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ルクシオンの継承者  作者: 夏董象女
第0章 魔術者の子供達
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4.闇の組織

神室との泊まりから戻ってきて2日後、私はシロさんと共に研究を進めていた。資料の整理と研究記録をまとめているとシロさんが振り返って私に口を開く。

「そういえばナツ、今日誕生日だろ?」

「え?ああ…そういえばそうでしたね。私がシロさんの家に引き取られてからもう2年ですか」

「ああ。時間とは過ぎるのが早いな」

するとシロさんは白衣のポケットから何かを取り出す。それは小さい物で指で掴める物だった。白い小さな光が目に入った時、私は思わず引き下がる。その様子にシロさんは首を傾げた。

「ん?どうしたナツ?そんなに下がって」

「いやシロさん、貰えませんよ指輪なんて」

「しかし今日は君の誕生日だろ?」

「だからって指輪をプレゼントとして送ることにはなりませんよ」

「ならないのか?」

「なりません…!私の場合は」

その時後方の扉が突如開き、私は勢いよく腰を打って地面に平伏す。

「ん?何か打つかった?って…ありゃりゃ」

「ナツ!!」

人に暴行を与えた本人は慈悲を与える目で怪我人を見下ろし、シロさんは今にも救急車を呼び出しそうな形相で駆け寄る。

「イッタ…!!神室!!扉開ける時ノックしろ!!」

「ごめんごめん。それより持ってきたわよプレゼント!!どう?私が1番?」

「1番じゃ無い!!1番はシロさん!!」

「おや、それは残念。じゃあここに置いとくから」

「え?もう行くの?」

「うん。だってこっからは私が居ない方がいいでしょう?それじゃあ」

そう言って嵐は過ぎ去った。全くとんだサプライズだ。私はシロさんに支えられながら椅子に座ってシロさんを見る。それと手にある指輪も。

「指輪なんていつ買ったんですか?」

「買っては無いんだ」

「じゃあ誰に?」

シロさんは穏やかに微笑んで私を見ると口を開いて指輪の持ち主の名を告げた。

「これは姉さんが持っていたものなんだ。遺品の中から持ってきた」

「え…?茜さんの…?」

「ああ」

「そんな、ますます貰えませんよ。だってこれはシロさんにとっては茜さんの形見じゃないですか」

「いやいいんだ。俺じゃあ指輪なんてはめられないし、寧ろ君が持っていてくれた方が姉さんも喜ぶ。だから君に持っていて欲しい」

視線を外して答えを探すが見つからなかった。ひとまずここは預かるという意味で受け取ることにしよう。

「分かりました。それじゃあ預かっておきますので返して欲しい時はいつでも言いに来てください」

「やれやれ、あげるつもりで渡したんだけどなあ。まあ、それで君がその指輪を持ってくれるのなら良しとしよう。それと他にも君に見せたいものがあるんだ」

「何ですか?」

「それはまた今度だ」

シロさんはどこか楽しそうな顔をしていた。シロさんにも何か嬉しいことや面白いことが見つかったのだろう。

「そういや、神室はからの贈り物はなんだい?」

「さあなんでしょうね。きっと開けてはならない物ですよ」

「アハハ、彼女はいつも君を驚かしに来るな」

「ええ、だから見ていて飽きないんですよ」

そう言って神室からの贈り物に手を伸ばす。

その時建物がグラリと揺らぎ轟音が鳴り響く。

「ゔっ…!!」

「なんだっ…!?」

壁に雷光のようにひびが入ると、ギシギシと音を立てて部屋の一部が崩れ落ちた。同時に天井が崩れ始める。

「ハッ…!!」

「ナツ!!」

月彦は勢いに任せ妹を押し倒し彼女を護る態勢に入ると、近くにあった開発段階の発明器具を手に取り、瞬時に起動させた。

青いバリアが二人を包み瓦礫から護る。だが部屋は次々と崩れ行くばかりであった。

一体何なんだ?

何が起きてる?

数分後揺れが止まった。どうやら何とか生きのびれたようだ。月彦は彼女から身体を退け、起き上がった。

「ナツ、大丈夫か?」

「…はい…。ですが部屋が…。シロさん…一体何が…」

「分からないが、まずは神室達の安全を確保しよう」

「はい…」

立ち上がろうとしたその瞬間、二人を安堵させる声が聞こえてきた。

「おーい、2人とも無事かー!」

「神室?」

「お、どうやら無事みたいね。二人とも急いで。ここは長く持たないわよ」

「分かった。ナツ、最新の資料だけかき集めろ!」

「分かりました!」

神室は2人の姿を見てフッと笑い後方に目を向けた。

「私は先に行ってるわよ」

「分かった。私達もすぐ行く!」

「気をつけて来なさいね」

そう言って彼女は走り去って行った。暗い通路を迷うことなく一点に向かって。



神室を見届けると俺達はすぐに資料を残骸の中からかき集め始めた。

「最新の記録だけでいい。一つでも見つけたらすぐ氷室の後を追うぞ!」

「はい!」

こんな状況の中でこんなことをするのは合理的に考えても間違っていることは分かっている。だがここで仲間と共に長い年月をかけて築き上げたものを無駄にするわけにはいかない。ナツもそれを分かってくれているようだ。表情からも彼女の必死さが伝わる。するとその小さな手にはめられた銀色の指輪の中で光る一つのダイヤが微かに輝いているのに気づいた。それを見届けて俺はまた手元に目線を落とす。

