アウトオブあーかい部! 〜部室棟 乙女の干物 集まりて 怠惰を極め 綴るは実績 電子の海へ あゝあーかい部〜 58話 債務者
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
土曜日の朝9時。
きはだがとある公園のベンチに腰を下ろしていると、腰まである藤色の髪をフワフワと上下に揺らしながらこちらに歩いてくる少女の姿を見つけた。
「お……おはよーございます///」
「おはよぉウィスタリアちゃん。」
いつもはきはだを見つけるなり快晴の笑顔を見せるウィスタリアが今日は恥じらいいっぱいと言う様子でモジモジしていた。
「やっと自覚したぁ?」
「べ……別に恥ずかしい訳じゃないですっ!///」
今日のウィスタリアはちっちゃいツバがあるベージュ色の帽子を被り、ベージュ色のトレンチコートを纏い、ダークブラウンのブーツを履いて、ポッケから丸い虫眼鏡を覗かせていた。
「うんうん、可愛いねぇ探偵さん♪」
「かわ……いい……?」
「やっと自覚したぁ?」
・・・・・・。
「…………なッッ!!??//////」
「な〜んてね♪いつもダル絡みされてるお返しだよぉ♪」
「……テンチュー!」
ウィスタリアはベンチに座るきはだの背後に回ると、首に親指をグッと突き立て全体重を傾けた。
「い"た"た"た"た"た"ぁ"ぁ"あ"あ"!!??」
きはだは堪らず大きくのけぞりそのままベンチから立ち上がった。
「……ふんっ!///」
「いきなり何すんのぉ!?」
「乙女のジュンジョーを弄ぶのは万死です……!///」
ウィスタリアはほっぺを膨らませてそっぽを向いた。
「悪かったってぇ……。」
「……じゃ、デート行きましょ♪」
ウィスタリアがきはだの手を引いた。
「お買い物ねぇ?」
「……。」
ウィスタリアが手を引く力が強まった。
「いた"た"た"!?千切れちゃうっ!?」
「切ったら増えますか……?」
「きはだちゃんプラナリアじゃないよぉ……。」
そのまま2人は近所のショッピングモールへ移動した。
「なんだか、ウキウキしますね♪」
「するねぇ。」
「まずは本でも
「服みるんじゃないのぉ?」
・・・・・・。
「じゃあ、いったん雑貨でも……。」
「一緒に行ったげるから逃げないの。」
きはだはウィスタリアの袖を引っ張った。
「ヤです!?無理無理ッ!?コスプレ以外の私服なんて〜!?」
そんなこんなでブティックコーナー。
「うぅ……///」
「お化け屋敷じゃないんだから……。」
いつの間にかウィスタリアの方がきはだの袖を摘んで引っ張っていた。
「大丈夫大丈夫、服も店員さんも取って食ったりしないから。」
「で、でも……、『おい見ろよ!こんなとこに豚が迷い込んでるぜ!?』とか、『大丈夫?迷子センター一緒に行く?』とか……!?」
「うんうん、洋画にありがちな田舎っぺやじりもないから大丈夫だってぇ……。」
「でも……ッ!バックヤードで『見た〜?あの芋女、探偵コスとか無いっしょw』とか、『ちょwwwマジ無理wwwホームズごっこ腹筋崩壊www』とかぁ……!」
ウィスタリアは涙目できはだに縋りついた。
「ウィスタリアちゃん演技上手いねぇ……。」
きはだはズルズルとウィスタリアを引きずってお店の奥の試着コーナーへ押し込むと、試験に着ていけそうなフォーマルな雰囲気の服をいくつか見繕った。
「……さあどうよ?」
きはだは自信満々にふんぞりかえっていると、試着室の中からハキのないウィスタリアの声がした。
『可愛い……けど……。』
「もしかしてサイズ合ってなかったぁ?」
『いえ、ピッタリですけど……その///』
「じゃあ問題ないねぇ。」
焦ったくなったきはだは試着室のカーテンを開けると、
「ぁ……」
きはだがチョイスした私服に身を包んではいたものの、まるで暴漢に襲われてでもいるかのように怯えきって自身の身体を強く抱き締めるウィスタリアの姿があった。
「…………ごめん。」
いつもの銀河のような輝きを微塵も感じさせないウィスタリアの瞳を見て、思わずきはだは謝って試着室から出ると、そっとカーテンを閉めた。
『……ごめんなさい。キハダさんが選んでくださった服……ちゃんと、オシャレなのに……。』
ウィスタリアの声が震えていた。
「……ゆっくりでいいよ。」
「ありがと……ございます…………。」
ウィスタリアが元の探偵服に聞いた着替えて試着室から出てくるまでの気まずい沈黙がきはだには無限に感じられた。
「……お待たせしました。」
試着室から出てくると、ウィスタリアは快晴の空にセピア加工でもかけたような、どこか物悲しさを感じさせる見え見えの空元気できはだに微笑んで見せた。
「う〜ん……、」
きはだはこの気まずい状況をどうしたものかと、腕を組み唸って思考した。
(さっきのウィスタリアちゃん、明らかに様子が変だった……。『ちゃんとオシャレなのに』って言ってたから自信がないとか恥ずかしいとかは違うよね?……『自称看板娘』って言うくらいだし。)
「キハダさん……?」
(となると私の知らない、何か特別なコンプレックスがある……。ここで安直に私服を褒めるのは不味い気がする……!)
