表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡と運命のあいだで  作者: 星月 ましろ
19/21

変わりゆく日常


 学年末試験の発表から数日が経っていた。

 掲示板に貼り出された順位表。その中で「2-D 七宮真 一位」の文字を目にした瞬間から、真の学校生活は大きく変わった。


 それまでは「どこにでもいる生徒の一人」でしかなかった。授業を普通に受け、部活に籍も置かず、昼休みは数人の友人と一緒に過ごす。目立つこともなく、特別に嫌われることもない。そんな平凡な日常だった。


 だが今は違う。廊下を歩けば視線が集まる。教室に入れば、わずかなざわめきが起こる。教師たちでさえ、以前よりも丁寧に言葉をかけてくるのを真は感じていた。


「七宮……本当に七宮家の跡取りだったなんてな」

「いや、俺はまだ信じられねえよ。三日月家の血筋だろ? すげえ話だよな」


 クラスメイトたちの視線には、憧れと畏れ、そして好奇心が入り混じっていた。

 中には露骨に距離を置く者もいるし、逆に「仲良くしておけば得をするかもしれない」と近づいてくる者もいた。


 真自身も、自分が口にした告白の重さを改めて実感していた。

 あの時は勇気を振り絞り、迷いながらも「自分は七宮家の跡取りであり、三日月家の一員である」とクラスに打ち明けた。だが、口にした以上、もう後戻りはできない。


 ――これが、三日月家に関わるということか。


 放課後、生徒会室での補佐の仕事を終えた帰り道、真はふとそんなことを考えた。

 書類整理、会議の記録、簡単な連絡業務。どれも難しいことではない。だが生徒会の中心にいるのは翠、奏、翔、幻人、樹璃といった「本物の名家の子息たち」だ。彼らの姿を間近で見れば見るほど、自分がまだ未熟であることを思い知らされる。


 それでも、彼らは真を一人の仲間として扱ってくれていた。

 翠は無表情のまま淡々と指示を出し、奏は必要最低限の言葉で補足を入れる。翔は冗談めかした口調で場を和ませ、幻人は冷静に全体を見て助言をする。樹璃は柔らかい雰囲気で、真がついていけない部分を自然にフォローしてくれた。


