変わりゆく日常
学年末試験の発表から数日が経っていた。
掲示板に貼り出された順位表。その中で「2-D 七宮真 一位」の文字を目にした瞬間から、真の学校生活は大きく変わった。
それまでは「どこにでもいる生徒の一人」でしかなかった。授業を普通に受け、部活に籍も置かず、昼休みは数人の友人と一緒に過ごす。目立つこともなく、特別に嫌われることもない。そんな平凡な日常だった。
だが今は違う。廊下を歩けば視線が集まる。教室に入れば、わずかなざわめきが起こる。教師たちでさえ、以前よりも丁寧に言葉をかけてくるのを真は感じていた。
「七宮……本当に七宮家の跡取りだったなんてな」
「いや、俺はまだ信じられねえよ。三日月家の血筋だろ? すげえ話だよな」
クラスメイトたちの視線には、憧れと畏れ、そして好奇心が入り混じっていた。
中には露骨に距離を置く者もいるし、逆に「仲良くしておけば得をするかもしれない」と近づいてくる者もいた。
真自身も、自分が口にした告白の重さを改めて実感していた。
あの時は勇気を振り絞り、迷いながらも「自分は七宮家の跡取りであり、三日月家の一員である」とクラスに打ち明けた。だが、口にした以上、もう後戻りはできない。
――これが、三日月家に関わるということか。
放課後、生徒会室での補佐の仕事を終えた帰り道、真はふとそんなことを考えた。
書類整理、会議の記録、簡単な連絡業務。どれも難しいことではない。だが生徒会の中心にいるのは翠、奏、翔、幻人、樹璃といった「本物の名家の子息たち」だ。彼らの姿を間近で見れば見るほど、自分がまだ未熟であることを思い知らされる。
それでも、彼らは真を一人の仲間として扱ってくれていた。
翠は無表情のまま淡々と指示を出し、奏は必要最低限の言葉で補足を入れる。翔は冗談めかした口調で場を和ませ、幻人は冷静に全体を見て助言をする。樹璃は柔らかい雰囲気で、真がついていけない部分を自然にフォローしてくれた。
そうして少しずつ、自分もその輪の中に溶け込めているのだと実感する一方で――。
「……でも、クラスのみんなからは、どう見えてるんだろうな」
家に帰る道すがら、真は小さく呟いた。
表面上は「すごいな」「羨ましいな」と言われるが、そこに本心がどれだけ含まれているのか分からない。
時折、背中に突き刺さるような嫉妬の視線を感じることもある。
家に戻れば、待っているのはさらに厳しい現実だった。
三日月家本邸。重厚な門をくぐり、長いアプローチを進むと、そこには豪奢な屋敷が広がっている。
廊下を歩けば、使用人たちが一斉に頭を下げる。食事は一流の料理人が用意し、日常生活すら常に人の目にさらされている。
庶民の家庭で育った真にとって、それは未だに慣れない世界だった。
椅子の座り方一つ、歩く速度一つ、姿勢の角度一つまでが問われる。
翠や奏からは、毎日のように指摘が飛んでくる。
「真、その手の置き方は違う」
「言葉が軽い。三日月家の一員として話すなら、語尾を整えろ」
最初は反発心もあった。
けれど、学園での周囲の変化を目の当たりにした今、真は少しずつ理解していた。
――これはただの作法ではなく、自分が「七宮真」であることを示すための準備なのだ、と。
そして、心の奥底に芽生え始めた感情があった。
逃げられない。
ならば、向き合うしかない。
まだ揺れ動く思いを胸に抱えながら、真の新しい日常は静かに、しかし確実に変わり始めていた。
三日月本邸での暮らしに慣れ始めた頃、真には新たな課題が課せられた。
それは「三日月家の一員として相応しい立ち居振る舞い」を徹底的に身につけることだった。
担当はもちろん、翠と奏だった。
