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【完結済み】大公閣下の孫はいろいろ分かってない  作者: 夢ノ庵
第2章 王立学院へ通う大公閣下の孫、恋愛も色々分かってない

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第33話 自分を生きることが罪ならば



「初めまして皆さん。ロザリー・アルスタット・フォン・ミーゲルと申します。

 私の国には、このような立派な学校はありません。隣国と高等教育校を共有している、それ程の小国です。

 大体の地図にも、私の国は乗っていません。ミーゲル王国と言いますが……ご存じの方はおられますか?」


 綿あめみたいなほわほわした、ピンク色の長い髪に、華奢そうな身体。

 ロザリー王女の国名告知に、反応した者は、僕も含めいなかった。


「と、こんな調子ですので……私は一応国では王女ですが、ここでは普通に扱ってもらえると嬉しいです。

 大国の高等教育校で、何が学べるのか。どんな授業なのか。考えるだけで、とてもワクワクしてきます!」


 王女、と聞いて昨日から勝手に物静かな女性を想像していたのだけれど、結構元気な感じの人だ。

 あまり王女として扱うよりは、女子同士でワイワイしてる方が似合っていそうな感覚だ。


「ところで、ディラグニア・バサグラス先生。この中で、最も爵位の高いお家の方はどなたですか?」


 不意に違和感が教室中に走る。この国では、名字を持てるのは基本貴族。ヴァイシスさんみたいな例外もあるが。

 ディラグニア先生が貴族であるなんて事は、知らされてはいない。魔力量から考えれば寧ろ自然だが……


「ロザリー王女、どこで知ったか知らないが、申し訳ないのだが私をフルネームで呼ぶのは控えて頂けるか?

