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Black Historia  作者: RPGropure
番外編 nameless resistance 名も無きレジスタンス
35/69

番外編 nameless resistance -名も無きレジスタンス-

 



「一体……ここは?」


 一人の兵士がぼやける視界の中、冷えた体を動かし痛む頭に顔をしかめる。


「自分は……」


 兵士は直前に何をしていたのか、記憶をたどり始めた。




 南アジアに位置するジャイエコマト。

 そこは焼けた土地と言われ、イヴァンディア連合とフォルン公国を隔てる国境線であり多くの人骨と鉛玉が落ちている場所でもある。

 二千百二十一年から一年間、まったく前線が変わらない事に業を煮やしたのか多くの人員が前線基地であるカルボニア基地に集まっていた。

 基地の広場には武装した五百人規模の大隊三つあり、全員は機械かのように寸分の狂いもなく整列すると先頭にあるお立ち台に安部雅人が立ち、片手を上げると全員一斉に構えを取る。


「やぁ諸君、今日は待ちに待った歩みの時だ……我々は今日山脈を超え新清人民国へと足を進める、北上した先には多くの資源が待っている! 我々はそれを握り締めて更に西に行くのだ! あはぁ! あははははぁ!」


 ため息交じりの笑い声と、拉げた笑顔で一人盛り上がる安部雅人だが突如止まったかと思うと一人のクローン兵士を指さした。


「……今一度問おう、貴様の……貴様らの目的はなんだ? 与えられた使命は?」


「我々は兵器であり! 我々の目的は祖国の為戦場を駆け抜ける事です!」


「ほう? 分かってるじゃないか……ならなぜさっき視線を落とした? 私の話より大事なものが足元に落ちていたか?」


「い、いえ……その……」


 戸惑うクローン兵士だが、その足元から毛むくじゃらな生き物がアーマーの凹凸を使い器用に肩に上る。


「にゃあ」


 痩せた黒い子猫はクローン兵士の何かに惹かれたのか、肩に乗ると鳴き声を上げクローン兵士の頬にすり寄った。

 それと同時に銃声が鳴り、猫はクローン兵士の肩から落ち地面に血をまき散らして息絶える。


「……さて、話の続きをしよう……我々はイヴァンディア連合の本拠地がある西へと向かう事が最重要……であったのだが、最近国内からこの戦争を終わらせようとする害虫どもが湧き始めた……」


 硝煙を上げる銃を仕舞い、顎を触りながら不満そうに安部雅人は呟く。


「だが我々はその害虫の一匹を捉える事に成功した、情報を聞き出したら君たちの前で華々しく散って貰おう! それが我々の明日へとつながる祝杯になるのだ! あはははぁ! あははははぁ!」


 再びため息交じりの笑い声をあげると、次に指揮を取り始めた。


「一番、二番大隊は空挺降下の準備を始めろ! 四番、五番大隊は奴らが空挺部隊の処理に手間取っている間に横から切り崩せ! 進軍ルートは事前打ち合わせの通りだ! さあ行け! 明るい未来が! 我々の平和の為に! あはははははははぁ!」


『はっ!』


 数百人規模の大隊は自らの使命を果たすべく、一切の行動の乱れもなく輸送機やトラックに乗り込みすぐさまカルボニア基地から出ていく。


「さて、三番隊は基地の警備を頼むよ……奴らが来るかもしれないからな」


『はっ!』


 三番隊は各々配置につき安部雅人が危惧する侵入者に対し警戒を始める。

 安部雅人も壇上から降り、捕縛に成功したレジスタンスを収容している場所へと基地の管理者に案内され、その後をついて行く。




 それから十時間後、前線の山岳地帯ではゼブラ部隊がヘ敵部隊の待ち伏せを受けていた。

 イヴァンディア連合の兵装はフォルンとは違い、走行が薄く機動性の高いスーツ型が多く、機動力の低いクローン兵士達はイヴァンディア連合の兵士に苦戦を強いられており。

 地雷や狙撃銃、空戦用に作られたフライングボードという腰につけるプロペラの付いた板状の兵装などを使い、フォルン軍に正式採用されている汎用型のディフェンダーを圧倒しゼブラ部隊は一人、また一人と倒れていく。