二人は真の従兄弟であり、同じ未成年とはいえ、既に幼い頃から英才教育を受けている。
その差は歴然としていた。
「真、立ってみろ」
ある日、応接間の広い部屋に呼び出され、翠が冷ややかな声で告げた。
真が立ち上がると、翠の視線が足元から頭の先まで、隅々に注がれる。
「姿勢が甘い。背筋を伸ばすこと。顎を引きすぎだ」
「……こ、こうか?」
「まだだ。僕の姿を見ろ。肩の力を抜け。重心は下腹部に置く」
淡々とした翠の指摘は、時に鋭い刃のように真を刺す。
けれど、その一つひとつに揺るぎない正しさがあった。
「言葉遣いも問題だな」
奏が隣で低い声を落とす。
「庶民的な口調が残りすぎている。相手や場に応じて語尾を整えろ」
「……場に応じてって、そんなに変えられるものなのか?」
「できる。やるんだ」
短く断定する奏に、真は息を飲んだ。
その口調に強制めいたものはなかったが、拒めない重さがある。
――やるしかない。
午前中は学園、午後は課題や自習、夕食後はこうした礼儀作法の訓練。
それが、真の日常になっていった。
◆
「笑顔はどうだ?」
ある日、翠が突然そんなことを言った。
「笑顔?」
「そうだ。三日月家の人間は、人前でただ冷たく振る舞うだけでは駄目だ。社交の場では笑顔も武器になる」
翠が口角をほんの少し上げた。だがそれは、優しさを感じさせながらも威厳を失わない、計算された表情だった。
「やってみろ」
真はぎこちなく口角を引き上げた。
だが、鏡に映る自分の顔は「無理に作った笑い」にしか見えなかった。
「……不自然だ」
「やっぱりな」
翠と奏が同時に言った。
「真、お前はまだ心が表情に出すぎる。誤魔化すことに慣れていない」
「それは悪いことじゃないけどな。だが、この家に生きる以上は弱点にもなる」
淡々と告げられ、真は返す言葉を失った。
◆
だが、訓練の日々は少しずつ実を結び始めていた。
食卓でのナイフとフォークの扱い方。
客人への頭の下げ方。
廊下での歩幅や速度。
初めは息苦しくて仕方がなかったものが、次第に身体に馴染んでいく。
ある晩、夕食後に廊下を歩いていると、使用人の一人が小さく頭を下げてきた。
「七宮様、本日の立ち居振る舞い、とても堂々としておられました」
その一言に、真は思わず立ち止まった。
――堂々としていた。
自分にそんな評価が向けられるとは思ってもいなかった。
胸の奥が少し温かくなる。
努力は無駄ではないのだと、初めて実感できた瞬間だった。
◆
夜、部屋に戻ると机に鏡を置き、翠から教えられた「笑顔」の練習を繰り返した。
引きつった顔に思わず苦笑いが漏れる。
だが、何度も繰り返すうちに、少しだけ自然に笑えている気がした。
「……俺も、変われるのかな」
誰に向けるでもなく呟く。
その声は、これまでの自分を振り返る弱さと、新しい自分を信じたい願いの間で揺れていた。
だが、その揺らぎすらも、確かに前へ進む証だった。
冬休みが終わり、学園生活と本邸での訓練を並行しながら日々を送る中、真にとってさらに大きな挑戦が待っていた。
それは――「社交界デビュー」の準備だった。
三日月家の人間として公に姿を現すこと。
その意味を知った時、真の背筋は自然と冷たくなった。
「真、そろそろ覚悟を決めろ」
応接間で、翠が淡々と切り出した。
「曽祖父が許可を出した。次の社交会には、お前も出席することになる」
「……俺も?」
「そうだ。三日月家の血を引く以上、避けては通れない。中途半端なままでは、逆に笑われるだけだ」
翠の言葉に、真は強く唇を噛んだ。
頭ではわかっている。だが、実感が伴わない。
