寮の前で翔と聡太と別れ家に向かった。


達弥さん居るかな・・・


ずっと声を聞いていないような気がして向かう足も速くなる。


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