龍虎&虎龍
「私とやるつもりか?アホみたいな赤髪ヘアーの分際で⁈」
黒と黄色の虎柄スカジャンにベリーショート短パン。金色に染めた長めの髪を頭のテッペンで纏めた。関西弁の女【虎龍】が、サングラスをずらして睨みを利かす。
「何をですか?その下品な金髪剃りましょうか?」
濃い緑色で鱗柄のスーツをスマートに着こなし、ベリーショートの整った赤い髪をかき上げ、眼鏡越しに睨み返す。鋭い目つきの女【龍虎】。
互いの髪を掴み睨み合う2人。双方一歩も引く気配はなく、2人の間には火花が散り続けている。部屋には複数の署員が各々仕事に励んでいるが誰1人としてつかみ合う2人を気にする者はいなかった。
そんな時、所長室の扉が開き中から現れたガタイの良いスキンヘッドのおっさんが、部屋に入るやいなや、2人に駆け寄り頭にゲンコツを振り下ろした。
「いったー。……所長!何するんですか?今のご時世、言葉使いにすら気使わなあかんのに、手上げるなんて御法度とちゃいます?」
「っつ。……所長?何をなさるんですか?上に立つ者としてこういった行動は如何な物かと。この件は上に報告しますのでそのつもりで」
「お前らこんな時だけ団結してるんじゃねーよ。毎日毎日飽きもせずに所内で騒ぎやがって。いいからさっさとパトロールに出掛けろ!」
所長に追い出されるように龍虎と虎龍は建物を出た。2人は小競り合いを続けながら車庫に向かう。黒白ツートンカラーのポリスカーがズラリと並ぶ前を通り過ぎて、車庫の隅で車カバーがかかった車の前で足を止めた。
龍虎が車カバーを外すと2人乗りのスポーツカーが姿を現した。カラーリングは黄色と赤のツートンカラー。赤パトは付いておらず、後付けの赤パトが座席の後ろに乱雑に置かれている。
運転席に龍虎、助手席に虎龍が乗り込んだ。龍虎が車のエンジンをかけると3000ccの震えるエンジン音が車庫に響いた。
虎龍が無線機のスイッチを音に入れると直ぐに逃走車両、追跡応援こ無線が入り虎龍はレシーバーを取り返答する。
「りよーかーい。01号車追跡しまーっす」
虎龍が返答を終えたレシーバーを元に戻すとそれを合図に龍虎は車のギアを入れ急発進した。虎龍は座席の後ろの赤パトをガサゴソも手探りで探し出し見つけると車の屋根に取り付けスイッチを入れた。
「はーい。緊急車両とーるでー。さっさと道開けな全員逮捕やー!」
アナウンスを聞いた車両が続々と路肩に寄って道を譲った。
2人が乗るスポーツカーは、サイレンを鳴らしながら猛スピードで走り抜けた。
「あー、あー。こちら01号車やー。只今現場きゅーこーちゅー、対象車両の情報プリーズやで。…………はーい。あんがとーな!龍虎、敵さんは市内から高速道路に乗って南下中やー」
「通信聴こえてますよ。あと、何回も言ってますがダッシュボードに足を上げないでください。臭いですよ」
「誰の足が臭いねん⁈お前がこない狭い車、転がすから足の長い自分には窮屈でしゃーないんじゃ!」
時速100キロを超える移動中でも車内では小競り合いが収まることはなかった。途中、2人が乗った車は車線を変えて高速道路に進入した。
まだ夕方のラッシュ時刻ではないが既に高速道路には多くの車が走っていた。
「ほれ、龍虎。あんたの腕の見せどころやでー」
「うっさい」
高速走行する赤と黄色のスポーツカーは3車線に渡る路を巧みに縫う様に走り抜ける。狭い所では数センチ単位の車間距離を苦にもせず次々と抜き去り、遂に2人は対象車両を目視で捉えた。
レシーバーで対象車両周辺のに呼びかけ距離を取らせると2人は車を対象車両の真横につけた。
「もう終わりじゃー!諦めてさっさと止まらんかい。こちとら忙しくて昼食もまだ取れてないんやぞー!」
逃走車両に乗る2人組の男は2人を見て馬鹿にしたように笑い、引き離すよう更に加速させた。
その様子を見た虎龍はレシーバーを元に戻して、先程までダッシュボードに上げていた足を下ろしハイカットのブーツの紐を強く結び直した。
「あのガキどもええ根性や。龍虎、近くまで寄せてんか」
「またするの?全く。虎龍、銃は置いていきなさいよ」
「わかってるわ。サポート頼んだでー」
会話を終えると2人の車両は逃走車両の真後ろを車間距離数十センチで走る。虎龍は窓を開け身体を外に出すと、屋根によじ登った。
100キロを超える速度で走行する車の上を車体に捕まりながらフロント部分へ移動すると勢いよく逃走車両に飛び移りしがみついた。
屋根まで移動した虎龍はズボンの後ろポケットから取り出したメリケンサックを右手に握りしめて運転席の窓を殴り割った。
そして割れた窓から差し込んだ手で運転席に座る逃亡犯の胸ぐらを掴むと激しく揺さぶった。
「オラーッ!お巡りさんが止まれ言うたらさっさと止まらんかい!このクソガキがー」
「ヒーッ!やめて、やめて!運転できませんって!ぶ、ぶつかりますー」
緩やかなカーブに差し掛かった所を逃走車両は曲がりきれずに側面を壁に擦りつけながら走った。ドライバーの男は虎龍に対する恐怖心とぶつけて気が動転した事が相まってブレーキを力いっぱい踏み込んだ。
虎龍は急速に速度が落ちた車から前方に大きく飛ばされ宙を舞った。しかし地面に打ちつけられる寸前の所で、ドリフト走行しながら走る龍虎の車両が、開いたままになっていた助手席の窓で虎龍を拾った。
龍虎がブレーキを踏み車を止めると、上半身だけが車内に入った虎龍は親指を立て龍虎に笑いかけた。
「あー。これなら臭くないのでこれからはそうやって乗りなさい虎龍」
「このボケ、今ええ感じやったのにそれはないやろ」
その後、暴走運転を繰り広げた容疑者を後続のパトカーに引き渡し2人は自分達の車両に歩いて戻る。
「あー腹ペコペコやー、とりあえず飯行こか。商店街の喫茶ナポリのナポリタンにしようや」
「先週食べたばかりでしょう。今日はお蕎麦にしましょう」
「何でやねん、こんだけ身体動かしたら濃いのが食べたなるのが、この世の常やのになんで蕎麦やねん」
「ならカツ丼でも食べればいいじゃない。蕎麦屋にもカツ丼はあるわよ」
「ちゃうちゃう、麺の気分なんやってー。……ほな間をとってラーメンで手打つわー」
「何処の間ですか、何処の!」
「和食と洋食の間はたぶん中華やろ〜」
2人が乗り込んだ車は夕日が照らす中、ラーメン屋を目指して走り去って行った。
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