『守ってみせる…。今度こそ…。そうだろ?姉さん…』

その時だった。一つしかない通路の中の奥、黒い靄で覆われたその先で乾いた音がいくつも鳴り響き、赤く光を散らした。

俺達は、無意識に動きを止めた…いや、止めさせられた。瞳までもが瞼の中で微かに揺らぎ、乾いていく。

気づいた時には俺を先頭にナツと共に走り出していた。声は上げなかったが、神室の後を追って、死にものぐるいで走り出していた。どうしても確かめたかった。彼女達の安全を。

最後の角を曲がった時、出口に通じる通路の入り口から赤い炎が揺らいでいるのが分かった。俺は壁に体を張らせゆっくりと出口の方を覗いた。

そこには顔の知らぬ黒き者と、その周りには先に避難しようとした白衣を着た研究員達が赤い血を流して倒れていた。

「ハッ…!」

リーダーと思われる黒い長髪を束ねた男の前には、よく目にしたことのあるホワイトブルーの長い髪を上で高く結び、眼鏡をかけた女が倒れていた。しかも白い白衣には赤い液がどんどん染み出ている。

俺は息を詰まらせ、その場から動けなくなった。ふと、袖を誰かが掴む感触がした。俺はその方向に目を向けるとそこには恐怖という文字で覆い尽くされた目があった。

「シロさん…神室は…いましたか…?」

その言葉を聞いて俺は絶句した。表情を隠せればまだ良かったのかもしれない。だが、やはりナツも気づいていたのだ。年を重ね、最初に出会った頃に比べて成長した彼女なら当然なのかもしれない。

俺は自分の無力さと今親友を失った者に対して何も言葉を告げられない愚かさに打ちのめされた。

ナツは俺の顔を見て、その答えを読み解くと脱力しかけている足を動かし、俺に続いて親友の最期の姿を確認しようとした。だが俺は瞬時に彼女の腕を掴み、阻止すると自分の方に引き寄せ涙を拭ってやる気持ちで彼女を抱擁した。

「…見るな…今は抑えろ…」

涙が一筋彼女の頬を伝っていく。

「今は生き抜くことだけを考えるんだ…。神室も君が助かることを願ってる…。とにかく、今は抑え込め。外に出てからその叫びを思う存分吐き出せ。いいな?」

腕の中で彼女がコクリと頷くのが分かった。私はゆっくり彼女を解放すると、彼女は涙を自分の腕で拭い、真剣な眼差しを俺に見せた。

「よし。この先の出口は敵が包囲している。残る出口は非常口だけだ。そこまで敵に気づかれずに…ハッ…!」

「ッ…!ハッ…!」

ナツも俺も命の危機を感じた。もと来た暗闇の方を振り返る。コツコツと足音が暗闇の中から段々と大きくなって聞こえてきた。恐怖の音だ。音が最大となった時ナツの後ろから、人がノロリと現れると俺達を見下ろした。そして獲物を見つけた獣のように口の端を上げると、耳元に手を当て無線を開いてから、ニヤリと余裕そうに笑って言った。

「目標を発見しました」


「うっ…!」

俺達二人は敵のリーダーの前に跪かされると、動けないよう、両腕を後ろに回された。

最悪だ。最悪の状況となった。ナツは親友の亡き骸を間近で見る羽目となり、俺は逃げ出す機会を失った。上を見上げればそこにはウェーブのかかった黒髪を結んだ若い男が俺を見下ろしていた。無意識のうちに目尻が上がる。

「なるほど。まさか本当に18の青年がここの研究員全員を取り締まってるとはな」

「なぜここを襲った?狙いはなんだ!」

「お前だよ」

「ッ…!」

その言葉には俺も隣りにいたナツも衝撃を受けた。まさか、たった一人の青年を手に入れる為に多くの者の命を犠牲にし、研究所を襲った。

なんて極悪非道な奴らなんだ。

「用があるのは君の頭脳と技能だ。君のことは世の中で噂になっているぞ。たった18の青年が世界全てを変える技術を開発したとな」

「ッ…!なんのことだ?俺は何も生み出していないぞ」

「だがその言い分を君はいつか破ることになる。一度手を染めてしまったことは完全に拭えやしないのだよ。まあ、この話は置いといて部下が君の研究室を拝見させてもらったそうだ。報告によれば実験式や数式は全く分からなかったそうだが、一つだけ読み取ることが出来た名があったそうだ。まあ、随分と大きな物を造り上げてるじゃないか」

