少し気分のいい金曜日
初めて書いたのでいろいろて下手なのですが、できたら我慢して見て、感想でもくれたら嬉しいです。
「ねぇ、蛍」
「今、忙しいから後にして」
綺麗な声に対して、振り向きもせずに言葉を返す。
なぜかって、そりゃあ面倒だからだ。
別に話しかけられたくらいで面倒なんて、と友人代表の宇治川くん(年齢=彼女いない歴)は言うけれど面倒くさいものは面倒くさいのだから仕方がない。
「忙しいって、ゲームしてるだけでしょ」
「………」
呆れたような声に対して、無言の応対をする。
だって、相手をすると疲れるのだ。
俺にとっては他人の話を聞くよりも一人桃鉄をしていたほうが三.二倍は楽しい。寂しい奴と思われるかもしれないが、俺はゲームは一人桃鉄以外はやったことがないし、やろうとも思わないから仕方がない。
友人代表予備の畠山くん(現在四股中)に、なんか可哀想だなと言われたけれど気にしない。本当に気にしてない。本当に絶対気にしてなんかない。
「とりゃ」
少し悲しくなる考えを頭から振り払い眼前の液晶テレビに集中しようとした瞬間、掛け声とともに足が目の前に現れPS2が吹っ飛んだ。
綺麗に曲線を描き壁に激突。
ソフト(といえばいいのだろうか)を入れる場所が本体から飛び出し、哀れな姿となった。
………壊れたな、あれは。
「何するんですか?馬鹿ですか?あなたは馬鹿ですか?普通蹴らんでしょ。阿呆なんですか?いっそもう塵になって消えてください。お願いします。ってか消える前に弁償しろよ」
「蛍が無視するのが悪いんでしょうが」
さすがに無視する訳にもいかず、振り向くと無駄に整った顔を歪めて十数年来の幼なじみが俺を責めた。
話は変わるが、この幼なじみこと、重森有希はとても、かなり、びっくりするくらい美人である。
百六十五センチの女子にしては高い身長、細い身体にすらっと伸びた脚が更にスタイルをよく見せる。
凹凸が少ない、というか胸があまり大きくない、ってか小さいところが残念だが本人はまだ成長途中と言っているから今後に期待。
小さい顔は雪のように白く目は切れ長の二重、少し高めの鼻に薄くて小さな唇。
百人がみれば九十九人が美人と呼ぶであろう容姿をしている。
ちなみに運動神経もよく、高校二年に上がったばかりにもかかわず、女子バスケ部では不動のエースらしい。
勉強が少し苦手なため完璧超人ではなく、性格も気さくということで他人から好かれ、男子だけでなく女子もかなりの数が有希に告白している。
今年に入ってから告白された回数は十四回。そのうち十一人が男子、三人が女子。
どんな子も選びたい放題、下手すりゃいっぺんに何人もの子たちと付き合えちゃう感じの人間バイキング状態であり非常に羨まし…ゲフンゲフン、けしからんことこの上ない待遇なのだ。
まぁ一言でいえば、むかつく奴である。
「いや、物壊した時点で有希が悪いから。器物破損だからね。いいから、まず俺に謝って弁償して、ついでに貯金全部下ろして俺に愛の募金をして首つってこの世とサヨナラしてくれ」
「あー。わかったから、それはまず置いといて」
「置いとくなよ。せめて弁償はしろよ。」
「うるさい。いいから、あたしの話を聞け」
首もとを掴み、少し低い声で幼なじみの男の子を脅す妙に迫力のある美人。
なんでしょうか、このシュールな絵は。
つーかマジで恐いです。ちょー恐いです。助けてードザえもーん。
「いや、あの、すいません。まじすいません。許してください。ごめんなさい」
もちろん現実では未来の猫型ロボットは助けてくれるはずもなく、いじめられっこののぶ太くんはジェイアンには逆らえずにひれ伏し許しを乞うかない。
………まてよ。この場合のぶ太くんをいじめているのはジェイアンでなくしずこちゃんになるのか?