「よしっ!」
「っ!?」
ウィスタリアは唐突に声を張り上げたきはだに驚いて縮み上がった。
「こんどはわたしがウィスタリアちゃんのコーデに着替えよう。」
「…………へ?」
ウィスタリアは目をパチクリさせた。
「でも、わたくし……私服のセンス壊滅的ですし
「だから、その探偵服。」
きはだはウィスタリアの胸元をまっすぐ指差した。
「明日着てくから、売ってるところ教えて?」
「ええ!?」
「なにおう、きはだちゃんには着こなせないって言いたいのかぁ!?」
「い、いえ……そんなことは
「じゃあ決まりぃ〜、ほら案内して?」
きはだは目にも留まらぬ速さでウィスタリアが試着していた服を元の場所に戻して来ると、そのままウィスタリアの手を引いて店の外に出た。
「ちょっ、きはださ〜ん!?」
有無を言わさず近場を連れ回され、お昼過ぎ……。
「よっしゃあ〜、コンプリート……!」
2人の探偵はショッピングモールの休憩スペースにあるベンチに腰を下ろした。
「まさか本当に一式揃えるなんて……。」
「フッフッフ……、これで明日はペアルックだねぇ?」
「……!?」
「おおっと、きはだちゃんのお財布のライフ、ぜ〜んぶ吹っ飛んだんだからねぇ……。わたしを債務者にしておいて、まさか拒否なんてしないよねぇ債権者様?」
時代劇の悪役のような悪い笑顔をウィスタリアに見せた。
「ペア……ルック…………。」
ウィスタリアは譫語のようにきはだの言葉を反芻していた。
「そうそう、これでウィスタリアちゃんの服装問題はめでたく解決!編入試験の服装に規定なんてないからねぇ?……う〜ん、我ながら妙案♪」
「…………なんで、そこまで。」
「ん〜?」
「キハダさんに何の得もないのに……。」
「うんうん、寧ろ大赤字だねぇ。」
きはだは自虐気味に笑ってみせた。
「……でも、投資ってそういうものだよねぇ?」
「投資……?」
「きはだちゃんにとって、未来の同級生との縁はそれくらい魅力的ってことさ。」
「…………。」
ウィスタリアは言葉を失い、ちっちゃくなった瞳孔できはだを見つめていた。
「…………逆にプレッシャーだっ
「そんなこと……ありません。」
ウィスタリアの表情からセピア加工が消え失せた。
「……………………、」
胸がいっぱい、と言う様子で言葉を吐き出すのに奮闘するウィスタリアを、きはだはただ見守った。
「……………………、あぁ。」
ウィスタリアから最初に出たのは言葉ではなく、柔らかい感嘆の声だった。
「なんて…………なんて、
「……♪」
「心強いのでしょう……♪///」
ウィスタリアの言葉が形になりだした頃、こんどは銀河のような瞳から透き通った涙がこぼれ出した。
「そりゃあ良かった♪」
「……………………、ごめんなさい。」
「お金のことならもういいよぉ……。」
「そうではなくて。」
ウィスタリアは人差し指で涙を拭うと、ギュッと肩を上げて深呼吸した。
「……キハダさんには話しておかないといけませんね。」
「何を?」
「わたくしが私服を怖がるようになった理由……。」
「無理しないでいいよぉ。」
「いえ、話させてください。わたくしがそうしたいんです♪」
「そっかぁ。」
ウィスタリアはゆっくりと、重い唇を一生懸命動かして言葉を紡いでいった。
その内容は、かつてクラスメイトの誕生パーティーに精一杯のおめかしをして行ったところ、クラスメイトの母に男の子と間違われそれを他のクラスメイトに笑われたというものだった。