 そうして少しずつ、自分もその輪の中に溶け込めているのだと実感する一方で――。


「……でも、クラスのみんなからは、どう見えてるんだろうな」


 家に帰る道すがら、真は小さく呟いた。

 表面上は「すごいな」「羨ましいな」と言われるが、そこに本心がどれだけ含まれているのか分からない。

 時折、背中に突き刺さるような嫉妬の視線を感じることもある。


 家に戻れば、待っているのはさらに厳しい現実だった。

 三日月家本邸。重厚な門をくぐり、長いアプローチを進むと、そこには豪奢な屋敷が広がっている。

 廊下を歩けば、使用人たちが一斉に頭を下げる。食事は一流の料理人が用意し、日常生活すら常に人の目にさらされている。


 庶民の家庭で育った真にとって、それは未だに慣れない世界だった。

 椅子の座り方一つ、歩く速度一つ、姿勢の角度一つまでが問われる。

 翠や奏からは、毎日のように指摘が飛んでくる。


「真、その手の置き方は違う」

「言葉が軽い。三日月家の一員として話すなら、語尾を整えろ」


 最初は反発心もあった。

 けれど、学園での周囲の変化を目の当たりにした今、真は少しずつ理解していた。

 ――これはただの作法ではなく、自分が「七宮真」であることを示すための準備なのだ、と。


 そして、心の奥底に芽生え始めた感情があった。


 逃げられない。

 ならば、向き合うしかない。


 まだ揺れ動く思いを胸に抱えながら、真の新しい日常は静かに、しかし確実に変わり始めていた。


 三日月本邸での暮らしに慣れ始めた頃、真には新たな課題が課せられた。

 それは「三日月家の一員として相応しい立ち居振る舞い」を徹底的に身につけることだった。


 担当はもちろん、翠と奏だった。

 二人は真の従兄弟であり、同じ未成年とはいえ、既に幼い頃から英才教育を受けている。

 その差は歴然としていた。


「真、立ってみろ」


 ある日、応接間の広い部屋に呼び出され、翠が冷ややかな声で告げた。

 真が立ち上がると、翠の視線が足元から頭の先まで、隅々に注がれる。


「姿勢が甘い。背筋を伸ばすこと。顎を引きすぎだ」

「……こ、こうか?」

「まだだ。僕の姿を見ろ。肩の力を抜け。重心は下腹部に置く」


 淡々とした翠の指摘は、時に鋭い刃のように真を刺す。

 けれど、その一つひとつに揺るぎない正しさがあった。


「言葉遣いも問題だな」

 奏が隣で低い声を落とす。

「庶民的な口調が残りすぎている。相手や場に応じて語尾を整えろ」


「……場に応じてって、そんなに変えられるものなのか?」

「できる。やるんだ」


 短く断定する奏に、真は息を飲んだ。

 その口調に強制めいたものはなかったが、拒めない重さがある。

 ――やるしかない。


 午前中は学園、午後は課題や自習、夕食後はこうした礼儀作法の訓練。

 それが、真の日常になっていった。



「笑顔はどうだ?」

 ある日、翠が突然そんなことを言った。


「笑顔?」

「そうだ。三日月家の人間は、人前でただ冷たく振る舞うだけでは駄目だ。社交の場では笑顔も武器になる」


 翠が口角をほんの少し上げた。だがそれは、優しさを感じさせながらも威厳を失わない、計算された表情だった。


「やってみろ」


 真はぎこちなく口角を引き上げた。

 だが、鏡に映る自分の顔は「無理に作った笑い」にしか見えなかった。


「……不自然だ」

「やっぱりな」

 翠と奏が同時に言った。


「真、お前はまだ心が表情に出すぎる。誤魔化すことに慣れていない」

「それは悪いことじゃないけどな。だが、この家に生きる以上は弱点にもなる」


 淡々と告げられ、真は返す言葉を失った。



 だが、訓練の日々は少しずつ実を結び始めていた。

 食卓でのナイフとフォークの扱い方。

 客人への頭の下げ方。

 廊下での歩幅や速度。


 初めは息苦しくて仕方がなかったものが、次第に身体に馴染んでいく。


 ある晩、夕食後に廊下を歩いていると、使用人の一人が小さく頭を下げてきた。

「七宮様、本日の立ち居振る舞い、とても堂々としておられました」


 その一言に、真は思わず立ち止まった。

 ――堂々としていた。

 自分にそんな評価が向けられるとは思ってもいなかった。


 胸の奥が少し温かくなる。