 訳あって、私の名字の存在は国家機密2級に該当し、漏洩者は最高30年の強制労働だ。

 生徒達が迂闊な漏洩をしてその人生を潰してしまうのは、教育者として避けたい」


「まぁ、そうだったんですね! ごめんなさい、事前調査の目が粗かったみたいで」


「う、うむ……皆も今のは忘れてくれ。実際、2級漏洩は重罪だ。忘れれば、済む話だ。忘れたか?」


 睨みの効いた目線が教室を舐める様に回ってくる。それぞれの生徒は皆一様に、首を縦に振っている。


「私の事は単にディラグニア先生と呼んでくれ。皆、そう呼んでいる」


「分かりました、ディラグニア先生。それで、爵位の高いお家は……」


「それは間違いなく、大公の孫であるフィロスがそうだ。フィロス・シューラン。大公家のひとり息子だ」


 と言いながら、ディラグニア先生に指さされる。


「実は、今回のこの訪問、様々な交渉事の担当は私なんです。陛下は体調を崩され、途中で引き返されました」


 笑顔で言うロザリー王女だが、何か不自然な感じがあちこちにある。

 国家の主である王様が引き返したら、普通従者は皆引き返すのが常だろう。

 だが、ロザリー王女だけは、そのままこの国に入った。


 国にも学校にも入れてるのだから、書類上の問題は無かったのだろう。

 王様と2人で来る、はずが、王様は引き返したのであれば、王女だけが単独で来たことになる。


 異様だ。何かおかしい。


「フィロスさん。授業の時間を使わせて頂くのは申し訳ないですが、少し予備交渉をさせてもらえませんか?」


 名指しされた僕は、頭の中に「どーしろと」という言葉しか浮かばなかった。


「予備交渉をする事自体は何ら差し支えは無いですが、僕に権力は無いですよ」


「権力のある方と、ご家族です。それだけで十分」


 退く気の無い言葉が返ってきて、僕の口から軽い溜息が漏れた。


「僕は良いですけど、国家間なのか大公領と国の交渉となると、部屋が欲しいです。

 ディラグニア先生、王女様に相応しい会議室を使わせてもらえますか?」


「分かった、すぐ準備しよう。授業は15分後から開始する」


 そう言って、ディラグニア先生は王女様を伴って教室を出て行った。



「フィロス、ご指名ね。どうするの?」


 サーティアが身を乗り出して言う。


「どうするも何も……予備交渉とか言ってるけれど、せいぜい自己紹介で終わるんじゃないかな。

 何せ、相手の国の産品も位置も何も分からない状態で、何を話せるとも思えない」


「ロザリー王女、名前がロザリアと似てるわね。間違えない様に気をつけないと」


「それはね。でも男子と女子と違うし、さすがに頭の中でごっちゃにはなってないよ、僕でも」


「なら良いけど。丁度ロザリア君がお休みの時で良かったかも。間違ったら、国際問題よ」


「名前間違えたくらいで国際問題になるものかなぁ。いや、なるか。僕も気をつけないといけないな」


 と、そんなことを言っている間に、廊下にディラグニア先生の姿が見えた。

 手招きで僕を呼んでいる。表情から、焦りが見て取れる。


「じゃ、行ってくるよ。未知の王国……何だっけ、何王国?」


「ミーゲル王国! 大丈夫かしら、フィロスが国際問題で処刑なんて、わたし嫌よ?」


「まぁ、何とか誤魔化すさ。じゃ行ってくる」


 僕は立ち上がり、ディラグニア先生の元に急いだ。




 ***




「では、交渉が終わるなり一区切り付くなりしたら、教官室に知らせてくれ、フィロス」


「分かりました。では、どうぞ、ロザリー王女」


 僕が先にドアノブを握って中に開いて入る。応接室だが、会議室を兼ねている様だ。

 ロザリー王女の方が格上、しかも王族だから、礼儀として、それぞれ端と端の席に座る。

 縦長のソファーが無駄に空くが、あまり王族に近付くものでもない。


 さすがにロザリー王女もそこは分かっている様で。一番奥の、よく言うお誕生日席に座る。

 僕は僕で、手前側のお誕生日席に座り、面と向かう形になる。距離はかなり離れるが。


「では改めて、僕の方から自己紹介を」


「その前に、すべきことがあります、ふふ。【戦時防諜結界】」


 僕はその魔法に、強い警戒感を持った。

 先手で戦時防諜結界を張られてしまうと、ここから逃げ出す事はおろか、助けを呼ぶことも出来ない。

 情報が絶対的に遮断される戦時防諜結界、予備交渉から何か踏み込んだことを話す気なのだろう。


「……戦時防諜結界、ですか、王女。予備交渉程度のはずでは?」


「あーだってロザリーモードがだるくなってきたからね、見られちゃマズいし」


「……えっ?! ちょっと、ちょっと待て! ロザリアか?!」


 ピンク色のほわほわヘアーは確かにロザリアの印象は全く無い。

 けれど、身体の特徴は、ロザリアと大差ない。

 身体のラインを隠す白服の制服では身体の凹凸は分からないが、背丈と言い体格と言い、ロザリアと言われれば確かにその面影はある。


「気付かれなかったのは、君がぼくのことを純粋に男の子だと思い過ぎていたからかな?

