ストーカー対策作戦会議
――能力を消したいだと!? 何を馬鹿なことを言っているんだ。その能力があれば俺の研究ノート四ページ「テレパシー能力」がさらに埋まり次の段階に行けるというのに、この女は何を言っているんだ。せっかく得た非常識の力をなくしたいなんて正気じゃない! だが、
「能力を消す方法までは分からない。だが善処はしよう。言っておくが俺は少しだけ頭のおかしい一般人だからな? 異能も何もない、平凡な中学生だ」
「私も平凡に戻りたいんです」
「なぜ能力を消したいか、聞いてもいいか?」
「……」
優子は俺の質問に対し首を横に振った。ならば無理に詮索する必要はない。俺は能力について研究できればそれで十分。能力がいらない理由などには興味ない。
「それじゃあ、ストーカーの対策会議を開こう」
俺はルーズリーフを一枚取り出しペンを構えた。
「友、私もいいの?」
「ああ。お前には藤山との仲介になってもらう。というか壁だな」
「壁! 私は壁!」
なにやらやる気になった里美は両の手を握りしめている。壁はそんなに嬉しい役割だろうか。まあ、優子は里美の後ろに隠れてじゃないと話ができそうにないから、こちらとしてはやる気があってくれた方がやりやすいが。
「それじゃあ。ストーカー対策案を出していくから、何か意見があれば言ってくれ」
「はい」
まずは、男の通勤時間や乗ってくる車両はいつも同じなのかどうか、だな。
「一緒にならない時もあります」
事件を調べる刑事の如く、質問内容と藤山の話をノートにまとめていく。
俺の問いに優子は迷いなく答える。俺と話すのに慣れてきたのか、話し方が普通になってきた。
時間をずらすというのは解決にならないな。遭遇率は減るだろうが、男が本気で狙うようになれば時間を合わせてくるだろうし、男を排除するか電車に乗らないという選択をする必要がある。
「電車以外での通学方法は?」
「バスは通ってなくて、自転車はないです。歩いて来るには少し遠くて」
「なるほど」
電車以外での通学方法はない。この感じだと、親の送り迎えも期待できそうにないな。おそらく家族に心配をかけたくないか、テレパシーなんて信じてもらえないのどちらかだろう。
「一緒に登下校するような友達は?」
「同じ路線の友達はいないです」
登下校に一人になるのは避けられない。手っ取り早いのは男を現行犯で捕まえることだが、実行に移すかどうかが分からないからな。
「そうだ。テレパシーの力で会話はできないのか?」
「会話はできません。こっちが一方的に聞こえるだけで」
会話は不可か。あれをするには両方の人間がテレパシーを使える必要があるのだな。また一つ面白いことを聞いてしまった。
俺は今出た話を簡潔にノートにまとめる。現状でできそうなことは何もない。
「うーん」
隣で里美も考えている。難しい問題だが、できるなら解決に持っていきたい。
「一つ実験をしてもいいか?」
「はい?」
「里美、手出せ」
「いいよ」
「里美と藤山は手を繋げ」
「はい」
俺は里美と、里美は藤山と手を繋いだことで、俺と藤山が間接的に繋がっていることになる。
「この状態で俺の考えていることは読めるか?」
「……はい。これは、青空と凧……あ、なんかたこ焼きが出てきました」
「里美、お前たこ焼きのこと考えただろ」
「私にも見えた! 凧が空を飛んでた!」
やっぱり里美はアホだった。凧からたこ焼きを連想しやがった。
だがこれで分かったことが一つ。テレパシーは間接的にでも通じるということだ。間に挟む人間が多ければその分情報量は増える。そしてこれは俺の想定外のことだが、優子が人の考えを読み、その中継に人がいた場合、その人間にもイメージが伝わるということだ。
「これは服越しでも大丈夫なのか?」
「はい。電車では肩が触れてる程度なので」
これは面白いものを見た。しかし、これで少し解決策が見えてきたぞ。
「その痴漢男が出るのは朝ということでいいか? 放課後には出るのか?」
「朝だけです」
「分かった。これは俺からの提案なんだが――」