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平凡と運命のあいだで  作者: 星月 ましろ
12/21

七宮入鹿


冬の朝、三日月本邸の敷地内に小型のプライベートジェットが着陸した。

ジェットのドアが開くと、長身で端正な男がゆったりとした足取りで降りてきた。

その姿こそ、七宮家当主にして七宮流剣術の師範、そして世界規模の七宮グループ会長――七宮入鹿だった。


「……ついに帰ってきたか」

重厚な声が空港の喧騒を切り裂くように響く。

傍らで待機していた警備員たちの姿勢が、瞬時にさらに引き締まった。


一方、真は玄関前で身を正した。

これまで一度も会ったことのない入鹿――父方の祖父だ。

「……入鹿さん」

真の声はかすかに震えたが、意識して落ち着かせる。

礼儀正しく一礼する姿に、入鹿は一瞥をくれた。


「七宮 真……か」

鋭い視線が真を射抜く。まるで内面の迷いや弱さまでも見透かすような厳しさだ。

「はい」

言葉を選びながらも、真はしっかりと答える。


入鹿はジェットから歩みを進め、真の前に立った。

長い黒髪は微かに風になびき、その背筋の張りと腕の筋肉は、剣術師範としての威厳をそのまま体現していた。

「ふむ……君は、父から聞いていたよりも随分と成長したようだな」

その声には一切の甘さはなく、事実を淡々と述べる冷徹さだけがあった。


「ありがとうございます」

真は拳を軽く握り、緊張のあまり手の震えを必死に抑える。

祖父と呼ぶほど親しくもなく、しかし相手は七宮家の頂点――この距離感をどう埋めるべきか、真は考えながら立っていた。


入鹿は真の肩越しに、空港の敷地を一瞥する。

「……久しぶりに本邸の空気を吸ったが、警備も整っているようだな」

「はい…」

真は答え、胸の奥で少し誇らしい気持ちが芽生えた。

普段は遠くから眺めるだけの家の威容だが、自分もそこに身を置けることの実感が少しずつ湧いてくる。


「君は……剣の心得はあるのか?」

入鹿の問いかけに、真は咄嗟に答える。

「はい、多少は……」

入鹿の目がさらに鋭く光る。

「多少、か……なるほど。七宮流はただの型ではない。心と技を統合し、己を鍛えるものだ」


その言葉に、真は自然と背筋を伸ばした。

「わかりました」

少しでも自分の覚悟を示そうと、声に力を込める。


入鹿はしばらく黙って真を見つめた後、ゆっくりと頷く。

「……よかろう。だが覚えておけ。血筋だけで力は測れぬ。君自身の努力次第で、七宮家の跡取りとしての器が問われる」


真は拳を握り直し、深く息を吸う。

「……必ず、その期待に応えます」

言葉に迷いはない。入鹿の冷徹な視線の前で、真の決意ははっきりと形を成した。


入鹿はゆっくりと歩きながら言葉を続ける。

「君は七宮家の跡取りだ、これから覚悟して臨むがよい」


真は小さく頷き、礼をする。

「はい、入鹿さん」


二人の間に、短い沈黙が訪れる。

外の冬の光が差し込み、広間の奥まで二人の影を伸ばす。

その影はまるで、これから始まる真の修練の道を象徴しているかのようだった。


「……それでは、広間で少し休むとするか」

入鹿の言葉に、真は再び頷き、祖父としてではなく、師としての存在に対して敬意を抱きながら歩みを合わせた。


歩きながら、真の胸には確かな決意が生まれていた。

「……必ず、入鹿さんに認められる跡取りになる」


初対面の場面は緊張感の中で終わり、しかしそれは、七宮流剣術と跡取りとしての本格的な試練の、ほんの序章に過ぎなかった。


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