 努力は無駄ではないのだと、初めて実感できた瞬間だった。



 夜、部屋に戻ると机に鏡を置き、翠から教えられた「笑顔」の練習を繰り返した。

 引きつった顔に思わず苦笑いが漏れる。

 だが、何度も繰り返すうちに、少しだけ自然に笑えている気がした。


「……俺も、変われるのかな」


 誰に向けるでもなく呟く。

 その声は、これまでの自分を振り返る弱さと、新しい自分を信じたい願いの間で揺れていた。


 だが、その揺らぎすらも、確かに前へ進む証だった。


冬休みが終わり、学園生活と本邸での訓練を並行しながら日々を送る中、真にとってさらに大きな挑戦が待っていた。

 それは――「社交界デビュー」の準備だった。


 三日月家の人間として公に姿を現すこと。

 その意味を知った時、真の背筋は自然と冷たくなった。


「真、そろそろ覚悟を決めろ」

 応接間で、翠が淡々と切り出した。

「曽祖父が許可を出した。次の社交会には、お前も出席することになる」


「……俺も?」

「そうだ。三日月家の血を引く以上、避けては通れない。中途半端なままでは、逆に笑われるだけだ」


 翠の言葉に、真は強く唇を噛んだ。

 頭ではわかっている。だが、実感が伴わない。

 社交界と聞くだけで、果てしなく遠い場所のように思えた。



 準備は徹底していた。

 まずは服装から始まる。


 三日月グループ傘下の高級仕立て屋から、専門のテーラーが本邸に呼ばれた。

 真の体のサイズを細かく測り、立ち姿を確認しながら、燕尾服やタキシードの仕立てを進めていく。


「七宮様、もう少し胸を張っていただけますか」

「は、はい……」


 慣れない姿勢で立ち続ける真に、テーラーが布を当てては形を整えていく。

 鏡に映る自分の姿は、どこか場違いで、息苦しい。


「真、これはお前の鎧だと思え」

 奏が横で呟いた。

「服は人を形づくる。着慣れれば心も変わる」


 その言葉に、真は無意識に鏡を見直した。

 確かに、ただの学生服を着ている自分とは違う。

 服に着られているようでいて、少しだけ――背が伸びたような気がした。



 次に待ち受けていたのは「会話の練習」だった。


 リビングのテーブルに、翠・奏・幻人・樹璃・翔が揃う。

 その視線の中心に立たされるのは、もちろん真だった。


「真、貴族や財界人と会う場では、まず挨拶が肝心だ」

 幻人が落ち着いた声で切り出す。

「自己紹介をしてみろ」


「えっと……七宮真です。よろしくお願いします」


 その瞬間、五人全員が眉をひそめた。


「軽い」

「浅い」

「誠意が足りない」

「庶民的すぎる」

「これでは相手に失礼だな」


 一斉に指摘が飛ぶ。

 真は言葉を失い、視線を泳がせた。


「真」

 翠が前に出る。

「お前は『七宮家の跡取りであり、三日月家の一員』だ。その自覚を持て。名前を口にするだけで、その重みを背負うことになる」


「……」

「やってみろ。胸を張れ」


 真は深く息を吸い込んだ。

 そして、視線をまっすぐに前へ向け、言葉を絞り出す。


「七宮真と申します。七宮家の名に恥じぬよう、努めて参ります」


 一瞬、静寂が落ちた。

 やがて幻人が小さく頷き、樹璃がふわりと笑った。


「今のなら、悪くない」

「うん、ちょっと背伸びしてる感じはあるけど、まあ様になってるよ」


 翔も「その調子だ」と肩を叩いてくる。

 わずかながら手応えを感じ、真はようやく安堵の息を吐いた。



 練習はさらに続く。

 立ち居振る舞い、歩き方、グラスの持ち方、会話の切り返し方。

 日常では気にもしない細部が、全て「評価」に繋がる世界。


 何度も間違え、何度も指摘を受け、その度に真は額に汗を滲ませながら修正していった。


 そんなある日の夜、稽古を終えた後のことだった。

 窓の外には満月が浮かび、庭の松の影が白銀に染まっている。


「真」

 翠が静かに声をかけた。


「……なんだ」

「お前はまだ未熟だ。だが、臆さずにここまでついてきている。その姿勢だけは、僕も評価している」


 一瞬、真は耳を疑った。

 翠の口から「評価」という言葉が出るとは思っていなかった。


「僕は冷酷だと思われているかもしれないが、それはお前を潰さないためだ。生半可な覚悟では、この世界では立てない」