「こちらゼブラ部隊H246! C地点で奇襲を受けている! 援軍を要請する!」


『こちらカルボニア基地、援軍は寄越せない! 現状で切り抜けたまえ』


「そんな……我々の……」


 本部に援軍要請を要請していたクローン兵士は言葉を伝えきる前に、爆発と共に崖を落ちていく。


「H246! くそっ! こうなったら……」


 通信兵を失い、窮地に立たされたゼブラ部隊隊長は味方が持っていた軽機関銃と自身の持っているアサルトライフルの二丁を手に取り乱射する。


「お前ら! 今の内に逃げろ! 俺は少しだって道連れにしてやる!」


「隊長! 戦場からの逃亡は規則違反だ! 自分達は逃げない! 国の為に……」


「下がれG18! そして生きろ! いつかきっと……俺らは国の為じゃなく、自分の為に生きれる日が来るまで……」


 弾の切れた銃を捨て他に地面に転がっている銃を拾うゼブラ部隊隊長だが、ヘリの爆撃が崖を崩しゼブラ部隊は全員崖を転がり落ちていく。

 やがて斜面が終わり、全身を打ち付ける音がなくなった頃立ち上がった人影は一つだけであった。

 先程G18と呼ばれたクローン兵士は立ち上がると、強制パージボタンを押しヘルメットを外し辺りを見渡す。

 腕や足、首があらぬ方向に曲がっていたり爆撃で体の一部が無くなっている仲間の死体が転がるだけで、前線の銃声が遠い事に気づくとG18は歩き出した。


「部隊は……全滅か…………何は……ともあれ………………部隊を…………再編……せねば…………」


 カメラアイを貫通した破片が刺さり左目は見えなくなり、右肩は外れたのかだらんと垂れ下がったまま歩みを始めるが、突如視界が歪み気づけば地面に倒れ這いつくばる。


「体が……動かな…………だれ…………か…………」


 徐々に意識が薄れ、指先から凍える感覚を最後に記憶は終わった。




「そうか…………俺は…………行かねばっ!」


 自分の身に何があったか思い出し、G18は立ち上がるものの足に鎖が巻かれており前のめりに転ぶ。


「な、なんだ? ……もしかしてここは敵軍か?」


 辺りを見渡し、木製の寂れた小屋の中に居る事を確認したG18は自らが繋がれている鎖の先にある、鉄製の柱蹴り壊そうと足を上げた時に突如ドアが勢いよく開けられた。


「ぶっぶー、はっずれー!」


 スパイラルパーマのかかった小柄な女性が嬉しそうにそう言うと、G18は大きな声を上げる。


「貴様! 何者だ! まさか自分から情報を聞き出そうとでもいうのか!」


「はっはぁ! あ~、死にかけだったっていうのに元気だねぇ? じゃあこいつも要らないか」


 女性はそう言うと、手に持っていた木製のボウルをG18の前に置く。

 ボウルの中には液体が入っており、微かなコンソメの匂いが部屋に充満する。


「……戦闘糧食か…………フォルンのじゃないな」


「ああ? そうだな、そこらへんに落っこちてる死体が良く持ってるから貰ったんだ……幸いここは前線のど真ん中でありながら谷底付近の廃棄された観測小屋……そりゃもう死体もがっぽがぽ」

