箱の中身はなんだろな
「ちょっと、すみませーん! はあーい! ティンティン! 箱の中身はなんだろな!」
「……は?」
夜道を歩いていたおれは、突然見知らぬ男に声をかけられて立ち止まった。男の周りには数人のスタッフらしき人たちとカメラもあり、どうやらテレビの撮影のようだが……。
「それでは早速、この箱の中に手を入れていただきたいのですが、よろしいですか?」
「いや、やらないよ」
「え! やらないんですか!?」
「まあ、やるけど……」
一度は断ったが、実は内心ワクワクしている。前から一度こういうのをやってみたいと思っていたし、テレビタレントというものに憧れていたのだ。
「さあ、どうぞ!」
「じゃ、入れます……って、いやー、こういうのテレビで見たことあるけど、いざ自分がやるとなると怖いっすね! 怖いわー!」
「ああ、そういうのは大丈夫ですので、さあ、どうぞ」
「あ、はい」
おれは男が抱えている箱の両サイドに空いた穴に手を入れた。
先ほど怖いとは言ったが、実際はただの建前だ。危険なものを入れるはずがないだろう。せいぜい、蛙などの生き物を潰さないように気をつけるくらいだ。
……おっ、やっぱりな。思ったとおり、これは生き物だな。触ったら動いたぞ。それに細長いみたいだ……ゴムみたいな感触……ということは、これは……。
「蛇?」
「おっ、そうです! 蛇です!」
「おー、ははは、よし! いやー、実は蛇が好きだったんすよね」
「はい、箱の中に入っていたのは蛇! ……なのですが」
「ん?」
「その蛇は、この写真の蛇のうちのどれでしょうか? 番号でお答えください!」
「え、そういうクイズ!?」
「さあ、どうぞ! 急いで! 三択です!」
「じ、じゃあ、二番の蛇!」
「二番……正解!」
「よーし、よしよし! 昔飼ってたのと同じ種類でしたよ。はははっ」
「では、第二問!」
「え、続くの!?」
「そのまま手を入れていてくださいね。中身を入れ替えます……はい、どうぞ! 箱の中身はなんでしょう!」
「えぇ……」
「お気をつけくださいね」
「はいはい……いてっ! え? これは……ナイフ?」
「そう、ナイフです!」
「いや、危ないな!」
「では、そのナイフの重さは何グラムでしょうか!」
「そんなのわかるか!」
「三択です! 以下の番号からお選びください!」
「ええ……じゃあ、二番!」
「正解です! お見事! よくわかりましたねえ!」
「いや、まあね。問題の作り方を見抜いたと言うのかなあ。他の数字は軽すぎたり重すぎたりしてたからさ。それに昔、趣味でナイフを集めてたから、だいたいの重さはわかる……いや、まだやるの? うわ、重い!」
「はい、中身を入れ替えて第三問です。箱の中身はなんだろな!」
「えぇ……これは……なんだ、でかいな。うん? もう一つあるな。これは……ニッパーか?」
「お気をつけくださいね」
「また危険なものか……ん、え、これって爆弾?」
「はい! その爆弾についている三本のコードのうち、どれを切ると停止するか、実際に切ってお答えください!」
「いや、ジャンルが違うだろ!」
「ヒントは『赤いコードは切るな』です。さてさてどうしますか?」
「いや、なんか含みを持たせてるけど、見えないんだから赤も何もないだろ!」
「時間がありません。さあ、お答えください!」
「あああ、これ!」
「お……正解です! お見事!」
「あ、あ、おおお! ははは、やった!」
「ご参加ありがとうございました。以上、ラジオのワンコーナーでした」
「いや、これ、テレビじゃなかったの!?」
「……はい、オッケーです。ありがとうございました」
「ああ、いえいえ。ははは、皆さんが黙るから、こっちも黙っちゃいましたよ。カメラがあるし、これって結局テレビだったんですよね? あれ、あのー」
どうしたのだろう……。みんな、おれと箱をそのままにして、何も言わずに帰り始めた。
「あ、あのー、この箱もう置いていいですかね? 重いんですけど、てか、これ腕が抜けないんですけど、え、あの、ちょっと、あ」
皆が遠ざかっていく中、あの司会者らしき男がおれに近づいてきて言った。
「ここで問題です。あなたは過去に罪を犯しましたが、未成年だったため裁かれず、身分を変えて、のうのうと暮らしてきました。その罪とはなんでしょう?」
答えはおれの手の中にあった。そして、連中が何者でなんのためにこんなことをしたのかも、全部わかった。連中の腹の中身も。
ただ、それを解決する時間はもう残されてなさそうだった。