テレパシー
六時間目の授業を終えると掃除が始まり、その後に帰りのホームルームをして帰宅。四時に学校が終わるため、その後は自由な時間となる。放課後には部活があるが、美術部幽霊部員の俺には関係ない話だ。帰って日課のノート作りでもするとしよう。
「友。話があるんだけど」
と、俺がいそいそ帰り支度をしているところに里美が話しかけてきた。
「なんだ。俺は忙しい」
「友の好きそうな話なんだけど」
俺の好きそうな話? それは月の裏側には何があるかとか、アメリカが認めた未確認飛行物体のこととかか?
「それで?」
俺は手を組んで両肘を机に付き、組んだ手を顎にあて聞く姿勢をとった。俺のルーティンだ。里美も俺が聞く気になったことを察して本題に入る。
「この子が相談があるって」
「この子?」
「あ、あの……」
里美の背後から女の子が顔を出した。里美よりも身長が低く、今まで里美の後ろに隠れていたようだ。
「藤山優子か。何の用だ?」
「そ、その……」
人見知りの優子は里美の後ろでもじもじとしている。聞き取れるかどうかというほどの小さい声で喋りだした。
「里美、代弁してくれ」
「はあ!? いきなり何言ってんの友! こんなところでうんこなんかするわけないじゃん!」
「お前こそ何言ってんだ。代わりに話せって言ってんだ!」
「ああ、そゆことか!」
里美は納得がいった顔で頷いた。「友は馬鹿だなー」と笑って優子の話を代わりに話し始めた。馬鹿はお前だ。
里美の話は簡単なものだった。友人の優子にテレパシーの能力が出現し困っている。ということだ。
「テレパシーね。それで証拠は?」
「あの、手を出してもらもいいですか?」
「ん? いいが?」
優子は里美の後ろから俺の手を握った。器用なものだと感心していると、
「今、器用だって思いましたね?」
「そうだな」
優子は一発で俺の考えていることを当てた。だが偶然ということもある。ふむ。
「今考えているのは……これは何ですか? 色、のような何か。とても抽象的なものです」
「ほう。当てずっぽうというわけではなさそうだな」
俺が今考えていたのは優子が言った通りの内容だ。口で説明するのが難しい映像を考えれば相手に伝わるのもその映像。何か適当に言っても当たることは絶対にないと思う。別に疑っていたわけではないが。
優子は信じてもらえたことが分かると、俺の手を離し顔を少しだけ覗かせた。
しかしテレパシー能力。諦めかけていたが身近にいたとは思わなかった。
「話は分かった。それで、悩みっていうのは?」
「あの、人に触れている時に声が聞こえてくるんですけど、電車でよく会う人に狙われてる、と思うんです」
「ストーカーか」
「あ、まだ直接何かされたわけではないんですけど……」
「それでも声が聞こえたのだろう? 命の危険を考えれば必要な警戒だと思うぞ」
ストーカーという言葉に抵抗があるのか、それとも、まだ何もしていない人間を悪人呼ばわりすることに罪悪感があるのか。どちらにせよ、この問題は解決する必要がある。
この件で優子と仲良くなることができれば、テレパシー能力について色々と探ることもできるだろうし。
「それで、ストーカーをなんとかするのが目的でいいんだな?」
「それと……」
「なんだ?」
「この能力を消したい、です」
「……そうか」