 真空パックに入った硬いクッキーの様なパンをスープに浸しながら、女性はそう言うとG18の口元まで運ぶ。


「で? 食うの? 食わないの?」


「……他国の飯なんか食えるか……」


 G18は顔を反らし、背を向け横になった。


「はんっ、そうかい……じゃあ遠慮なくもらうね」


 目の前のボウルを下げ、女性はそれを飲み干す。

 そしてG18を放置して通信機を取り出すと、ノイズ塗れの通信に耳を傾ける。


『現在……なし…………レジスタンス……は…………されず…………』


 通信機はカルボニア基地での無線を拾っているのかレジスタンスという単語が聞こえ、それに女性は反応するとG18に近づきしゃがむ。


「なぁ、アンタに聞きたいんだけどさ……今、カルボニア基地で何が起こってる?」


「…………」


 G18は質問に一切答えずに、そのままだんまりを続ける。

 だが女性は困った表情で頭を掻くと、言葉を続けた。


「おい、アタシは一応アンタを手当てしてやったんだぞ? 勿体ねーけど包帯まで使ってやってさ! 話ぐらいきけっつうの!」


「そんな義理はない、そもそもお前はどこの所属だ」


「はは、やっとこさ反応した」


「……」


 答えを返した事に反応を示した女性を見たG18は再び口を閉じ、地面に寝転がり続ける。


「そうすぐに不機嫌になるなよ、アタシはA68……まぁ脱走兵って奴だな」


「脱走兵だと?」


「そうそう、アンタみたいに死にかけて無事生き残ったはいいものの行き場を失くしたのさ」


 A68は自嘲気味な表情で呟く。


「すぐに前線に戻れば居場所はあっただろう」


「あ? アンタ阿保なのか? アタシは死にかけたんだぞ? 二度も死ぬのは御免だね」


「貴様……お前が前線に戻らないだけでどれだけの損失が……」


「知った事かね、アタシはアタシの為に生きるよ! 見知った顔も全滅! アタシらはそいつらの服を剥いで止血して! 凍えながら肉を食った! 手厚く治療されたアンタとは違うんだよ!」


 A68は声を荒げ、G18に掴みかかる。

 しかしそれを聞いたG18は悪びれる様子もなく、口を開く。


「俺は死んでも死ななくてもどちらでも構わなかった、国の為になるならな……お前の様に泣き言は言わない、俺はお前と違って本気で生きている」


「……じゃあアンタは仲間と国、どっちが大切なんだよ……」


「……俺らは国の為に生まれたんだろう? 迷う必要はないじゃないか」


「マジかよ……アンタよくイカレてるって言われないか?」


「さあ……無いな」


 全く気にする様子のないG18に飽きれた表情を見せるA68。

 目の前にいる男と自分の価値観の違いに頭痛がするような感覚を覚えながら、椅子に座る。


「はぁ……久しぶりに人と話したらこんなに感情的になるなんてな……アタシも変わったもんさね」


「まるで元々無口だったような言いぶりだな」


「アンタみたいな減らず口叩く人間じゃ無かったよ」


「俺もお前も人間じゃないはずだが?」


「あーあいはい、アンタの中じゃそうだったな」


 椅子を並べ横になると、疲れたのか適当に返事を返す。


「で? 今カルボニア基地で何が起こってる? さっきレジスタンスなんて言葉が聞こえてきたけどさ」


「脱走兵に教える事など無い」


「ばーか、こりゃ取引だよ……アタシはカルボニア基地で起こってることを知れればいい、それさえ知れれば後はアンタを開放する……アンタは晴れて前線復帰って所だ、どうだ?」


