ストーカー?
二日目は優子から距離をとった場所で見張ってみた。そうしたらどうだろう。男は来なかったのである。運が良いのか悪いのか、男は同じ電車に乗って来なかった。それが事実であり揺るがない結果だ。
三日目。男は現れた。だが優子のすぐ後ろにつくようなことはなく、少し近くで止まった。
ここらから、本当にこの男は優子を狙っているのだろうかと思い始めた。
そして四日目。とうとう男は優子の背後についた。俺はこのチャンスを逃してはならないと男に肩を寄せた。もちろん怪しまれないように一度別の車両から降り接触を図った。優子が俺の腕を掴み男の思考を読み取ると、それが俺の中にも流れ込んできた。
初めての体験に驚きそうになるが、声を出すのはなんとか堪え男の考えを聞くことに集中した。
『来週から転勤で北海道とか、もうやってらんねー。この子を見るのも今日で最後か。どうせなら声かけてみればよかったな。それで付き合えたら最高なんだけど、そんなことあるわけないし、前科持ちになるのは嫌だしなあ』
何というか、葛藤というか煩悩というか。とにかく人の心を覗くという行為が褒められたものではないということがよく分かった。
「優子」
「……」
「降りるぞ」
「う、うん」
学校そばの駅に着いたことで俺たちは電車から降りる。男はそのまま電車で遠くへと運ばれていった。
「優子、読めたか?」
「うん」
俺と優子は男の思考を共有している。男の言っていたことが本当であれば、今日を乗り越えれば痴漢男問題は解決する。そも心の中で嘘をつく人間などほぼいないだろう。
「とりあえず今日のところは何もされなかった。来週も一応駅に来る」
「あの、ありがとうございました」
「は?」
優子は俺に頭を下げた。なぜ礼を言われたのかわからない。
「この一週間、電車に乗るの怖くなくて。それに私に合わせてくれて、その、里美以外で普通に話せる人があまりいないから。ありがとうございました」
「何を勘違いしている。俺はお前のテレパシーについて知りたいだけだ。お前と仲良くなれば能力について調べることも簡単になるからな。これは俺のためにやったことだ。だから礼を言う必要はない」
優子のもう一つの悩みである能力の消去。これもいずれは解決しなければいけない問題だ。ならば、ここで優子と近づく必要があった。
「それでも、里美以外の友達ができて嬉しかったです」
「友達?」
「え、友達じゃないんですか?」
「俺に友達という者はいない。必要ないからな」
「じゃ、じゃあ、私と友達になってくれませんか?」
優子は今までで一番近くまで寄ってそう言った。当初の予定ではここまで仲良くなるとは思っていなかったが、優子に何があったのか。それは俺には分からない。だが、
「手出せ」
「は、はい」
俺は右手を出し優子と握手をした。
「あ、ありがとう!」
「そうだな。お前はいつも敬語なのか?」
「ううん。最初は敬語になっちゃう。だけど、これからは普通に話すように頑張る!」
「慣れの問題だ。無理する必要はない」
「ありがとう。友君」
優子は俺の横で嬉しそうに微笑んだ。友達というのはそんなに良いものだろうか。俺にはよく分からない。だが、優子は俺にできた初めての友達ということになる。口では小っ恥ずかしいと感じることも、優子の能力なら伝えることができる。
優子の悩みはこうして解決された。だが、これは俺の物語の序章に過ぎない。