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聖女召喚の裏側で

作者: こうじ

 日本のとある都市の雑居ビル、その前に覆面パトカーが止まっていた。


「ここが奴らの隠れ家という事は確かなんだな?」


「はい、一ヶ月張り込みをした結果です。 間違いありません」


「警部、裏にも捜査官の配置が完了しました。 奴らも逃げる事は出来ません」


「よし、突入するぞ」


 雑居ビルに警察官達が入って行った。


 階段を登り3階のとある部屋の前にやって来た。


 声を殺しドアの前に耳を近づけた。


 何人かの人の声が聞こえる。


 手でサインを出しドアを蹴破った。


「警察だ! 大人しくしろ!」


 部屋になだれ込んだ警察官は部屋にいた若者達を次々と拘束していく。


 10代の若者中心の詐欺グループによる被害が社会的に問題になり新聞や週刊誌、ネットニュースを騒がしていた。


 警察も総力をあげ捜査をした結果、今日の摘発に繋がった。


 勿論、これが氷山の一角である事はわかっている。


 これから取り調べを行いその上にいる犯罪組織を逮捕し壊滅するのが最終目的だ。


「警部、あらかた拘束しましたが1人まだ見つかっていません」


「確かグループのリーダーは少女だったな、そいつか?」


「警部! 奥の部屋にいました! 裏口に逃走しています!」


「すぐに追いかけろ! 絶対に逃がすんじゃない!」


 捜査班のリーダーである警部は部下達に次々と指示をしていく。


「け、警部……」


 部下が戸惑いの表情をしながら戻ってきた。


「どうした、何かあったのか?」


「その、被疑者を追いかけて逃げ場の無い所まで追い詰めたのですが……、突然姿が消えました」


「……なに? 姿が消えた?」


「はい、そのかわり外人らしき少女が現れました」


「……は?」


 部下の報告に警部は理解が出来なかった。



(これは一体どういう状況なんでしょうか……)


 少女、レニーナ・アルジーナは戸惑っていた。


 目を開けたら何やら自分を見てポカンとしている人達がいるし何故か背後には壁がある。


「えーと、君は日本語がわかるかい?」


 ニホンゴ? この世界の言葉だろうか、でも言っている意味はわかる。


「はい、わかります……」


「私達は警察の者なんだが聞きたい事がある、ちょっと来てくれないか」


「わかりました」


 ここは大人しく言う事を聞いておいた方が良い、と思いレニーナは警察官に連れられ別の場所、警察署に連れて行かれた。


 そして、取調室に入り自分の身の上を語りだした。


「まず、名前は?」


「レニーナ・アルジーナと言います」


「出身地は?」


「イラルモート王国です」


「イラルモート? 聞いた事が無いな……」


「はい、多分この世界には無い国ですので……、私は別の世界から来ました」


「別の世界? それって魔法とかドラゴンとかがいる世界、て事かい?」


「はい、そうです」


 取り調べを担当した男性警察官はレニーナの話にキョトンとしていた。


 信じられないがレニーナが嘘を言っているようには思えない。


「君はどうしてあの場所にいたんだい?」


「それはですね、私は聖女様をお迎えする為の生贄として来たんです」


「生贄?」


「はい、我が国には古くから聖女を召喚する儀式があります。 但し聖女を召喚するには生贄が必要なんです」


「つまり、聖女の代わりに君が来た、という事か?」


「はい、まぁ嵌められた、と言った方が正しいんですが」


「それはどういう事だい?」


 レニーナは生贄になった経緯を語りだした。


 レニーナ・アルジーナは元々は公爵令嬢でありイラルモート王国の王太子の婚約者だった。


 しかし、その環境は余り良くなかった。


 レニーナの事は出世の為の道具としか思っていない父親、娘よりも社交の方に興味がある母親、欲しがりで我儘な妹、不仲な婚約者と『渡る世間は敵ばかり』状態だった。


 そんな時にイラルモート王国は危機に陥った。


 雨が降らず食物は育たなくなり食べる物に困り果てていた。


 そして、会議の結果聖女を召喚する事にした。


 聖女を召喚するには生贄が必要になる。


 この時、王太子はレニーナを生贄にすればいい、と発言したらしい。


 普通は将来の王太子妃であり公爵令嬢でもあるレニーナを生贄にするなんて考えられない事なのだが何故か賛同の意見が出た。


 しかも、国の為なら、と公爵も賛同したのだ。


 レニーナは父親から生贄になった、と言われた時は目の前が真っ暗になった。


 今までの厳しい王妃教育はなんだったのか、認めてもらおうと頑張って来た努力はなんだったのか、全て意味が無かった。


 レニーナの絶望した気分を知らず国は聖女召喚の儀式の準備をした。


 そして、レニーナは聖女召喚の為の魔法陣に乗せられ儀式が行われた。


 レニーナの話を聞いた取調官はレニーナの境遇に涙した。


 隣の部屋で話を聞いていた警部達もレニーナに同情した。


 そして、レニーナの話で聖女として召喚されたのは詐欺グループの女性リーダーという事がわかった。


 取調官はその事をレニーナに話した。


「まぁ、聖女様は犯罪者なのですか」


「捕まえる直前だったんだ、それなのに目の前で逃げられるとは……」


「あぁ、でも聖女としての役割が果たせなかった場合は偽物として処刑されますよ」


「え?」


「あ、でもその前に国が崩壊する可能性が高いですね。 聖女様、話を聞くと男性の扱いが上手いみたいですから王太子様とか周囲の男性を手玉にしそうな気がします」


『あぁ、そうなるかもな』と内心そう思っていた。


 結果として女性リーダー以外の詐欺グループは捕まえたし捜査としては一歩前進出来た事は確か。


 さて、問題はレニーナの待遇だがその後警察から政府のお偉いさん達も出てきてちょっとした議論になったのだが日本の国籍を得る事が出来た。


 更に警部から養女にならないか、と誘われ養子縁組を組む事になった。


 警部夫妻には子供がいなかったのでレニーナは歓迎され初めて家族の温もりを得る事が出来た。


 生贄としてやって来たレニーナだったが結果として幸せになった。    

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