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浩司と会う義人

 怒って店を出て行く瑠美を、俺は黙って見送るしかなかった。


 瑠美があの男の事で、これ程怒るとは予想外だった。まさか、瑠美はあの男の事を好きになったのか? いや、さっきの様子だと、そこまでの関係にはなっていないだろう。もし好意を抱いていたとしても、瑠美の性格から絶対に不倫する事はないだろうし、それは心配していない。ただ、好意が愛情にまで変わると厄介だ。記憶を取り戻したとしても元の俺達夫婦に戻れないかも知れない。


 俺はすぐに、浩司と連絡を取った。織田という奴の情報を聞き出す為だ。浩司も愛佳の事が気になるのか、すんなり明日の水曜日に会う予定が決まる。明日は俺も午後から仕事があるので、昼休みに浩司の職場近くの喫茶店で会う事になった。


 午後十二時少し前に店に着き、席を確保する。盆休みを目の前にして、店内に居る薄着のサラリーマン達もどこか浮ついているように見える。盆休みなど逆に忙しくて休めない俺は、時々聞こえてくる休暇中の予定話などに軽い嫉妬を感じながら浩司を待っていた。


 オーダーした日替わりランチを食べ始めた頃、浩司から会社を出たとラインが入る。しばらくして本人が店に入って来た。


「愛佳は元気か?」


 浩司はまだ席に着いていないうちから、俺の顔を見るとそう聞いてきた。


「ああ、変わらず元気だよ。家事も一生懸命やってくれているよ」

「そうか……」


 浩司は元気と聞いても嬉しそうな表情を見せず、むしろ悲しそうな顔で席に着いた。


「お前、愛佳になにもしていないだろうな」


 浩司も日替わりランチをオーダーした後、そう聞いてきた。


「安心しろよ。変わらず手は出していない。そんな事したら、余計に出て行かないからな」


 浩司は少し安心したように水を口にしだ。


「今日は何の用なんだ?」

「お前と一緒に俺の部屋に来た、織田って奴の事を教えて欲しい。お前とどういう関係なんだ?」

「織田……どうして織田さんの事を?」

「奴が瑠美と会っていたんだよ。まだ浮気してはいないようだが、あいつがどんな奴なのかってね」

「瑠美が? どうして瑠美が織田さんと?」

「お前も知らないのか? 仕事の関係で偶然知り合ったそうなんだが……」

「そんな偶然があるのか……正直、僕も織田さんの事を良く知らないんだ。会社の先輩の旦那さんってだけの関係だから」

「会社の先輩の旦那さんってだけ? どうしてそんな関係の薄い人間と俺の部屋に一緒に来たんだ?」

「あっ、それは……」


 浩司は明らかに動揺した。この表情は、何かやましい事があるんだろう。


「なんだよ、言ってみろよ」

「な、何でも無いよ。偶然会ったんで、付いて来て貰っただけだ」

「ほとんど良く知らない、偶然出会った知り合いに、あんなプライベートな騒動に付いて来て貰うか? 普通」

「あっ、いや、たまたま方向が一緒だったと言うか……」


 こいつは絶対に何か隠している。どうする? 無理やりにでも聞き出すか?


「お前の先輩である、織田の奥さんは、奴が瑠美と会っている事を知っていると思うか?」


 無理やり聞き出すにしても、この様子だと浩司はなかなか口を割らないだろう。とにかく織田と瑠美を合わせない事を優先すべきか。


「それは分からないな。僕も今初めて聞いたくらいだからな」

「その先輩に旦那が瑠美と会わないように言ってくれないか?」

「えっ、友里さんに?」

「織田友里さんって言うのか、その先輩」

「そうだけど……」

「なんとか頼んでくれないか? 今は瑠美もそのつもりは無いが、織田に下心があって口説いたりするかも知れんしな。奥さんの方から牽制して欲しいんだ」

「そうか……」

「頼むよ。俺も瑠美に戻って来てもらい、愛佳がお前の元に帰るのが一番良いと思っているんだ。そういう意味で、俺達の考えは同じだろ。協力すべきじゃないか」


 俺が頭を下げると、浩司は少し考えている。


「分かった。話してみるよ」

「ありがとう。助かるよ」


 その後、俺達はランチを食べながら、他愛のない話をして別れた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 浩司ってその時その時を凌ぐ事しか考えないのな。 友里が裕樹に「浩司君から聞いたんだけど~」なんて話したら、裕樹は浩司が相変わらず友里と仲良くしてる事分かって怒るだろうに。
[一言] この間男マジで終わってるな 罪悪感があったら浮気相手に話すなんてできないだろ まともなの主人公だけって印象なんだが? 間男には制裁して欲しい
[一言] 争いの火種を持ってくるのが不倫相手…こいつはやべぇ…
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