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悪霊退散‼︎

 雫はあの一件以来自然と女になることはなくなったという。だが、たまに女の体で色々と勉強をしていると言っていた。能力を使って人生を楽しめているのなら何よりだ。


「優子、テレパシーの制御はどうだ?」

「うん。それがね――」

「ふむふむ」


 優子とのテレパシー実験が再開された六月。外は生憎の雨模様だ。体育館は中の部活が使うため、普段校庭で活動しているサッカー部が、廊下を走り回っている。校内をひたすら走り続けている。

 隣の空き教室では、野球部が筋トレをしているのが掛け声で分かる。


「ということは、これをこうして……」


 そして、教室ではいつものように俺と優子がテレパシー実験を行なっている。教室に残っている人間はおらず、今日は貸切だ。


「お、友と優子じゃん。まだ残ってたのか」

「雫か」


 人の気配を感じた俺は咄嗟にノートをしまった。


「何してたんだ?」

「藤山に俺の知識を伝授していた。お前もどうだ?」

「お、俺はいいよ」


 雫は顔を引攣らせながら距離を取る。雫にはちょっとしたトラウマがある。小学生の俺に六時間長々と異能やら魔法やらの話を聞かされたのだ。俺が異能について話し始めたら止まらないということをよく理解している。


「優子もよく飽きないな」

「楽しいよ?」

「ああ、お前も普通でない道に足を踏み外してしまったか」


 雫はわざとらしくそう言い、自分の荷物を手早くまとめる。逃げるような雫に、だが俺は引き止めるようなことはしない。何故なら――


「悪霊退散!!」


「うぉっ!?」


 突如教室に飛び込んできた人間に、顔に何かを投げつけられた。砂のような細かい粒のようだが……。


「薙宮殿、大丈夫ですか!?」

「その声は霊子か?」

「霊子です!」


 霊子と名乗った女は俺の顔にかかったものを丁寧に拭き取っていく。

 幽霊子かすかれいこ。俺と同じ二年生の女子で、別のクラスに属している。黒い長髪に不気味な笑い方。そして髪に隠された顔は誰も見たことがない。付いたあだ名は『貞子』。

 訳あって俺と交流を持っているが、こいつは霊能力者だ。


「それで、何故急に塩なんか投げつけた?」

「悪霊が薙宮殿に取り憑こうとしていたので」

「なるほど」


 俺は別に怒ってはいない。突然塩を投げつけられても、こいつが除霊のためだと言うのならそれは本当なのだろう。

 ここまで信用しているのは、霊子がこの世界で初めて出会った能力者だからだ。


「それで悪霊は?」

「今はいません。それよりも大変なんです」


 霊子はそう言って怪談を話す時のような雰囲気を醸し出した。心なしか教室内が暗くなったような気がする。


「これは先日のある日のこと――」



 生まれつき幽霊という存在が見える霊子は、幽霊が見えるのが当たり前だった。見えるだけで何かできるわけではないが、幽霊という存在が、完全な悪ではないということを知っていた。