「……そっか。」
「…………それ以来、選んだ人のセンスが出てしまう格好をするのが怖いと思うようになりました。」
ウィスタリアは腰まで伸びたフワフワの藤色の髪を身体の前に回すと、手櫛をかけるように指で弄りだした。
「この長く伸ばした髪だって、気休めのようなものなんです……。」
「……、」
「早いところ克服しなくては、と思うのですが……。」
・・・・・・。
ウィスタリアがひとしきり語り終えたのを確認すると、きはだはポツリと呟いた。
「克服なんて、しなくていいんじゃないかなぁ?」
「へ……?」
「私はポッと出の他人だから悲しい過去とかよくわかんないけどさ?」
「……。」
「無理して私服着て辛い顔してるウィスタリアちゃんよりも……コスプレしてお星様みたいに笑ってるウィスタリアちゃんの方がぜぇぇぇぇえったい……!可愛いし私は好きだよ♪」
「!!??//////」
ウィスタリアの顔が発火した。
「それでも自信が持てないなら……、
「な、なん……ですか……///」
ウィスタリアは目を合わせられず顔を覆い隠した両手の隙間越しにきはだを見た。
「隣に座ってるチンチクリンはどうなるんだちくしょぉぉお!?」
「……………………、は?」
ウィスタリアは呆気に取られて両手を下ろした。
「ペアルックなのにこの差はなんだぁ!?おおん!?小さいからか……!?」
きはだは地面に向かって渾身の叱責をした。
「……………………えと、
「隣にくっっそスタイル良いしめっっちゃ夢かわヘアーな美少女がいるせいできはだちゃんが霞む霞む……ッ!」
「あの……、
「それともなんだ……?きはだちゃんがおチビだからコートも帽子もチンチクリンに見えるのかちくしょうめぇぇえ……ッ!!」
「キハダさん……?」
「なに……!?」
きはだは八つ当たり気味に返事した。
「ありがとう……♪///」
「……ケッ。」
きはだはそっぽを向いておもむろに立ち上がると、
「少なくとも明日、ウィスタリアちゃんは誰が何と言おうともきはだちゃんより可愛いから……!」
ウィスタリアに背中を向けたまま捨て台詞を吐いてみせた。
「……はい。明日、編入試験はこの探偵服で行きますね……♪」
「はいはい。……ったく、きはだちゃんが債務者なのを良いことに。」
きはだは大袈裟にため息をつくと、
「そんじゃ、また明日。」
そのままスタスタとウィスタリアの前から去って行った。
・・・・・・。
取り残されたウィスタリアは被っていた帽子をとって膝の上に置き見つめた。
「これでは、どちらが債務者なのか分かりませんね……♪///」
翌日。日曜日。
……編入試験当日。
ウィスタリアがとある公園のベンチに腰を下ろしていると、ドラマチックなフルマラソンのゴールを演出するかのように、息を切らした探偵服姿のきはだがヘロヘロになって隣にへたり込んだ。
「ま……間に合った……。」
「ネボーですか……?」
「…………そんなとこ♪げほっ……。」
「まさか、本当にペアルックにしてくるなんて♪」
「債務者に人権はないからねぇ。……あっっつ。」
きはだはコートをパタパタさせて熱を逃した。
「熱いなら脱いでしまえば良いのに……。」
「へっ……、やなこった♪」
きはだは奥歯を食いしばって精一杯の強がりな笑顔を見せた。
「それじゃあ行きましょうか?我が学舎へ♪」
「うへぇ……昇降口までねぇ?」
「え〜……。」
池図女学院の編入試験当日、探偵服姿の少女が2人、校舎へと足を踏み入れた。




