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 夜が明けて、わずかな仮眠を取ったアクア達は、縛り上げた人魚達を村長に引き渡した。村長は村の役職に就いている者達と人魚姉妹を集め、尋問を始めた。


「俺たちゃ、里の嫌われモンでな……」


 俯いて目を閉じたまま黙っているリーダーに代わり、金髪の男が答える。男達のリーゼントは萎れているが、フェリルが治療したこともあって、体調に問題は無さそうだ。殺してしまわなくて良かったと、アクアは密かに胸をなで下ろす。


「居場所がないはぐれモン同士、里を飛びだし荒波に飛び込んだんだ」


 周りを伺い見ると、村長らは男達の頭を見ながら、なんとも言えない表情をしていた。その後ろでフェリルが「どこかで聞いたような話だね」と小声でヴァインに話しかけている。ヴァインは答えず、苦虫を噛んだような顔をしている。


「流れに流れた俺たちは、数々のワルを重ねながら、やがてこの入り江にたどり着いた。そして--俺たちの女神を見つけたんだ……!」


 リーダー以外の男達は、揃って人魚姉妹に熱い視線を注ぐ。その様をアルテミスが冷たい目で見ている。

 「女神を寄越せとか言うなよ」とガデスが呟いたので、アクアも頷いておいた。金髪の男はそれを聞いてうなだれる。それと入れ替わるように、それまで俯いていたリーダーが顔を上げた。覚悟を決めたとばかりに強い眼差しで、村長を見る。


「こうなりゃもう、みっともねぇマネはしねぇ。刺身なり煮付けなり、好きなようにしやがれ!」


 村長はなにも言わず、じっとその目を見ている。人魚姉妹は成り行きを見守っているようだ。

 やがて村長は、口を開いた。


「--ほんとうに、好きにしていいんじゃな?」


「おう、男に二言はねぇ」


「そうか。……ならば壊した船の弁償として、漁を手伝ってもらおう! それでよいな、みんな」


 村長の下した判断に、村人達は一様に頷いた。人魚の男達は、唖然とした顔で村長を見ている。


「里の嫌われモンだったってぇなら、俺らがその根性鍛え直してやるよ!」


 漁師のまとめ役だという男が、まかせろと言わんばかりに胸を叩く。人魚姉妹は目に涙を浮かべて村長に礼を言っている。

 アクアはその様子を見て、安堵の息を吐いた。


「きれいにまとまったね。ペルキアの自警団に引き渡してくれって言われたら、どうしようかと思ったよ」


「村が寛大でよかったな」


 アクアがフェリルと話しながら頷いていると、人魚姉妹が側に来た。


「本当に、本当に、ありがとうございました!」


「お陰様で村の人々も、私たちも、同胞も助かりました!」


「ああ。いや、できる事をやったまでだ」


 感謝されるのが気恥ずかしくて、アクアはそっけなくそう返す。それでも人魚姉妹は喜びの涙を浮かべて、何度もアクア達に礼を述べたのだった。




 軽い疲労を覚えながらも街道を歩き、アクア達は昼過ぎにペルキアに戻ってきた。ヴァインに頼んで飛んでもらうという手もあったが、それでは街道で何か事故などが起こっていても気付かず通り過ぎてしまう可能性があるため、結局徒歩での移動になった。

 町に着いたアクア達は、ひとまず休憩を取ることにした。アルテミスはガデス達と同じ「波間の止まり木」亭に、アクアは「陸の海鳥」亭に戻る。

 「陸の海鳥」亭に入ると、ザックスがバケツを片手にゴードンと話しているところだった。二人はアクアに気が付くと手招きをする。


「おう、お疲れさん。疲れた顔してんなぁ」


「ああ、まあ……色々とあったんだ」


 ゴードンの言葉にそう答えると、彼は疲れが取れるからと、ミルクセーキを作ってくれた。バニラの良い香りと程良い甘さが、倦怠感を和らげてくれる。


「ところで、そのバケツは?」


 ザックスが持っているバケツを覗き見ると、小振りのイワシが十数匹浮いている。


「学者先生から連絡が来ねぇんで、釣りに行ってきたんだよ」


 大漁だろう、と自慢げに話す。ユグドラシル自治領からここまで来るには2〜3日掛かるため、ペルキア行きの船に乗る前に、連絡を入れる約束になっているらしい。


「なるほど。船に乗れば、翌日にはこっちだからか」


「おう。なんで、早くて明後日ぐらいにゃなるんじゃねぇか?」


 特に難所もないんだが歩き慣れてないのかもな、などとザックスは予想を立てる。


「まあ、明日も釣りだな。アクア、良いポイント知ってっか?」


「いや、海釣りはしたことがないな」


「こいつぁ、この前まで仕事以外引きこもってたからな」


 からかうような口調で補足され、アクアは非難の目でゴードンを見た。しかし、まさにその通りなので否定できない。


「……ここ数日はちゃんとしてるだろ」


「おう、すっかり更生したな」


 非難の目をものともせず、ゴードンは「よかったよかった」と深く頷く。何か言い返してやろうとアクアは口を開きかけたが、ザックスの提案に遮られた。


「よし、じゃ明日は俺と一緒に釣りな」


「--へ?」


 突然言われてきょとんとするアクアを余所に、ザックスは勝手に話を進めていく。アクアが気付いたときには、早朝に釣りへ出かけることが決まっていた。


(7に続く) 

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