「ハッ…!」

「ッ…それって…どういう…?」

ナツは聞こえるかわからないほどの小声でそう言ったが、男にははっきりと聞こえたらしく、ナツが言い終えた瞬間彼の口の端がつり上がった。

「君は研究員達と造りあげている物の他にもう一つ独自に造り出していたんだ。その名も、ウンダー・エクステンションデヴァイス。これは中々面白そうな"兵器"だな」

「違う!兵器なんかじゃない!それは、宇宙への進出を促すための道具だ!決して兵器として行使しない!」

「そうか?まあそんなことはどうでもいい。私は君を捕獲することさえ出来ればここに用はない。よってそこにいる少女は排除させてもらう」

「ッ…!」

ナツがその言葉にビクリと反応し、水の膜で覆われた瞳を震わせた。俺の中で焦燥という言葉が暴れ始める。

男は銃を取り出すと、安全装置を外して銃口をナツの眉間の方に向けた。

「ッ…!ハッ…」

ナツがゆっくりと俺の方に目を向けた。救いを求めてる目だった。だが俺は何も出来ない。腕は敵の部下によってガッチリと抑えられている。その場からナツを救い出すことが出来ない。

だがまだ諦めるわけにはいかない。

俺はカッとした眼差しで男に目を向けると腹の底から声を上げた。

「待て!!彼女を殺せば俺はお前たちに力は貸さんぞ!!」

「そんな言葉が通じると思うか?弱者め」

「ッ…!」

「一つ言っておく。この世界は弱肉強食の世界だ。強き者が頂点に立ち弱き者を尻の下に敷く。つまりここでは、お前達は毛皮同然。何の力も通じやしないんだよ。弱き者は強き者に都合よく切り捨てられるのが運命。その身を持って、自分の愚かさを思い知るがよい」

彼が引き金に指を添えた瞬間ナツの瞳から雫が一つ垂れていった。

「やめろ!!頼む!!」

男はニヤリと笑い、ナツは死の恐怖に耐えきれずに思わず眼をつぶる。

一発の銃声が血しぶきを上げた。

俺は目を疑った。血潮が跳ね上がり、俺とナツの肌を赤く濡らす。

ナツが怯えながら目を開けた瞬間、うっすらと暗い影がナツを覆っていた。

「ハッ…!」

ナツは銃弾を受けずに済んだのにも関わらずその表情は銃弾を食らった時の絶望に満ち溢れていた。

目の前には羽織っている白衣を赤く染め、レンズが割れた眼鏡を身に着けた女がナツを全身でかばっていた。


「か、神室…?」

細々と震えた声で彼女の名をナツは呼んだ。その声を聞いた彼女は安心したのか小さく笑った。

「アンタ…怪我して、ない…?」


ナツは両目から雫をいくつも垂らしながら小さく頷く。神室はその反応を見て何事も無かったようにニッコリと微笑むと前のめりに崩れ始めた。

「そう…よかっ…た…」

彼女は親友に最期の言葉を告げて、ナツの隣に倒れるともう二度と動くことはなかった。


ナツは唖然として神室がいた場所から視線をそらさない。恐らく親友の悲惨な死によって我を失っている。両方の瞳からは雫が何度も垂れていったが瞬きを一才していない。

だがそれは目の前の男も同じだった。あれから銃口を下げたままビクともしない。

何かしらの衝撃を受けたのか?神室に…

男の口元が緩んだ。そして腹の底へ空気を溜めると一気に放出して死者を嘲笑うような不吉な笑いをし始める。

「フハハハハ…!素晴らしい…!彼女こそ正に英雄だ…!この私、ギルス・アル・プトラムは感動したぞ…!!」

「貴様!!自分の手で命を奪っておいて何が感動だ!?人は死する時に感動するんじゃないだろ!?生きるたくましさ、その生き抜く姿に魅了され、人は感銘を受ける…それが人の感性としてのあり方だろう!?お前のその感情は感動なんてものじゃない!!お前にその言葉を使う資格なんて毛頭ない!!」

「いいや、これは感動だ。私が求めていたものだよ。喉の奥から手が出るほどな。感謝するぞ若き者よ。お前の行動で一つの命が救われた。いいだろう。その少女は生かしてやる。ただし、被検体としてだがな」

「何っ!?ゔッ…!」

後頭部を思いっきり殴られ俺は気を失った。最後に多くの者に連れ去られるナツの姿を目にした。彼女の中にはもう心なんてものは消え去ったのかもしれない。彼女の目には光さえ灯っていなかった。 こうなったのは俺のせいだ。俺が彼女から光を奪ってしまった。生み出してしまったからだ。この世にあってはならないものを…。

存在してはいけなかったものを…。

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