第十六話 To the river road -リバー街道へ-
ライアー街崩壊から五時間後、医務室に居る結城拓真はリリィに治療を施されていた。
「いってて……」
「随分無茶しましたね、他の方々も診ましたが貴方以上に酷い人は居ませんでしたよ」
「名誉の傷って事にしておこうかな……」
「その割にはすぐ帰還しましたけどね」
「あはは……」
リリィの容赦のない言葉に苦笑いを浮かべるしかなかった結城拓真は、それ以降口を閉じて治療を受け続ける。
医務室の中はバタバタと忙しなく人が動いており、結城拓真はその様子を眺めながらライアー街での作戦でどれだけの被害を受けたか想像していると、内藤とルーク……そして一輝とアルバが結城拓真の元にやって来た。
「結城さん大丈夫ですか?」
「まぁなんとか……今の医療は進んでるからね……数時間もあればとりあえず動けるぐらいには……」
「俺の胸に開いた穴もすっかり埋まりましたからね……パーツ単位で人体生成できるなんていい時代になったもんですよ」
「だからって無茶すると、結合が弱いのでぽろっと取れますよ」
内藤は冗談交じりにそう言うとリリィは真顔で指摘し、内藤は顔を引きつらせ一瞬静かになる。
「そ、そういえば一輝? お前兄弟とかいるか?」
「え? なんですかいきなり? 居ませんけど……」
突如内藤に話題を振られた一輝は驚き否定すると、ルークは首を傾げた。
「じゃああれは一輝のクローンって事か」
「俺のクローンですか?」
「そう、全く顔が同じでさ……俺とルークで仕留めようとしたんだが軽くいなされてさ」
「僕らの所に来たのもそいつだったんですかね」
「剣を持ったアイツか」
「そうそう、剣を持ってたな」
E2ゲート付近でウィリー達と交戦した人物と特徴が合致しており、アルバはため息を吐いた。
「ドールを押しのけたウィリーさんでさえ手が出ないって……僕らが合わなかったのは幸か不幸か……」
「多分戦ってたら死んでたかもな……」
話を聞くだけで力の差を実感し、一輝は苦笑いを浮かべる。
「まぁ生きてりゃ儲けもんってね……あれ? 結城さんどうかしました?」
ルークは何処か遠い目をした結城拓真に声を掛けると、遅れて反応を返した。
「え? いや、何も……」
「そんなに言葉を濁して何もって……」
「おいバカ内藤、空気読めこの内藤が」
「おいルーク! 勝手に人の名前蔑称として使ってんじゃねぇよこのタコ!」
「はぁ? お前タコの擬態能力の高さ知らねぇのかよ? スナイパーに取っちゃタコは誉め言葉だねぇ! それとも今の、煽りだったのかぁ?」
「てっめぇ……ん?」
荒ぶる二人の手にリリィは小さな注射器を一本握らせると、二人は途端に黙り注射器を指さしリリィの方を見る。
「仮死薬です、どっちか黙れば喧嘩も収まると思いまして……あ、蘇生薬はあるので適当なタイミングで起こしますよ」
「い、いや……」
「えっと……あー……すまねぇな、ルーク」
「いや、こっちも悪かった……内藤……」
「そんなに本気で青ざめないでください、ただの医療ジョークです」
リリィは顔色を変えていないものの、どこか不満げに呟く。
「ってことはこれは本物じゃないのか……」
「いえ? 本物の仮死薬です」
「本物だった⁉」
リリィはそれが本物である事を伝える為か、注射器の刺さった結城拓真を指さす。
結城拓真は薬の効果で気絶しているのか、座ったまま下を向きピクリとも動いておらず驚いた内藤は危うく注射器を落とし掛け、急いで拾い上げる。
「……あ、ご心配なく……ただの麻酔ですよ、ジョークです」
「違うそうじゃない⁉ なんで結城さんを眠らせたんですか⁉」
表情が一貫して変わらないリリィに思わずツッコミを入れる一輝だが、リリィは相も変わらず真顔で答えた。
「彼の為です」
「結城さんの為?」
「…………これ以上は私の口からは言えません」
「…………」
微かだが、どこか物憂げな表情を見せたリリィに一輝達は黙りこんでしまう。
そうして流れた一瞬の沈黙だったが、館内放送がなり小夜の声が一輝とアルバを指名し司令室へと呼び出した。
「お? お呼び出しだな、行ってこい」
「まだ帰ってきて数時間しか経ってないのに」
「うちは殆ど非戦闘員だからな、戦闘員は仕方ねぇんだ」
「……僕達とんでもない部隊に入らされたのかも」
「だな」
一輝とアルバは内藤達に別れを告げると司令室へと向かう。
司令室の扉を開けるとそこにはヘンリーと太刀川が居り、小夜は二人が来たのを確認すると部屋の照明を落としプロジェクターの電源を入れた。
「一輝さん、アルバさん突然の呼び出しすいません……少々急ぎの要件なので手短に説明します」
「は、はぁ……」
突然の説明に二人は何が起こっているか分からないまま頷く。
「では説明します、画面を見てください」
小夜はタブレットを弄り画面を出力すると、あちこちにバツ印が記されたリバー街道と書かれた地図が表示され、全員地図の方に集中する。
「現状ですが、現在LOWがリバー街道に攻め込んできている形になります……この道は外国と繋がる最も大きな道であり、おそらくLOWの目的は補給を外国からの補給を絶たせることでしょう」