社交界と聞くだけで、果てしなく遠い場所のように思えた。
◆
準備は徹底していた。
まずは服装から始まる。
三日月グループ傘下の高級仕立て屋から、専門のテーラーが本邸に呼ばれた。
真の体のサイズを細かく測り、立ち姿を確認しながら、燕尾服やタキシードの仕立てを進めていく。
「七宮様、もう少し胸を張っていただけますか」
「は、はい……」
慣れない姿勢で立ち続ける真に、テーラーが布を当てては形を整えていく。
鏡に映る自分の姿は、どこか場違いで、息苦しい。
「真、これはお前の鎧だと思え」
奏が横で呟いた。
「服は人を形づくる。着慣れれば心も変わる」
その言葉に、真は無意識に鏡を見直した。
確かに、ただの学生服を着ている自分とは違う。
服に着られているようでいて、少しだけ――背が伸びたような気がした。
◆
次に待ち受けていたのは「会話の練習」だった。
リビングのテーブルに、翠・奏・幻人・樹璃・翔が揃う。
その視線の中心に立たされるのは、もちろん真だった。
「真、貴族や財界人と会う場では、まず挨拶が肝心だ」
幻人が落ち着いた声で切り出す。
「自己紹介をしてみろ」
「えっと……七宮真です。よろしくお願いします」
その瞬間、五人全員が眉をひそめた。
「軽い」
「浅い」
「誠意が足りない」
「庶民的すぎる」
「これでは相手に失礼だな」
一斉に指摘が飛ぶ。
真は言葉を失い、視線を泳がせた。
「真」
翠が前に出る。
「お前は『七宮家の跡取りであり、三日月家の一員』だ。その自覚を持て。名前を口にするだけで、その重みを背負うことになる」
「……」
「やってみろ。胸を張れ」
真は深く息を吸い込んだ。
そして、視線をまっすぐに前へ向け、言葉を絞り出す。
「七宮真と申します。七宮家の名に恥じぬよう、努めて参ります」
一瞬、静寂が落ちた。
やがて幻人が小さく頷き、樹璃がふわりと笑った。
「今のなら、悪くない」
「うん、ちょっと背伸びしてる感じはあるけど、まあ様になってるよ」
翔も「その調子だ」と肩を叩いてくる。
わずかながら手応えを感じ、真はようやく安堵の息を吐いた。
◆
練習はさらに続く。
立ち居振る舞い、歩き方、グラスの持ち方、会話の切り返し方。
日常では気にもしない細部が、全て「評価」に繋がる世界。
何度も間違え、何度も指摘を受け、その度に真は額に汗を滲ませながら修正していった。
そんなある日の夜、稽古を終えた後のことだった。
窓の外には満月が浮かび、庭の松の影が白銀に染まっている。
「真」
翠が静かに声をかけた。
「……なんだ」
「お前はまだ未熟だ。だが、臆さずにここまでついてきている。その姿勢だけは、僕も評価している」
一瞬、真は耳を疑った。
翠の口から「評価」という言葉が出るとは思っていなかった。
「僕は冷酷だと思われているかもしれないが、それはお前を潰さないためだ。生半可な覚悟では、この世界では立てない」
その言葉に、真は強く胸を打たれた。
苦しい日々の中で、初めて「認められた」と感じた瞬間だった。
「……ありがとう、翠」
「礼を言うのはまだ早い。本番はこれからだ」
翠は冷たく微笑む。
だがその表情の奥に、確かな信頼の色があった。
◆
社交界デビューの日程は、春の到来と共に近づいていた。
真はまだ不安を抱えていた。
けれど、その不安の裏側に、小さな決意が芽生えているのを自覚していた。
――俺は、変わらなければならない。
三日月家の一員として、七宮家の跡取りとして。
その思いを胸に、真は鏡に向かって再び姿勢を正した。
春の訪れを告げる風が、本邸の庭園を包んでいた。
桜が蕾をつけ始める頃、ついにその日が訪れる。