「だからどうした」


「だからって……あのな、アタシは別にアンタをその柱に括り付けたまま腐らすことだってできる訳だ……命は一つしかない、後悔しない方がいいぞ?」


「っ……」


 A68の一言にG18は言葉を詰まらせる。

 足に巻かれている鎖は力いっぱい引いた所でびくともせず、自らが置かれた状況を再認識しG18は口を開いた。


「お前はそれを聞いてどうするつもりだ?」


「どうって……決まってんだろ、もしレジスタンスが居るならアタシはレジスタンスと合流する」


「なっ……」


 G18には今の発言がすぐには理解できなかった。

 自らと同じ軍に所属していたにもかかわらず、その軍は愚か国すら脅かす存在に加担する意思を示しており、国に忠を尽くすG18はそれが暴言の様に聞こえ反論する。


「貴様何を言ってるのか……」


「あ~安心しな、アタシは別にアンタに手を貸せって言ってるわけじゃない……むしろ捕まえて手柄にしてくれ」


「は?」


「簡単な事さ、アンタは脱走兵を捕まえたと言って基地に連れてく……でアンタは途中でアタシを逃がして、アタシはアタシでレジスタンスと合流する……それでオーケー! アンタは遠慮なく前線に戻れるしアタシもハッピーさ」


「……幸せそうな頭だな、それに俺はまだレジスタンスが居るだなんて一言も言って無いぞ」


「言わなくてもわかるさ、アンタ結構顔に出やすいタイプだろ?」


 にやにやと笑いながら指摘すると、G18は下を向いて顔を隠す。


「じゃあ作戦は明日決行にしよう、アンタ名前は?」


「勝手に決めるな!」


「じゃあ腐るか?」


「っ……脅しの上手い女だ……」


「そりゃどうも……で?」


「……G18だ」


「素直は美徳さね」


 からかうような笑顔を見せ、A68は戦闘糧食の袋を開けるとG18の目の前に置き部屋を後にする。

 一人部屋に取り残されたG18は目の前に置いてある戦闘糧食の乾パンを手に取ると、口に運び噛み締めた。


「……スープ、貰っときゃ良かったな」


 口の中の水分を奪っていく乾パンに悪態をつきながら、G18は食事をとった。




 翌日、窓辺から差し込む朝日で目を覚ましたG18は顔を上げると毛布を掛けられており、足元にあった鎖も外されていた。


「おはよう、寝坊助さん」


「……自分で言うのもなんだが、いささか不用心じゃないか?」


「あん? 別に今のアンタがアタシをどうこうしたって徳は無いだろう? それに死にかけからようやく口が利ける程度になったんだ、脱走兵とはいえ元軍人のアタシに勝てるものかよ」


