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01 神の乳を持つ泡姫

 ――本当のパ〇ズリは「挟む」のではなく「包む」。

 結城未来は半年前、アイと出会ってそれを知った。

 結城とアイが今いるのはソープランドの一室だった。

 ソープランドとは浴室で女性従業員が男性客に対してサービスを行う性風俗店である。古くはトルコ風呂とも呼ばれたその特殊浴場は、いつの時代も男性の欲望を引き受けてきた。

 結城が客として訪れ、アイが従業員として働くこの店は、まさに「場末の」という表現がぴったりの、歓楽街の外れにある古い店だった。

 名は『みるくあっぷ』という。

 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律――通称・風営法によって、ソープランドなどの店舗型の風俗店は、建物の建て替えが困難となっている。

 古ぼけた店舗を騙し騙し使っていかなければならないのだが、この『みるくあっぷ』の客室には隠しきれないガタが至る所に散見された。

 全裸の結城はマットレスの上にシーツを敷いただけの簡素なベッドに寝転び、薄い枕に頭をあずけて天井のシミを眺めていた。暖色系の薄暗い照明で照らされていることを差し引いても、汚い天井だった。タバコのヤニで黄ばみ、隅は黒く黴びていた。

 結城は二十七歳だった。これまでの人生で彼女がいたことはない。いわゆる素人童貞だった。

 その裸体は太っているわけでも痩せているわけでもないが、引き締まった感じが見られないところにスポーツ経験の乏しさが浮き出ていた。日焼けしていない肌が妙に白くて綺麗なことだけは、風俗店の嬢に褒められるのだった。

「おまたせー。あっもう元気じゃん」

 身体を洗い終えたアイが風呂場からベッドサイドまでやってきて――こういった店では、風呂場とベッドルームの間には壁がないことが多い――ソフトタッチで結城の股間をまさぐった。半分ほど元気になっていた結城自身がピクリと動いた。

 アイのアイは、Iカップのアイだよ。

 とは本人の談である。アイは『みるくあっぷ』に出勤し始めてから半年程のソープ嬢だった。店舗の公式サイトの情報が確かなら――確かだったことなどないが――身長は152センチ。スリーサイズは上から90(I)・58・88。血液型はO型の二十三歳である。

 結城は身長とスリーサイズの情報は正確だと感じていた。むしろ、数字よりもインパクトがあるスタイルだ。背は小さいが爆乳で、くびれもある。肌は雪のように白く、栗色のセミロングは今はゴムで束ねられているが、プレイが終われば解き放たれて、華やかなウェーブで彼女を彩るだろう。

 年齢に関しては、前回サービスを受けたときに、あっさりと実年齢を白状した。結城と同じ二十七歳であった。

 顔に関しては、心ないネット上のローカル掲示板に「100点の身体に20点の顔」などと書かれていたが、結城の目にはそんな風には見えなかった。彼女の一重の目も薄い唇も、結城から見れば美しいと思えた。そもそも結城は女性の顔にはあまりうるさくない。そんなことを言えるような顔を自分がしていないのだから。

 顔よりも大事な物がそこにはある。

 アイはまだバスタオルを巻いていた。しかし、その前面の二つの主(・)張(・)はとんでもなく激しかった。一見すると寸胴にすら見えるのだが――

「ちゃらららららーん」

 ふざけながらアイがバスタオルをはだける。オレンジ色のバスタオルが腐って傾きつつあるフローリングの上にバサリと落ちると、現実とは思えないほど美しい乳房が現れた。

 大きいだけではない。フィギュア造型師の仕事かと思われるような、見事な曲線で構成されたその胸は、引き締まった腰のくびれによって強調され、ある種の芸術品として存在していた。白い肌に似合う薄桃色の乳頭も、淫靡な魅力よりもむしろかわいらしさが先立った。

 一言でいえば、神の乳だった。

「おっ、もっと元気になってきたねー」

 アイは仰向けに寝ている結城の上に体を重ねた。一人の女性の体重が、結城の身体にのしかかってくる。それは羽のように軽くなどない。現実の一人の成人女性の重さだった。結城の耳元でアイが言う。

「――どうする?」

 これからどんなプレイをする?の意だった。結城は最初は受け身で、と言った。ふふっと笑ったアイはりょーかいと甘い声で囁き、プレイは始まった。

 アイのテクニックは筆舌に尽くしがたい。柔らかで、くすぐったく、刺激的で、もっと言えば挑戦的だった。結城は全身のあらゆる場所から入力される快感に悶えながら興奮をむさぼった。

「――アレする?」

 アレとは冒頭のパ◯ズリのことである。

 読者諸氏の中には、それがどんなプレイなのかをご存知ないという方もあろうかと思われるので軽く説明させていただくと、それは一般的に"怒張した男性の陰部を女性が両乳房で挟んで刺激する"というものである。

 する側である女性から「何がいいのかよく分からない」と言われがちなプレイの一つである。なんなら男性側からもその魅力が説明しづらいプレイであり、「あんなの別になんにも気持ちよくないよ」と嘯く男性もいる。

 一般的に男性は、行為中の興奮を視覚的な刺激から得がちだと言われる。そういう意味ではこのプレイの一番の魅力はその少しアブノーマルなビジュアルだと言えた。本来接触する機会がない、お互いのセクシュアルな部分を触れ合わせているのだから。

 あるいは、そういった通常ではない行為を女性にしてもらっている、ある種の奉仕を受けていると感じられること自体が魅力だとも言えた。精神的な満足がこのプレイの一番重要な部分であるという考え方だ。

 なにせ女性のバストが好きな男性――まあ、世の中のだいたいの男がそうなのだが――にとっては、憧れを持って語られるプレイである。

 プレイの可不可をパートナーの身体的特徴に依存すること、そもそもパートナーに頼みづらいということの二点から、性風俗産業における、一つの花形として扱われるプレイだった。巨乳の嬢を指名したならば誰もが期待するものである。

 「視覚的」に「精神的」に気持ちいい。

 なるほどな、と結城は思う。実際、アイと出会うまでは、このプレイの魅力はその二点だと思っていた。

 だがそれはおままごとのようなそ(・)れ(・)しか知らなかったからに過ぎないということを、アイを初めて指名した夜に結城は衝撃を持って知らされたのだった。

 アイのア(・)レ(・)は圧倒的な本物《リアルディール》だった。

 もう一度言う。

 本当のパ〇ズリは「挟む」のではなく「包む」。


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