三日月家と七宮家、そして誨冥院家や大林家、水無月家といった月蓮会の中核が一堂に会する、華やかな夜会。
名実ともに「社交界デビュー」を果たす日である。
真は燕尾服に身を包み、三日月本邸の鏡の前に立っていた。
胸元のタイは完璧に整えられ、靴は宝石のように磨き上げられている。
だが――鏡の中の自分に「似合っていない」と思わずにはいられなかった。
「落ち着け」
背後から声がした。振り返ると、翔がグラスを片手に立っていた。
「お前は今日、ただの高校生じゃない。七宮真として、いや――七宮家の跡取りとして立つんだ」
「……言うのは簡単だな」
「だから俺が言ってるんだよ」
翔は笑い、グラスを軽く揺らした。
「なんか、七五三みたいだね!」
翔の後ろから頭だけを出しながら樹璃が呟く
「なかなか慣れないんだよな」
やがて翠が現れる。
漆黒のタキシードに身を包み、部屋の空気を支配するような威圧感を漂わせていた。
「真、行くぞ」
「ああ……」
短い返事をして、真は深く息を吸い込んだ。
◆
会場となる大広間は、光の海だった。
天井から吊るされたシャンデリアが幾千もの光を放ち、絨毯の赤は深く、壁にかけられた絵画は世界的巨匠の作品ばかり。
煌びやかなドレスに身を包んだ令嬢たち、燕尾服の御曹司たちが談笑する中、場に一歩踏み入れるだけで、真の心臓は大きく跳ねた。
だが、その視線はすぐに彼に集まった。
七宮真。
これまで表舞台に姿を見せなかった「七宮家の後継者」が、ついに現れたのだ。
小さなざわめきが走る。
期待と好奇心、そして探るような視線。
真は喉が渇くのを覚えた。
「胸を張れ」
翠が耳元で囁く。
「怯えたら負けだ」
言われた通りに背筋を伸ばし、一歩を踏み出す。
心臓の鼓動は早鐘のようだが、表情は崩さない。
◆
最初に声をかけてきたのは、欧州の大財閥の御曹司だった。
金髪碧眼に整った顔立ち、年は真と同じくらいだろうか。
「君が七宮真か。噂は聞いているよ」
「……七宮真と申します。お目にかかれて光栄です」
深く一礼し、言葉を返す。
その仕草に、周囲の空気がわずかに変わった。
ぎこちないながらも、確かに「跡取り」としての姿を示したからだ。
「なるほど、悪くない」
御曹司は笑い、グラスを掲げた。
そこから次々と令嬢や青年が近づいてくる。
真は必死に会話をこなし、頭を下げ、笑顔を浮かべる。
足は震え、汗が背を伝うが――それでも、途中で逃げ出すことはなかった。
◆
そんな真の様子を、翠たちは離れた場所から見守っていた。
「少し硬いが、よくやっている」
幻人がグラスを傾け、低く呟く。
「最初はどうなるかと思ったけどね」
樹璃がふわりと笑みを浮かべる。
「真、がんばってる」
「……負けん気が強いんだよ、あいつは」
翔が肩をすくめた。
翠は一言も発さず、ただ真の姿を見つめていた。
その目には冷徹さと共に、ほんのわずかな期待が宿っている。
◆
夜も更け、会の中心で挨拶の時間がやってきた。
主催者である三日月蓮が、ゆっくりと立ち上がる。
その存在感だけで、場が静まり返った。
「――諸君。本日はよく集まってくれた」
低く響く声に、全員が息を呑む。
「ここに、新たに我らが血を継ぐ者を紹介しよう。七宮家の跡取り、七宮真だ」
会場中の視線が一斉に真へ向かう。
逃げ出したいほどの圧力。
けれど、ここで引けばすべてが無駄になる。
真はゆっくりと前に進み、深く一礼した。
「……七宮真と申します。本日は、この場に立てたことを誇りに思います」
その言葉は震えていた。だが――確かに、彼自身の声だった。
場に、短い静寂が訪れる。
そして次第に、拍手が広がっていった。