 それとも、このカモフラージュのピンク綿毛の髪?」


 ロザリー王女の女声で語られる『真相』に、僕は呆気にとられて何も返せなかった。

 ただ、ちょっと、整理はしなければ。


 ロザリー王女は、ロザリアだった。

 だから、ミーゲル王国の事も、王様が途中で帰った話も、全てウソだ。

 交渉の中核が王女自身というのも、結局ロザリアの1人ロールだからそう設定せざるを得ないのだろう。


「ロ、ロザリア……いきなり何だよ、突然ピンク髪の王族って。目的は」


「ちょっとうらやましくなってね、君とサーティアの事を見ていたら。僕も恋愛とやらをしてみたいかな、と」


「うらやましいのは、まぁ、仕方ないかも知れないけど……恋愛するって、誰か宛があるの?」


「君さ、フィロス。おおっと勘違いしないで欲しい。ぼくは今、昨晩徹夜の調整で、完全に女性体になっている。

 その影響で、性愛の向く方向も、女子ではなくて男子に向く様になってる。世界観が変わる体験で、これはこれで面白いよ。

 そう、よく言う話だよ。『男女の間で友情は成立するか』。親友の『男子』が『女子』に変わったら、どうなるか? 興味無いかい?」


「興味無いよ! ロザリアは身勝手だよ、僕とサーティアが、ようやくあそこまで近付くことが出来たのだって、

 ロザリアが背中を押してくれたからじゃないか! それなのに、いざそういう関係になれたら、今度は僕とサーティアの関係を割くの?!」


「割くつもりは無いよ。第2夫人のポジションを狙ってる。まぁ1ヶ月程度の仮運用のあとでどうするかは決めるんだけど。

 まぁ、この部屋に与えられた時間は実質制限がないんだから、ゆっくり考えようじゃないか、親友」


「親友って呼ばれたくない!」


「フフ、君の怒りも、戸惑いも、分かるよ。けれど、もし良かったらで構わない。無視するなら、それでも良い。ぼくの言葉も聞いて欲しい」


「……なんだよ、ぼくの言葉って」


 僕は反射的に親友呼びを否定したが、すぐに後悔がドッと襲ってきた。

 あれだけ助けたいと思い、心も通じ合えて、初めて親友になれた。

 けれど、勢いだけで親友呼びを拒否した。

 自分の心が追いついた時、そこに来たのが重い後悔だった。


「魔法院で、ぼくの身体を見たんだろ? 男性にはあり得ないバストライン。意識が戻った時、胸に巻いていた抑え布がブカブカだったから」


「……見た。不快だったら、ごめん」


「不快とは違うかな。羞恥心、と言った方が適切な感覚だ。本来中性体で、バストなんて僕にとって『あって当たり前』のものだから、

 見られて恥ずかしいなんて無いはずなのに、フィロスに見られた事が、とても恥ずかしかった。でも何で恥ずかしく感じたのか、

 自分でもよく分からなかった。色々考え抜いた末に、いっそ一度女性化してみて理解しよう、と思ったんだ」


「それで、わざわざ徹夜して女性化を……?」


「まぁ、ホムンクルスの改質を行う水槽は、栄養補給・身体清掃・睡眠を兼ねながら改質をするから、寝てない訳じゃ無いかも知れない」


「徹夜じゃ無いじゃんそれ」


「まぁそこは言葉のあやと思って欲しい。それで、女性化が出来たら、想像力がよく働くんだ。特にビジュアルで働く。

 そこで、どういうシチュエーションでフィロスがぼくの胸を見たのか、色んな妄想が動いた。妄想を重ねる毎に、どんどん顔が熱くなるのを感じたよ。

 実際はどうだったの? 正面から? 横から? いっそ抱きしめでもした?」


 いつもの『口調』だが、女声だからこちらの動揺をムチャ誘う。

 だが動揺しているのはどうもロザリアも同じ様で、既に顔は真っ赤である。

 現在進行形で『妄想』とやらをしているのだろうか?


「抑え布? をグルグル外した時に、上から見た。それと……一番暴走が激しかった時に、抱きしめもした」


「柔らかかったかい? ぼくの身体」


「……言わせないでよ、ロザリアのイジワル」


「サーティア嬢の事は、もう抱きしめたのかい?」


「はっ?! んな訳ないじゃん!」


「じゃあ、ぼくの方がちょっとアドバンテージあるかもね。既にフィロスに抱きしめられてる女性……いや残念、あの時点では男だ」


 と、赤い顔をしながらその手を天井に開く。明らかに照れ隠しだと分かる。


「こ、困ったな……予備交渉の事は、後で絶対サーティアに聞かれる。何て答えよう」


 僕は少し視点を変えてみることにした。

 目の前のピンク髪の偽王族が、僕と付き合いたがってる――しかもそれが中身は親友。

 こんな即席の会議場、しかもそのピンク髪を見ながら、じっくり考えられるお題じゃない。


「王女様に告白されたって言ったら?」


「ロザリア、急過ぎでしょそれ。しかも王女様との三角関係なんて言ったら、サーティア泣くよ?」


「サーティア嬢を泣かすのも本意では無いんだなぁ。親友の恋人を悪し様に扱いたくは無い」


「だったらロザリーからロザリアに戻って、男の意識に戻れば良いじゃん」


「い、いや……それも考えた。女性化が完成して、ひとしきり妄想した後で、これはマズいなって。

 サーティア嬢に、昨日告白したばかりの君に、新たに別の女の試練は、少々重いかな、とかね」


「事実重いよ。サーティア泣かせない方法考えるので頭パンクしそうな程重いよ」


「けれど……僕も気付いてしまったんだ。君への恋心に。中性体の時ですら、羞恥心から薄ら感じた事。

 女性体になったら、よりそれはハッキリした。ぼくは君に、女性として恋してる。初めてだよ、恋って感情を知ったのは。

 恋って、こんなに……ずっと一緒に居たいって思わせる力があるんだね。学院3年間の限定じゃ全然足りない。

 もっとずっと、先に逝くフィロスを墓に埋めた後も、ずっと一緒に居たいくらい……恋の力って、凄いね。

 でもね。完全な男性体に作り替えれば、多分この感情は根本から消せる。けれど……」


 さっきまでニマニマしてたピンク髪は、不意に視線を落として真顔になった。


「本当は、今すぐ君を抱きしめたいとすら思う。けれど、僕が女でも男でも中性でも竜でも、

 何に姿を変えたとしても、本当に『誰かに欲しがられる日』は来ないんじゃないか……

 そう思うと、不意に虚しくもなる。欲しても、欲されない。単なる迷惑なのかもって……」


 ピンク髪はうつむいたまま溜息を吐いた。

 僕には、ロザリアの痛み・自分の居場所の無さ・虚しさが、分かる様な気がしたが、

 分かるなんて軽々に言えないな、と自分を戒めた。


 空気はただひたすらに重かった。

 僕は何も言えなかった。

 僕の心臓だけが、ドクドクとうるさく鳴っていた。


「ぼくの人生を、ぼくの思うままに生きるのは、やっぱり罪なのかな」


 独り言の様に静かに呟いたピンク髪は、もう一息溜息を吐いてから、戦時防諜結界を解除した。



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