いやいやいや、僕らのアイドルしずこちゃんがそんなことする訳ないだろ。はははっ。
………でもだ。よく考えたらしずこちゃんはジェイアンたちとも仲がいいわけだし、もしかしたら実はのぶ太くんを嵌めてより一層苦しめるために、わざとのぶ太くんに対して優しく接し、後々のぶ太くんを裏切るという算段だとしたら………しずこパネェよ。
「そこまで謝らなくても…」
「しずこちゃん俺は騙されないぜ!!」
「…………頭大丈夫?」
「………………えっと」
思わず口走った言葉に対して冷静な返事を冷たい視線とともに返される。
なんと恥ずかしいことか。
穴があったら入りたい状況とはきっとこんな感じなんだろう。
驚くほどに顔というか身体全体が熱くなる。
おそらく有希の目には顔を真っ赤にした俺の姿が映っているのだろう。
いったいぜんたい何の羞恥プレイですかこれは。
閑話休題。
「ごほん。それで話とはなんでしょうか」
正座をして俺のベッドに座る有希に目線を送る。
なんで、俺の部屋なのに有希がベッドの上で部屋主である俺が床に正座なのかとか、
なんかこの状況って上下関係がすぐにみてとれちゃうよねとか、そもそもなんで俺の部屋に有希がいるんだよとか言いたいことは山ほどあるが、そこは大人の対応プライスレス。
少しの間見つめ合ったあと、有希が口を開いた。
「今日告白されたんだよね」
予想通りの話題。
「……へぇ。誰に?」
それでいつも通りの返答。
「えっと、たしか三年の山城先輩っていったっけな」
こんなやり取りをするのは何回目だろうかと考てみたりする。
中学一年の時から数えると確か九十二回目だったなぁと思い出せる自分がいる。
俺に喧嘩を売りたいのか、自分はもてるのだと自慢したいのか、それとも何も考えもせずに挨拶みたいな感じで報告するのかはしらないが、有希は告白をされる度に俺に言ってくる。
多少そのもてっぷりを羨ましく思い、どうにかして入れ替わるためには何をすればいいのか、ドラゴンホールってどこのゴルフ場にあって、チェンロンにお願いすればこの微妙な願いは叶うのかみたいに毎回考えを巡らせる。
「で、俺にどうしろと?」
「うん。いつものお願い」
前言撤回になるが、有希が告白される度にこの部屋に来るのは陰湿ないやがらせなどではなく、ある目的の為である。
いつものと言われ、直ぐに正座を止め立ち上がる。
正座なんて柔道の授業のときくらいにしかしたことないため、少し足が痺れてしまったが別に気にすることなく、机の引き出しに鍵を差し込み一冊のノートを取り出す。
えーっと、三年の山城、やましろ。
ページをめくり暫くするとノートにある山城達也という項目がみつかる。
箇条書きにしてある個人情報をみると、まぁ驚くほどに山城先輩が優秀だということが分かった。
「どう?」
「えっとですね。山城達也。十八歳。百七十五センチ、六十九キロ。サッカー部部長で去年は都の得点王に輝いています。勉強のほうも優秀で先日行われた中間テストではなんと学年六位。ちなみに好きな食べ物はかっぱ巻き」
書いてあることを読んでいくと、なんか悲しくなっていく気がするが気づかないふりをする。
スペック高すぎだろちくしょうめ。
「そんなのどーでもいいから」
ばっさりと言い放つ美人さん。
山城先輩可哀想に。
これだけ有能ならさぞかし自分に自信があるだろうに、告白した年下の女の子にどーでもいいと言われてしまいました。
ご愁傷様です。
とはいうものの俺は山城先輩がどうなろうと知ったこっちゃないので有希が知りたい項目を続けて読む。
「中二の時に初彼女が出来てから、今までに合計で六人のこと付き合ってます。余談になるけど初体験は中三のとき二人目と山城先輩の部屋で済ませたみたいです」
おい、なんだよこのリア充。
死ねよ。死んでくれよ頼むから。うまい棒十本あげるから。