真はその音を浴びながら、胸の奥で一つの決意を固めていた。
――俺はもう、ただの高校生じゃない。
七宮家の跡取りであり、三日月家の一員として生きるんだ。
◆
その夜、真はようやく一歩を踏み出した。
不完全で、未熟で、震えながらも。
けれど、その一歩は確かに未来へと続くものだった。
夜会が終わり、人々の笑い声や音楽の余韻が静かに消えていく。
大広間から退いた真は、重厚な廊下を歩いていた。
胸の奥はまだ高鳴っている。
しかし、震えはもうない。
窓越しに夜空を見上げれば、満月が白く輝いている。
その光は、まるで彼の歩むべき未来を示すようだった。
◆
「よくやったな」
背後から声がした。振り返ると、そこには翠が立っていた。
燕尾服の上着を脱ぎ、ネクタイを緩めている。
普段と変わらぬ無表情だが、目だけは真を射抜くように見据えていた。
「お前……褒めることなんてあるんだな」
「勘違いするな。まだ未熟だ。だが、逃げなかった。それだけで合格点だ」
真は苦笑した。
合格点、それは翠にしては最大級の評価だ。
「……ありがとう」
「礼は要らん。俺たちは敵でも味方でもない。ただ――互いに立場を守るために存在しているだけだ」
そう言うと翠は歩き出し、闇の奥へと消えていった。
その背中を見送りながら、真は深く息を吐いた。
◆
庭園に出ると、入鹿が待っていた。
相変わらず気品に満ちた立ち居振る舞いで、月光を浴びた姿は彫像のように整っている。
「真、立派だったな」
「……立派なんて言えるほどじゃないです。ただ、なんとか最後まで立っていただけなので…」
「いいや」
入鹿は首を振り、柔らかく微笑む。
「立っていることこそ、何よりの強さだ。逃げずに、見られ続けることは容易じゃないからな。今日の真は、確かに七宮の跡取りとしての一歩を踏みだしたな。まぁ、息子たちに逃げられた俺が言うことじゃないがな」
その言葉に、真の胸は温かくなった。
社交界の場で受けた無数の視線――恐怖と重圧。
それでも倒れず、立ち続けた自分を、入鹿は認めてくれている。
「……俺、覚悟を決めました」
真は静かに口を開いた。
「もう逃げない。七宮の跡取りとして生きていきます。三日月家と肩を並べて、これからの世界で戦っていきます。」
その声には震えはなく、確かな響きがあった。
入鹿は小さく目を細め、まるで成長を喜ぶ親のように頷いた。
「その覚悟を忘れぬ限り、三日月家の一員としてどんな困難も乗り越えられるだろう」
◆
その後、翔や奏、幻人、樹璃とも合流し、夜明けまで語り合った。
冗談を交わし、未来を夢見、互いの立場を意識しながらも、不思議な友情が芽生え始めていた。
「お前、案外やるじゃねえか」
翔が笑いながら肩を叩く。
「これからは堂々と『俺の仲間だ』って言えるな」
「俺も、認めるよ」
奏は珍しくはっきりと言った。
「真は……頼りになる」
幻人はグラスを掲げながら低く呟く。
「まだ未熟だが、資質はある。今後が楽しみだ」
そして樹璃は、ふわりと笑って言った。
「真、今日の君はとてもかっこよかったよ」
みんなからの言葉に、真は思わず頬を赤く染めた。
◆
やがて夜明けが訪れる。
本邸の庭園に立つ真は、東の空を染める朝日を見つめていた。
昨夜の恐怖も、不安も、すべてが遠く感じられる。
――俺はもう、ただの高校生じゃない。
七宮家の跡取りとして、三日月家と共に未来を担う一人だ。
新しい日が始まる。
真の心は、かつてなく澄み切っていた。
こうして七宮真は、社交界デビューを果たした。
未熟でありながらも、一歩を踏み出した少年。
その覚悟は、やがて世界を動かす力へと変わっていく――。