 その言葉に、真は強く胸を打たれた。

 苦しい日々の中で、初めて「認められた」と感じた瞬間だった。


「……ありがとう、翠」

「礼を言うのはまだ早い。本番はこれからだ」


 翠は冷たく微笑む。

 だがその表情の奥に、確かな信頼の色があった。



 社交界デビューの日程は、春の到来と共に近づいていた。

 真はまだ不安を抱えていた。

 けれど、その不安の裏側に、小さな決意が芽生えているのを自覚していた。


 ――俺は、変わらなければならない。

 三日月家の一員として、七宮家の跡取りとして。


 その思いを胸に、真は鏡に向かって再び姿勢を正した。


春の訪れを告げる風が、本邸の庭園を包んでいた。

 桜が蕾をつけ始める頃、ついにその日が訪れる。


 三日月家と七宮家、そして誨冥院家や大林家、水無月家といった月蓮会の中核が一堂に会する、華やかな夜会。

 名実ともに「社交界デビュー」を果たす日である。


 真は燕尾服に身を包み、三日月本邸の鏡の前に立っていた。

 胸元のタイは完璧に整えられ、靴は宝石のように磨き上げられている。

 だが――鏡の中の自分に「似合っていない」と思わずにはいられなかった。


「落ち着け」

 背後から声がした。振り返ると、翔がグラスを片手に立っていた。

「お前は今日、ただの高校生じゃない。七宮真として、いや――七宮家の跡取りとして立つんだ」


「……言うのは簡単だな」

「だから俺が言ってるんだよ」

 翔は笑い、グラスを軽く揺らした。

「なんか、七五三みたいだね!」

翔の後ろから頭だけを出しながら樹璃が呟く


「なかなか慣れないんだよな」


 やがて翠が現れる。

 漆黒のタキシードに身を包み、部屋の空気を支配するような威圧感を漂わせていた。


「真、行くぞ」

「ああ……」


 短い返事をして、真は深く息を吸い込んだ。



 会場となる大広間は、光の海だった。

 天井から吊るされたシャンデリアが幾千もの光を放ち、絨毯の赤は深く、壁にかけられた絵画は世界的巨匠の作品ばかり。

 煌びやかなドレスに身を包んだ令嬢たち、燕尾服の御曹司たちが談笑する中、場に一歩踏み入れるだけで、真の心臓は大きく跳ねた。


 だが、その視線はすぐに彼に集まった。

 七宮真。

 これまで表舞台に姿を見せなかった「七宮家の後継者」が、ついに現れたのだ。


 小さなざわめきが走る。

 期待と好奇心、そして探るような視線。

 真は喉が渇くのを覚えた。


「胸を張れ」

 翠が耳元で囁く。

「怯えたら負けだ」


 言われた通りに背筋を伸ばし、一歩を踏み出す。

 心臓の鼓動は早鐘のようだが、表情は崩さない。



 最初に声をかけてきたのは、欧州の大財閥の御曹司だった。

 金髪碧眼に整った顔立ち、年は真と同じくらいだろうか。


「君が七宮真か。噂は聞いているよ」

「……七宮真と申します。お目にかかれて光栄です」


 深く一礼し、言葉を返す。

 その仕草に、周囲の空気がわずかに変わった。

 ぎこちないながらも、確かに「跡取り」としての姿を示したからだ。


「なるほど、悪くない」

 御曹司は笑い、グラスを掲げた。


 そこから次々と令嬢や青年が近づいてくる。

 真は必死に会話をこなし、頭を下げ、笑顔を浮かべる。

 足は震え、汗が背を伝うが――それでも、途中で逃げ出すことはなかった。



 そんな真の様子を、翠たちは離れた場所から見守っていた。

「少し硬いが、よくやっている」

 幻人がグラスを傾け、低く呟く。


「最初はどうなるかと思ったけどね」

 樹璃がふわりと笑みを浮かべる。

「真、がんばってる」


「……負けん気が強いんだよ、あいつは」

 翔が肩をすくめた。


 翠は一言も発さず、ただ真の姿を見つめていた。

 その目には冷徹さと共に、ほんのわずかな期待が宿っている。



 夜も更け、会の中心で挨拶の時間がやってきた。

 主催者である三日月蓮が、ゆっくりと立ち上がる。

 その存在感だけで、場が静まり返った。


「――諸君。本日はよく集まってくれた」

 低く響く声に、全員が息を呑む。

「ここに、新たに我らが血を継ぐ者を紹介しよう。七宮家の跡取り、七宮真だ」


 会場中の視線が一斉に真へ向かう。

 逃げ出したいほどの圧力。