 故に霊子は幽霊と共存する道を選び力を自分のものとした。だがある日、霊子の力でも存在を捉えきれない大きな幽霊を目撃した。

 真っ黒い姿に大きな翼。悪魔と形容するのが正しいその存在は、この中学校に現れた。

 異様な存在に霊子はその場で動けなくなってしまった。

 悪霊は一人の生徒に呪いをかけたという。その呪いはその人間のオーラを黒く染め上げ、侵食していった。


「それが、藤山優子さんと、峯山雫さんだったんです」

「この二人が呪われているのか?」

「正確には呪われていた、ですね。今は黒いオーラは無くなって、むしろ以前よりも強い力を感じます」

「以前よりも強い?」

「はい。黒い力を吸収してより強大なオーラになってます。この若さでこれだけのオーラを纏っているお二人は、将来必ず大物になるでしょう」


 霊子は決して嘘をついていない。一年前に知り合い、共に能力について語り合った俺だから分かる。こういう時の霊子は本気だ。


「悪霊の呪いか……。その悪霊を見た日は覚えているか?」

「五月の一日と二十三日」


 俺はノートにメモを取る。一日と二十三日は重要なキーワードだ。二十三日には心当たりがある。


「それで、俺は呪われているのか?」

「間一髪間に合いまして、清浄なオーラを見に纏っています」

「そうか」


 黒い悪霊の存在。そして呪われたという優子と雫。強いオーラ……。関係ないとは言い切れないな。


「霊子。その黒い悪霊について調査を頼んでもいいか?」

「任せてください。初めて見た後に高純度の護符を婆様に作ってもらったので!」


 霊子はそう言いながら鞄に手をかけ、一枚のお札を取り出した。


「恐山のイタコが作った強力な護符。身につければ悪鬼退散清浄結界の霊装を即席で作り上げる代物です!」

「おお! それはすごい!」


 つまり、この護符を持っていれば常に結界に守られている状態ということだな。


「これは薙宮殿の分です!」

「ありがとう」


 霊子が出した護符を受け取りリュックにしまう。


「それと、これは私が作ったシール型の護符です。その護符はリュックに入れるんですよね。このシールは水で肌に貼り付けるタイプなので、もしよかったら使ってください」


 霊子は持ち運びが便利そうな小さいタイプの護符を渡してくる。


「ただ、それは婆様が作った物より弱いので、あまり期待はしないでください」


 恐山のイタコ。一度会ってみたいものだ。


「二人はいいのか?」

「お二人は既に呪いを克服し、強いオーラを纏っているので護符の力は必要ないでしょう。では、私は早速調査に向かいます!」


 それから霊子はスキップをしながら帰っていった。すれ違う生徒たちが引き攣った顔をしているのが想像できる。

 霊子は俺が認める人間の中でもかなり特異で異質だ。だが、それがいい。その普通ではない価値観や考え方、そして俺の考えを理解し共有してくれた初めての人間。


「やはりあいつは本物だ」

「とりあえず俺らも帰ろうぜ」

「そうだね」


 雫と優子がそう言ったことで俺もリュックを手に取った。

 霊子からの情報により、この異能の件に関して大きな進展が生まれた。家に帰ってこの頭の中の思考を纏めれば、俺も……。



 霊子から護符を貰ったのが六月六日の放課後のこと。

 家に帰った俺は霊子からの情報をまとめていた。

 一日に優子、二十三日に雫。これは異能を手に入れた日付だろう。二人が悪霊に呪いをかけられ、そして異能が発現した。


 黒いオーラというのが呪いで今はない。これは能力の制御に成功したということだと思う。雫は性別を操り、優子も最近能力のコントロールに成功したようだ。


「ということは悪霊に呪われることが異能を得る条件。だが、霊子があそこまで本気で反応するということはかなり強力な悪霊なのだろう」


 霊子は大抵の幽霊には驚かない。むしろ背後霊を複数連れることで力を強くしているらしい。


「俺にも霊が見れる力があればな」


 悪霊に接触を図り呪いをかけてもらう。そうすれば俺にも異能が出現する、かもしれない。

 これは仮説だが、もし悪霊が今回の件に関与しているのであれば利用できるかもしれない。


「面白くなってきた」


 柔らかな光に照らされた机の上。開かれたページには、霊現象や幽霊と名のつくものについてまとめたものが書かれている。

 机に備え付けられたライトが文字を照らし怪しい光を帯びる、ように見える。特殊な蛍光ペンで書かれた一節。『死魂創造』


「降霊術の一種であるこっくりさんやひとりかくれんぼ。それとはまた違う、共通点から俺が作り出した降霊術」


 この文字は暗い部屋で局所的に照らすことで良く見えるようになる。普通の部屋で見ると少し見づらいくらいで見えないことはない。こういうギミックに憧れるのは人の性だろう。


「明日からは悪霊探しだ」


 俺は明かりを消し、不敵に笑った。


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