余りでいいし、お下がりでもいいから一人くらいくださいと今度土下座でもしに行こうかと考えてしまう負け組な自分が虚しい。
必要事項を言い終わり有希に顔を向けると、眉をひそめていた。
「あーあ。またハズレかぁ」
「またハズレだね」
がっくりと肩を落とした有希に慰めのつもりで飲みかけのコーヒーをわたす。
受け取ったコーヒーを直ぐに飲み干したあと落ち込んでますよというふうな表情でこちらを見てくる。
「どうして、こう、ダメなのかなぁ」
「なんでだろうね」この眼前にいる幼なじみは、かなりロマンチストなのである。
小さい頃から少女漫画が大好きで、私もこんな恋がしたいと口癖のように言っていた。
現在、彼女のお気に入りは君へ届けという漫画で、この漫画に出てくる男の子は彼女の理想のタイプらしい。
そんな美人さんが相手に求める最大のことは自分が相手にとって初めて彼女であるということ(他にもいろいろと条件はあるが)。
自分も相手も初めての恋人でそこから紆余曲折あり、恋だか愛だかを育んでいくことに憧れを抱き早一六年、一向にお望みのお相手は現れずかれこれ何人もの実力者たちを退けてきたのだ。
それも当然、この年になって有希に釣り合うくらいの男子に今まで彼女がいなかったなどあり得るはずがない。
高二にもなって彼女ができたことない奴なんてのは、俺や宇治川くんのような悲しい男だけなんだから。
「そういえば、今更なんだけどさ」
「何?」
不意に話を変えてきたことに戸惑う。
だいたいこの話をした後は有希の愚痴を一時間ほど聞くことになるため違和感を覚えた。
「蛍のそのノートってどうやって作ってるの?」
「企業秘密です」
なるほど、本当に今更だなとか思いながらノートに目を落とす。
このノートには俺たちが通う学校の個人データが全て載っている。
身長体重、家族構成、友達関係、好きな食べ物に好みのタイプ、果ては初体験の場所からその時とプレイスタイルまで個人情報保護法なんてクソくらえというくらいいろんなことが書いてある。
俺の趣味による賜物である。
どうやって作ったかと聞かれれば企業秘密です。
普段は自分一人で 見てニヤニヤするために使うだけなのだが、有希がどうしても告白された相手の恋愛遍歴を知りたいと珍しく頭を下げたために、そのことについてだけは教えるようにしている。
基本的に他人に見せたりはしない。
なんたって俺は優しいから。
「いいじゃん教えくれたって」
「企業秘密です」
「じゃあ教えない代わりに見せて」
「まず教えない代わりっていうのが意味わからんし、絶対見せない」
「けち」
「けちで結構です」
「ばーか」
「馬鹿でも結構です」
「あほ」
「阿呆ですけど何か?」
「まぬけ」
「知ってる」
「運動神経ゼロ」
「事実ですね」
「おたんこなす」
「意味わからん」
「無表情」
「だろうね」
「大根」
「美味しいよね」
「豚」
「牛より好きかな」
「変態」
「きっと男なんてみんな変態だよ」
「変人」
「みんなそう呼ぶよね」
「陰気」
「少なくとも陽気ではないね」
「万年貧血」
「辛いよ」
「目が死んでる」
「でも一応生きてるから」
「甘党」
「こないだ一人ケーキバイキング行ってきた」
「レイプ魔」
「ならないように気をつけないとね」
「ロリコン」
「できたら妹欲しかったな」
「……童貞」
「処女が何言ってんの」
「ふーんだ。いいですよーだ!」
くだらない、それこそ中学生がやるような馬鹿な言い合いに飽きたのかベッドに転がり布団を被る有希。
いや、それ俺のベッドと布団だから。勝手に寝るんじゃねぇよ。
と、言いたいけれど後が恐いから何も言わずに背を向ける。
あれ、なんでだろう目から塩水が流れてくるや。
「あっそうだ、蛍」
「今度は何?」
