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告白?

「薙宮友。話がある」

「ん?」


 リュックに手を通し、さあ帰ろうというところに話しかけられた。教室内には相変わらず俺一人。教室後方の入り口からエリカがこちらを見つめていた。

 その表情はどこか覚悟を決めたような、思いつめた表情をしている。


 放課後の教室に男が一人。そして強い意志を感じさせる表情の女子が「話がある」と言った。漫画やアニメの世界では何か、とても大事なことを打ち明けるようなシチュエーションだ。それが愛の告白であったり、自分にとって大事な秘密であったり、理由は様々考えられる。


「なんだ?」


 そして俺はエリカの秘密を知っている唯一の人間。つまり奴にとって俺は、同胞として接するか、敵対するかの二択。俺を排除し安寧の学校生活を手に入れるか、それとも俺と手を組み自分のあるがままの姿を晒すことを選ぶのか。


 エリカは中二病である。それもかなり重度の。エリカはなりきりタイプの中二病だ。自分の設定に忠実に従いそれを演じる。そしてエリカの場合は少し特殊な設定を持っている。

 表向きは完璧美少女ヒロイン。そして中二病であることがバレないようにしている。表と裏がある二面性を持ったキャラクターだ。


 普通の中二病は中二的な面と素の二つのキャラクターだが、エリカの場合は完璧美少女と中二病がキャラとして存在しているため、まだ俺も素のエリカを見たことがない。もしかしたら完璧美少女の方が素のキャラなのかもしれないし、中二病が素なのかもしれない。だが、その可能性は低いと考えている。


 俺が見るに、あいつは二面性を持つキャラクターに魅力を感じ、そしてそれになりきることこそを目的にしているように感じるのだ。


「お前は私の正体にとっくに気づいているのだろう?」

「ああ。そうだな」


 エリカは教室の中に入ってきた。ゆっくりとこちらにまっすぐに向かってくる。


「私はここにとある任務でやってきた」

「ふむ」

「私はお前を殺さなければいけない」

「随分と、穏やかじゃない雰囲気だな」

「……分かっているくせに」


 うん。よく分かってないけどなんとなく話が進んでるのは理解した。それでだ、こちらが全てを理解している前提で話を進めるのは本当に良くないことだと思うぞ。


「お前には我が星のために死んでもらう」

「何を……」


 エリカは制服の内ポケットから銃を取り出した。

 黒いボディがその手中に収まっている。銃口は真っ直ぐに俺を捉えている。ザラザラとした触り心地のグリップ。ハンドガンのようだ。あまり銃の知識はないが、エリカが持っているのはそれによく似ている。


「それは人に向けるようなものじゃない。怪我をするぞ?」


 俺が。


「これでお前を殺す。そして……」

「やめておけ。無駄だ」


 俺は右手を前に出し左手を顔に添える。エリカに対して体を斜めに見せ、そして目を瞑りそれっぽいポーズをとる。

 正直怖い。エアガンと分かっていても痛いものは痛いし、そもそも痛いの嫌いだし。え、空砲だよね? 弾込めてないよね? 超怖いんだけど。


「この距離では絶対に外さない。さらばだ薙宮友」


 エリカはそう言い引き金を引いた。パスっという小さな音がなったと思うと、弾が俺の顔を掠める感覚がした。


「な、なぜ……!?」

 エリカは驚いたような声を出し、弾が空になるまで連射した。俺はその間一度も目を開けていない。開けられない。目に入ったら最悪失明もありえるからな。


「なぜ一発も当たらない!」

「それはお前が一番よく分かっているだろう」


 エリカのなりきりはまだ続いている。というか本当に当てるつもりだったのか? それともわざと外しているのか?

 どっちにしろ全弾撃ち尽くしてしまえば怖くない。


「それを下ろせ」

「くっ」

「お前の用件を言え。俺にできることなら力になろう」

「何?」


 エリカは驚いた表情を浮かべる。まるで俺の提案が予想外とでも言いたげな顔だ。

 こいつの中でシナリオがどうなっているのか、全く想像がつかない。だが、俺はこいつに合わせてこの場を乗り切ってみせる。なぜならこいつは俺にシンパシーを感じて、こうして他には見せていないもう一つの面を曝け出しているのだ。こいつが俺を頼れなくなったら、いつか俺以外のところで爆発してしまうかもしれない。それだけは避けなくては。

