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新たな異能力者

 それから昼休みまで俺はノート作成に勤しんだ。今回の思考内容は当然雫の能力について。

 雫は身体検査をしようと言った時、慌てるように距離を取った。つまり肉体に触れられることを拒絶したのだ。

 優子の能力の発動条件も触れることだった。つまり類似する能力の可能性もある。だがこれだけでは情報不足で推測を立てることは不可能。せいぜい想像を膨らませるのが限界だ。


 今のところ俺の予想は、「優子の類似型能力」と「肉体に何かしらの変化が起こった能力」。二つ目のは所謂狼男のような変異型だと想像している。服の下で鱗のような硬い物が発生していて、それがバレることを恐れて距離を取った、みたいなことだ。


 逆に、消去法で候補に上がったのは「命に関する能力」例えば触れた生き物を殺してしまう、とかだ。この能力に朝の時点で気づいたのであれば家族が死んでいるはずだ。そうなれば学校に来ている余裕はない。それに来たとしてももっと過剰に反応するはずだ。朝の雫はいつも通り本を読んでいた。つまり日常生活において支障が出ない程度の能力ということになる。


「ふふふ。まさか身近でこれだけ観察対象が生まれてくれるとは。嬉しい限りだよまったく」

「おい薙宮。何笑ってる」

「すみません先生。この歴史の人の心情を想像したら笑ってしまいました」

「そうか。教科書を読むのもいいが、板書はしっかりしとけよ」

「はい」


 やはり今日も俺の評判はいい。職員室で耳を澄ませば俺に対する賛辞が聞こえることだろう。教師たちの信頼も厚い俺には、実は生徒会長にどうだという話が上がっているらしい。だがそんなものもちろんお断りだ。高校には適当に進学するから内申点などどうでもいい。何より時間の無駄だ。

 俺にはこの異能の研究がある。義務教育なんぞに割いている時間はない。


『ありがとうございました』

「よし、雫。行くぞ!」

「ああ。弁当持ってくからちょっと待って」

「そうだな」


 雫に言われ、リュックの中から弁当箱を取り出し、そのまま雫を連れて教室を出る。普通は教室で飯を食べてから遊びに行くものだが、中には早弁してすぐに遊びに行く連中もいる。故に俺たちが教室から出ても悪目立ちすることはない。


 俺たちが向かったのは鍵のかかった屋上に続く階段の踊り場。そこに腰を下ろして弁当箱を開く。俺の弁当はマイマザーが毎日作ってくれている。中学一年の妹、奏も同じ弁当を食べている。


「それで、話を聞かせろ」

「ああ。お前なら驚かないで聞いてくれると思ってる。このことは誰にも言うなよ? もちろん俺の家族にもだ」

「ああ」


 雫は変声期を迎えていない少年の声で念を押すように前置きををした。


「俺、女になっちまった」

「…………は?」

「だから、女の体になったんだよ」

「それはあれか? 実は元々女だけど、バレそうになったから俺だけに打ち明けたとかそんな話か?」

「違えよ! てか小学校の修学旅行で一緒に風呂入っただろうが」

「そうだな」


 雫の言い分は最もだ。それに、女になったところで俺と雫の関係は変わらない。


「それで、それはいつの事だ?」

「初めて女になったのはこの前の土曜日。でも日曜と月曜は男に戻ってて、白昼夢でも見てたんだって思ったよ。そんで今日はこれだ」


 雫はそう言いながら学生服のボタンを外し、Tシャツの手前を引っ張った。


「たしかに少し膨らんでる気がするな。だがこれくらいなら筋トレでもすればできるんじゃないか?」

「この土日でそれができると思うか?」

「まあ無理だな。それで、お前の大事なムスコは行方不明になったのか?」

「そうだ。見るか?」

「いやいい」


 それだけは遠慮しておく。それに雫がここまで体を張っているのだ。嘘をつくにしてももっとマシな嘘があるだろう。


「お前の言いたいことは分かった。それで俺にしてほしいことはあるか? できることなら手伝おう」

「この異変をなんとかしてほしい」


 なるほど。テレパシーの次は性転換か。俺にもツキが回って来たかな。知り合いの中から二人も異能者が現れるなんて。


「一つ聞くが、手術は受けてないよな?」

「当たり前だろ!」


 雫は食い気味に即答した。まあ、男勝りなこいつが女になりたいと思うわけないか。ただでさえ身長のことを気にしているのだ。わざわざ自分から女になろうとは思わないだろう。


「言っておくが俺は医師でも能力者でもない平凡な人間だ。絶対に解決できるとは言えないぞ?」

「それでもいい。できれば日常生活の中でバレないようにフォローしてほしい」

「それについてはいいだろう。ただ、能力の解析のために何かしらの研究はさせてもらうぞ?」

「お、おう。エロいことはすんなよ?」

「ふっ、俺を誰だと思ってる? 今まで俺からその手の話を聞いたことはあるか?」

「いや、ない。正直怖いくらいエロい話に興味ないよな?」

「時間の無駄だからな。ダッチワイフに費やす時間があるなら情報を一つでも多く仕入れた方がいい」

「お前らしいわ」


 雫はそう言って学生服のボタンを閉め──


「二人ともー、こんなところで何して……」


 階段下から里美が顔を覗かせた。一瞬の思考停止の後、目を細めるようにして俺たちを見てきた。


「里美か。何、少し男同士の秘密というやつだ」

「あ、そう。なんか邪魔してごめん」

「お、おい。違う。俺は違うぞ!」


 俺の横にはボタンに手をかける雫がいる。それを見る里美の表情はどこか冷めたような色がある。

雫は何か必死に弁解しているが里美は反応を示さない。


「私、教室行ってるね!」


 そう言い残した里美は走って階段を降りていった。数秒後には、教室から「雫と友が上でやらしいことしてた!」と、里美の大音量の声が聞こえてきた。


「誤解だー!」

 雫は急いで里美を追いかけ、教室に戻っていった。


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