しばらく布団を被り黙っていると思ったら急に顔を出し、呼びかけきた。
また無視しようかとも思ったけど、なんか余計に面倒くさくなると思うので振り向いて返事をする。布団から頭だけをだしている姿は蓑虫のように見えるが、そんな格好でさえ映えるのだから、まったくもって美人は得だ。
「今度の日曜空いてる?」
「空いてるよ」
というか空いてなかった日は今までで一度もないよ。
「じゃあさ、遊園地行きたいんだけど…」
「行けば?」
一人で。
「遊園地行きたいんだけど」
「行けば?」
独りで。
「だから遊園地行きたいんだけど!」
「だから行けばいいじゃん」
ひとりで
「言わなくてもわかるでしょ!?連れてって意味だから!あぁもう何でわかんないかなぁ」
「何でそんなこと俺がわかんなきゃいけないんだよ。いいですか、世の中に以心伝心なんてのはありません。
言葉にしなきゃ伝わらないんです。だから俺ははっきりと言葉にします。行きたくないです」
嘘である。
本当のことをいえば行きたくはないが行きたくなくもないのだ。ぶっちゃけどっちでもいい。
こんな会話も何度もしてきて、いつも俺は有希に付き合わされる。パターン化していることだ。
じゃあなんで行きたくないと言うのか。
なんとなく、有希の言いなりばかりになるのが嫌だからだ。とはいえ、結局最後にはこっちが折れて付き合うことになるから意味なんてないんだけど。
有希が何処かに行きたい、遊びたいと言えば必ずと言っていいくらい俺は付き合わされる。
小さい頃、幼稚園児くらいの時から決まっている。
俺も嫌というわけではないし、有希に誘われなければ一日中部屋に引きこもっているので休日に外の空気を吸ういい機会でもあるのだ。
こんなことを繰り返しているからか、友達代表落ちの高科くん(先日彼女に飽きたという理由で振られ現在絶賛恋人募集中)は俺たちが男女交際をしているみたいだと言ってくるが、断言しよう。それは違う。
なんといえばいいのか解らないが違うのだ。
何か違う。
個人的に有希は美人だと思うし可愛いとも思う。
好きか嫌いかでいえば好きなのだが、何か、こう違うのだ。
生まれたときからずっと一緒。
親指にどす黒い紐でも結ばれているのか、幼稚園小中高と同じ学校で毎回同じクラス。
当たり前のように一緒に居て、周りの奴らが異性の友達と距離を置く年齢になっても変わることはなく一緒に遊んでた、というより遊ばれていたというほうが正しいような気がするけれど。
兄妹でもなく恋人でもなくただの友達でも親友でもない、この幼なじみという特別な関係に居心地のよさを感じている。
そんな自分がいる。
それはきっと有希も同じで、だからこそこの幼なじみを楽しめているのだと思う。
そんなわけで俺たちは友達以上恋人未満の関係を十六年間も続けている。
例えば、あくまでも仮定の話だけれど。
この先、有希に理想通りの王子様が現れたとしても。
奇跡的に俺に可愛い(限定)彼女ができたとしても。この関係だけは変えたくないし、壊したくない。
そう純粋に思ったりする今日この頃。
………なんか恥ずかしいです。
「いいじゃん行こうよ。どうせ暇を持て余してぐーたらして、堕落した何の意味もないニートが過ごすような一日を過ごすんだから」
ぶすっとした顔でさらっと酷いことを言う幼なじみに対し、いつもならもう少し会話を楽しむために後一、二時間は反抗して、暫くは本気で嫌そうな感じを出し続け、最後には渋々わかったよと了承。
そんないつも通りの会話をする――。
はずだったのだけれど、なんだか今日は気分がよくて、目の前にいる美人なお嬢さまの笑顔を早くみたいなとかキモチワルイことを思ったりしたわけで。
どうしてなのか、わからないけど少し笑顔になりながら「いいよ」と答えてしまった、金曜日の午後。
ご苦労様でした。