「まぁでも陸路がダメでも空路があるから大打撃ってほどでは無いんじゃない?」
太刀川がどこか不思議そうにそう言うと、小夜はコホンと咳ばらいをし言葉を続けた。
「この辺りには一回目のリバー街道での衝突後、多くのタレットや対空砲が設置されました……それがLOWの手に渡るのは非常にマズいのです」
「あちゃぁ、それはマズいね」
「黙って聞いとれ、太刀川」
「はいはい、ごめんね小夜ちゃん」
ヘンリーに窘められ、太刀川は目を細めたままにやけ面で口を閉じる。
「本部から要請があり、LOWの本隊を退けた後エンジニア部隊を投じて対空砲およびタレットの修理や再調整の任を受けたのですが……前線は拮抗しており、先遣隊としてジョーさんとカレンさんに向かって貰ったのですが応援が欲しいと……」
「ふん、若造二匹が情けない」
「はいはいおじいちゃん、戦場は思い通りにはいかないものですよ~」
「なん……太刀川!」
小馬鹿にされたヘンリーは太刀川に怒鳴りかけるも、太刀川は一切気にする様子もなくにやけ面を浮かべていた。
どこか内藤とルークの様なそりの合わなさを感じた一輝達は苦笑いを受かべ挙手をする。
「質問ですか?」
「質問というか、エンジニア部隊に僕らも入るんですか?」
「はい、ヘンリーさんと太刀川さんがタレットの修理をしている間、他の方には援護及び防衛をお願いしたいんです」
「なるほど、了解しました」
「本作戦では結城さんも参加する予定です」
「ちょ、あの人怪我人ですよ⁉」
小夜の言葉に驚いたアルバは思わず大きな声を上げるが、咄嗟に口を閉じた。
「そうですね、ただ結城さんも修理関連に関して知識があるので……少しでも多く人を投入しないといけない都合上、彼には動いてもらいます」
「い、いいんですか?」
「本人から了承は得ています」
「……悔しいがあの小僧は手際はいいからな、ワシは賛成だ」
「アタシも~……それに直すだけなら大した戦闘にもならないと思うし~」
ヘンリーや太刀川は賛成の意を表明し、一輝とアルバはそれ以上何も言わなかった。
「他に質問は? なければ作戦の説明を続けます……リバー街道は旧工業地区から隣国まで真っ直ぐつながる道路で、LOWは外側から徐々に進行しています……リバー街道の周辺は栄えているので民間人の避難勧告もしましたが、前線からの情報ではまだ数人民間人が取り残されているようで、見つけた場合保護もしくは本部に連絡してください」
「了解!」
「我々技術開発試験隊は二回に分けて技術者を派遣し、貴方達は第一部隊として主にタレットや対空砲の修理、次に内藤さんとルークさんを連れた第二部隊が前線の敵部隊付近にジャミング装置を設置する予定です……それでは十五分後に輸送トラックが到着予定です、各自準備を済ませてください」
「了解!」
各自武器庫へと向かい、出撃の為の準備を整える。
一輝達はいつも通りのトルーパーを身に着け、R2を手に取り背部のマウントにレーザーブレードを仕舞う。
「こちら一輝、準備オーケー」
「こちらアルバ、準備オーケー」
「ヘンリー、オーケー」
「こっちもいいよ~」
それぞれの無線から声が聞こえ、入り口に停まっているトラックに乗り込むと見慣れないアーマーに身を包んだヘンリーと太刀川がそこに居た。
ヘンリーはオフロードヘルメットのような形をしており、装甲が分厚く両肩には分厚い装甲板を持ち足の裏にはキャタピラが取り付けられ、背部にはマチェットの様な武器とドラムマガジンのアサルトショットガンを腰に携えている。
一方、太刀川のアーマーは腰部の背面から肩にかけて九つの瓶の様な形をしたユニットが内向きに取り付けられ、腰には長い刀とグリップが後方に伸びた古風な拳銃を装備しており、頭部は狐面の様な形を模したものになっていた。
「すっげぇ厳つい……」
「プロテクターの装甲は真正面からの砲弾すら一撃耐える設計だ! 貴様らのトルーパーと一緒にするな!」
「太刀川さんのは何というか……派手ですね?」
「アタシのは通信妨害とかが主だからね、アンテナ積むとどうしてもこうなっちゃうんだよね~」
「すいません、遅れました!」
結城拓真が慌ててトラックに乗り込むと、他の技術者も一斉にトラックに乗り込み荷台の扉が閉まる。
技術者は全員スーツ型を着ており、結城拓真は普段とは違うアーマーを身に着けていた。
背部に畳まれたプロペラを二枚持ち、膝から足先までストレートにつながった形状であり、腕には大型のライフルを備えている。
「それは?」
一輝が指をさすと、結城拓真は親指を立て答えた。
「今まで整備中だったんだ、やっと整備が終わったから久々の出撃さ」
「怪我は大丈夫なんですか?」
次にアルバが心配そうに尋ねるが、結城拓真は特に気にする様子もなく答える。
「大丈夫、鎮痛剤が効いてるからね」
〈全員揃いましたか?〉
通信機の向こうから小夜の声が聞こえ、全員が返事を返すとトラックは発進し始めいつもより多い人数を乗せたトラックは激戦区へと進んでいった。
どうも。
旅行とかいろいろしてたらGW終わってるし、投稿も遅れました。
函館行ってきたんですがね、楽しかったです。