 けれど、ここで引けばすべてが無駄になる。


 真はゆっくりと前に進み、深く一礼した。


「……七宮真と申します。本日は、この場に立てたことを誇りに思います」


 その言葉は震えていた。だが――確かに、彼自身の声だった。

 場に、短い静寂が訪れる。

 そして次第に、拍手が広がっていった。


 真はその音を浴びながら、胸の奥で一つの決意を固めていた。


 ――俺はもう、ただの高校生じゃない。

 七宮家の跡取りであり、三日月家の一員として生きるんだ。



 その夜、真はようやく一歩を踏み出した。

 不完全で、未熟で、震えながらも。

 けれど、その一歩は確かに未来へと続くものだった。


夜会が終わり、人々の笑い声や音楽の余韻が静かに消えていく。

 大広間から退いた真は、重厚な廊下を歩いていた。

 胸の奥はまだ高鳴っている。

 しかし、震えはもうない。


 窓越しに夜空を見上げれば、満月が白く輝いている。

 その光は、まるで彼の歩むべき未来を示すようだった。



「よくやったな」

 背後から声がした。振り返ると、そこには翠が立っていた。

 燕尾服の上着を脱ぎ、ネクタイを緩めている。

 普段と変わらぬ無表情だが、目だけは真を射抜くように見据えていた。


「お前……褒めることなんてあるんだな」

「勘違いするな。まだ未熟だ。だが、逃げなかった。それだけで合格点だ」


 真は苦笑した。

 合格点、それは翠にしては最大級の評価だ。


「……ありがとう」

「礼は要らん。俺たちは敵でも味方でもない。ただ――互いに立場を守るために存在しているだけだ」


 そう言うと翠は歩き出し、闇の奥へと消えていった。

 その背中を見送りながら、真は深く息を吐いた。



 庭園に出ると、入鹿が待っていた。

 相変わらず気品に満ちた立ち居振る舞いで、月光を浴びた姿は彫像のように整っている。


「真、立派だったな」

「……立派なんて言えるほどじゃないです。ただ、なんとか最後まで立っていただけなので…」


「いいや」

 入鹿は首を振り、柔らかく微笑む。

「立っていることこそ、何よりの強さだ。逃げずに、見られ続けることは容易じゃないからな。今日の真は、確かに七宮の跡取りとしての一歩を踏みだしたな。まぁ、息子たちに逃げられた俺が言うことじゃないがな」


 その言葉に、真の胸は温かくなった。

 社交界の場で受けた無数の視線――恐怖と重圧。

 それでも倒れず、立ち続けた自分を、入鹿は認めてくれている。


「……俺、覚悟を決めました」

 真は静かに口を開いた。

「もう逃げない。七宮の跡取りとして生きていきます。三日月家と肩を並べて、これからの世界で戦っていきます。」


 その声には震えはなく、確かな響きがあった。


 入鹿は小さく目を細め、まるで成長を喜ぶ親のように頷いた。

「その覚悟を忘れぬ限り、三日月家の一員としてどんな困難も乗り越えられるだろう」



 その後、翔や奏、幻人、樹璃とも合流し、夜明けまで語り合った。

 冗談を交わし、未来を夢見、互いの立場を意識しながらも、不思議な友情が芽生え始めていた。


「お前、案外やるじゃねえか」

 翔が笑いながら肩を叩く。

「これからは堂々と『俺の仲間だ』って言えるな」


「俺も、認めるよ」

 奏は珍しくはっきりと言った。

「真は……頼りになる」


 幻人はグラスを掲げながら低く呟く。

「まだ未熟だが、資質はある。今後が楽しみだ」


 そして樹璃は、ふわりと笑って言った。

「真、今日の君はとてもかっこよかったよ」


 みんなからの言葉に、真は思わず頬を赤く染めた。



 やがて夜明けが訪れる。

 本邸の庭園に立つ真は、東の空を染める朝日を見つめていた。

 昨夜の恐怖も、不安も、すべてが遠く感じられる。


 ――俺はもう、ただの高校生じゃない。

 七宮家の跡取りとして、三日月家と共に未来を担う一人だ。


 新しい日が始まる。

 真の心は、かつてなく澄み切っていた。


 こうして七宮真は、社交界デビューを果たした。

 未熟でありながらも、一歩を踏み出した少年。

 その覚悟は、やがて世界を動かす力へと変わっていく――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