 俺にとっても、まともに話ができる人材を無駄にはしたくない。


「私を殺さないのか?」

「俺は利用できるものはなんでも使う。たとえそれが敵だとしても」

「私はお前を殺そうとしたんだぞ!」

「殺してなどいないし、お前に俺は殺せない。大事なのは結果ではないのか?」

「お前は、私に、私たちの計画についてどこまで知っている?」


 まったく知らないです。できれば話してほしいが、どうやって聞き出すか。こちらが知らないというのは悟られないようにした方がいいだろう。

 おそらく想像できるシナリオとしては、強力な敵に情報を握られ、その排除に動いたが返り討ち。そして決死の覚悟も虚しく敗北。


「それはどうだろうな。敵に手の内を明かすほど俺は愚かではない。お前が俺の仲間になるというのであれば、教えてやらんこともないが?」

「……私は敗北した。生きている資格などない。だからといって自死を選ぶほど高潔な思考も持っていない」


 エリカは自分語りを始めた。概ね俺の予定通り。後はエリカが自分の設定について事細かに説明してくれる


「――私はそうしてこの星に来た」

「ふむ。そうだな」


 エリカは幾星霜にも及ぶような長い話をしてくれた。その出自から現在に至るまで。そして自分の所属する星について。とても一度で覚えきれる内容ではなかった。

 エリカの話を聞いていて気づいたことが一つ。こいつは中二病などではなかった。本物だった。マジモンの異星人だ。話の内容もそうだが、転校してきてからの話を聞くに、間違いないだろう。そう考えると、さっきの銃。もし当たっていたら俺は死んでいたかもしれない。ヤバイヤバイ。マジでヤバい。今この状況もかなりヤバい。


 しかしだ。そう考えると、エリカが勘違いしている状況というのは好都合だ。何も気づいていない普通の中学生だと、今バラせば確実に殺されてしまうのではないか。そう考えると、もう後戻りできないところまで来てしまっている気がする。エリカの中で、俺が凄腕のエージェントになっているのなら、俺はそれを演じ切らなければならない。さもなければ、俺が終わる。


「許してくれるのか?」


 そもそもなぜエリカが本物であると言い切れるのか。リアリティなんて糞食らえ。こいつの言っていることとやっていることがマッチしすぎている。それに、俺は自分の後ろを見てしまった。黒板の横にある複数の穴を。さっきまではなかった。何かに撃たれたかのような跡だ。


「言ったはずだ。俺は利用できるものは全て利用する」


 長くなると言って雫の席に腰を下ろしたエリカは静かに涙を流す。


「私は星に帰ることはできない。任務を失敗した人間に居場所はない」

「ならば俺と共に歩もう。この星はまだまだ綺麗とは言い難い。俺たちでこの世界を変えるのだ」

「薙宮友……」

「エリカ、俺と友達にならないか?」


 俺はそっと手を差し出した。エリカは俺の右手を見て逡巡する。困ったような、だが少し嬉しそうな顔だ。


「こんな私でよければ、いくらでも頼ってくれ。これからは友人として、お前の隣に立とう!」

「ああ。俺とお前の目指すところは同じだ」


 エリカは俺の手をがっしりと握り返してきた。エリカの中での俺は、地球規模での事件を扱う超エリート工作員ということになっているはずだ。

 なんとか乗り切れただろうか。だが、いつボロが出るか分からない。


「最近は雫や里美を見張って調査していたんだ。そして友のことも実は監視していた」

「そ、そうか」

「ああ。校舎裏に行ったことやトイレに立ったのも全てだ!」

「そうか」


 え、GPSとか付けられてんの?


「それはどこに?」

「ああ。今取ってやる」


 エリカはそう言って俺の頭を両手で押さえつけた。


「なんのつもりだ?」

「なぜこの追跡装置が外されていないか考えたが、そもそも地球にはない技術だった。気づけたとしても外せない」


 エリカはは俺の額に自分の額を押し当てる。エリカの長い睫毛は凛とした力のある目がすぐ近くにある。


「これは生体認証で取り外しできる特殊な追跡装置だ。こっちの言葉で言うとGPS」

「それは分かったが、いや、やめておく」


 これを言えば俺の設定が揺るぎかねない。それに、これが常識なのだとしたらエリカに他意はない。下心もなければ水心もないだろう。


「そうだな。俺以外にはやらない方がいいだろう。もちろん人前でもな」

「分かった」


 エリカは納得した様子で頷いた。


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