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優子

 話し合いを終えた頃にはすっかり日が落ち、教室には誰も残っていなかった。

 夏休みまではまだ一ヶ月以上あるというのに、最近はかなり暑くなってきた。エアコンの効いていない教室ではそれが如実に現れる。


「友、後はよろしくね!」

「ああ」


 校門の前で里美と別れた俺は優子と並んで駅に向かう。優子は俺から一歩離れた後ろで、俯きがちについて来る。


崎萱さきがや駅でいいんだよな?」

「は、はい……」


 やはり里美がいないとうまく話せないのか、優子は最初に話した時のように落ち着きがない。まあ、それも仕方のないことかもしれないが。


「今日から登下校を共にするわけだが、お前の方から何かあるか?」

「いや、特には」

「分かった。なら俺が質問するから三秒以内に答えろ。いいか?」

「え、あ、はい」


 優子は突然始まった質問タイムに慌てて顔を上げた。


「日本の首都は?」

「と、東京」

「今日の天気は?」

「晴れ」

「昨日の晩飯は?」

「え、えと……カレー」

「里美の好物は?」

「ご、ご飯」

「お前の趣味は?」

「えと、読書です」

「明日の五時間目は?」

「えーと……」


 返答に詰まった優子を待たずに次の質問を繰り出す。


「お前の得意教科は?」

「す、数学」

「お前と俺の今の距離はどれくらい?」

「……す、すみません!?」


 優子は慌てた様子で俺から距離をとった。あえて少し声を抑えることで聞き取ることに集中させていた。そのため、優子と俺の距離は拳三つ分くらいまで縮まった。だが、飛び退いた今は二歩分も離れてしまっている。

 この手の誘導は、質問の内容は重要ではない。答えが正解でも不正解でも構わない。他のことに意識が向いて、緊張が解れれば俺の目的は達成される。


「少しは慣れた方がいいぞ。これから毎日一緒なんだし。それに、電車の中ではもっと近くなる」

「そう、だね」


 優子は気合を入れて俺の隣を歩き始めた。まだ顔を見て話すのは無理だろうが、少しでも慣れてもらう必要がある。

 俺を経由して痴漢男の思考を読む。そのためには、優子に俺と接することに慣れてもらう必要がある。


「すぐにとは言わない。真偽を確かめる間だけだ。それに、能力のことも研究しなければ消す方法も探れないからな。どうせ一緒に登下校するんだ。能力について色々聞いてもいいだろ?」

「う、うん」

 言質は取った。能力を手にした時のために書き溜めていたノートがとうとう役に立つ。思う存分楽しませてもらうとしよう。



 それから優子と電車に乗り最寄り駅で別れた。俺はそこから徒歩で家に向かう。ここからなら一時間ほど歩けば家に着くため遠くはない。それに明日からは自転車を使う。朝七時三十五分に崎萱駅集合。そこから二人で学校に向かう。

 本当であれば里美にこの役をやってもらいたかったが、あいつはアホだから正直怖くて使えない。

 家に帰って翌日の準備に取り掛かる。ペン型カメラに小型のボイスレコーダー。念のためポケットにはメリケンサック、リュックの横にカッターを装備する。靴は走りやすいようにランニングシューズ。うちの学校が指定靴でなくてよかった。


「後は……優子の連絡先を聞いておくんだったな」


 優子はスマホを持っているんだろうか。俺は一応家族との連絡用に一台持っているが。


「明日聞いてみるか」


 ちなみに学校へのスマホの持ち込みは禁止だ。当然見つかれば怒られるし、たまに抜き打ちで荷物検査も行われる。だが、夏休みも近くなり数週間後にはテストだ。先生たちは忙しくなり荷物検査の頻度は落ちる。


「準備万端だな」

「お兄、何その荷物。いつもペラペラな学生鞄背負ってるくせに」


 リビングでリュックの中身を詰めていると妹のかなでが話しかけてきた。家の中では他人のように接して来ることはなく、いつも通りの様子だ。ここまで切り替えがはっきりとしていると、自分の妹が二重人格なのではと疑いたくなる。


「異能を持っている友人を助けるための装備だ。明日から朝早く出るから、寝坊して遅刻するなよ。母さんは俺みたいに起こしてくれないぞ」

「出たよ中二病。って、いつもちゃんと起きてるし!」


 奏は呆れながらツッコンだ。お前の「ちゃんと起きてる」はちゃんと起こされてるの間違いだろう。まあ、こいつは七時半を過ぎないと絶対に起きないから、明日は遅刻確定だろう。


「忠告はしたぞ」


 俺は荷物を片手に二階の自室に戻る。明日に備え今日はもう寝るところだ。その前の日課は欠かせないが。


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