「…………」


 小馬鹿にするような仕草を見せ、A68は鼻で笑い小屋のドアを開ける。

 小屋の外には霧が立ち込めており、冷えた空気が部屋の中に入りG18は少し体を震わせた。


「う~ん……まぁまぁ冷えてるな、少し着込もうか」


 壁に掛けてある防寒具を手に取ると羽織り、もう一枚をG18に投げ渡す。

 防寒具を受け取ったG18はそれを羽織ると、体の震えは収まり全身が温かさに包まれる。


「……随分いい装備だな」


「寒冷地用だってさ、山岳は冷えるからね……さて、ここからカルボニア基地までは歩くと一日以上は掛かるな……って事でいい物を用意したんだ」


 小屋から出て裏側に回ると、そこには壁に立てかけられたフライングボードが数枚あり体に掛けるシートベルトも付けられていた。


「ここに居るとよく落ちてくるんだ……まぁ、大抵大破してるんだけどな……運よく稼働するのがこいつ等だ、これで山を越えりゃすぐさね」


「……生身でも付けられるのか?」


「元々山岳救助隊の装備らしいし……行けるんじゃね? ほら無線、落ちるときはメーデーって言うんだぞ?」


「墜落事故だけはごめんだな」


 二人はそれぞれ一枚のフライングボードを選び、自身の体に合わせベルトの長さを調節しロックを掛ける。

 腰部分にバッテリーを取りつけ、左手付近にある操縦桿を握りスイッチを握るとフライングボードのプロペラが回り始め、徐々に体が浮き始めた。

 そのまま操縦桿を前に倒すと前進を始め、二人は目的地であるカルボニア基地周辺まで近づくため高度を上げる。

 幸い濃い霧のせいか発見される事無く飛行し、前線は既に移動したのかはたまた停戦が言い渡されたのか兵士の姿はなく難なく峠を越える事に成功した。


「さて、そろそろ一旦降りようか腹が減ってはなんとやらだ」


「……そうだな」


 無線越しにA68が指示を出すと、小さな田舎町の畑の近くに降下しフライングボードのシートベルトを外す。


「へへ、落ちなくて良かったな」


「落ちてたまるか、一応お前は俺を軍に復帰させるのがこの取引の内容だ……忘れるなよ?」


「へいへい……と言うかまだ戻る気だったんだ」


「俺の居場所は戦場だ、ここに居ること自体……」


「あ~はいはい、堅苦しい話は飯の後でいいかい?」


「…………」


 そそくさとフライングボードを木に立てかけ、背中に背負っていた袋を開け戦闘糧食を取り出すとG18に投げ渡し包装を破る。

 そうして数分間、二人は黙々と食事を続けていると近くの茂みが揺れ猟銃を持った農家が二人に声を掛けた。


「おい! そこで何してる!」


「んぐっ! ごほっ!」


 突然の呼び出しに言葉より先に唾が飛び、A68は胸元をドンドンと叩きながら粉っぽい食事を押し流す。


「……あんたら軍人か?」


「ごほっ……げほっ……あ~、そんなところです」


「前線はどうなったんだ? まさかイヴァンディア連合の連中こっちまで攻めて来たんか⁉」


 前線で命を懸けているはずの軍人が、農村付近の森で食事をしていた事が不安をあおるのか、農家は二人に猟銃を向けながら声を上げる。

 しかしA68は焦る様子もなくG18の肩に手を回すと笑顔を見せ農家を安心させようと笑顔を見せた。


「いやいや、前線は絶好調でして……今前線拡大に伴い伏兵が居ないか調査をしていたんですよ……ただこいつがどうしても腹が減ったと喚いてですね~」


「おい! 俺はそんな……むぐ⁉」


 咄嗟に腹ペコキャラにされかけたG18は不服そうに声を上げるが、A68は肩に回した手を伸ばし口を塞ぐと愛想笑いを浮かべる。


「そ、そうか……ん? そういやアンタらクローン兵士ってやつか?」


「ええまぁ」


「へぇ、俺は初めて見るな~……都会の友達は慰安所でよく見るなんて言うが、田舎町にも置いてくんねぇかな」


「ははは……それは国に言って貰えると……」


「そうかい、んじゃ頑張ってお国の為に死んでくれや~」


 農家はそう言うと手を振ってその場を立ち去り、数秒の沈黙が流れる。

 そして誰もいない事を確認したA68はため息を吐き、呆れた表情で乱暴にフライングボードを掴む。


「くそっ! 何がお国の為に死んでくれだ! テメェら人間が自分で出来もしない戦争を始めたんだから自分で何とかしろよ! ……くそっ!」


「…………」


 G18は表情を変えることなくA68の方見続けるが、その視線を感じたA68は鼻で笑う。


「はっ、アンタには耳障りな話か」


 二人はフライングボードを装着し、操縦桿を握る。

 しかしプロペラを回し離陸する準備を整えたG18は小さな声で呟いた。


「国の為に……あの人間の為に……俺は死ねるのか?」


「なんか言ったか?」


「……いや、なんでもない」


 顔色を変えることなくG18は飛び上がり、A68もその後に続いて飛び上がる。




 二人は特に喋ることも無く、再び数時間飛ぶとA68は高度を下げ着陸しフライングボ―ドを外し、そのまま歩き出す。


「置いて行くのか?」


「基地まで飛んで行く気かい? 撃ち落されて終わりさね」


「……そうか」


 日が傾き、星が見え始めた頃二人は丘からカルボニア基地を見下ろしていた。

 神経をとがらせ、人目を避け数時間歩き続けたせいか疲れた様子の二人は基地の外で警戒を続けるクローン兵士達の配置を確認する。


「うーん……結構多いねぇ、やっぱり通信機から漏れてきたレジスタンスって言葉は大当たりみたいだ……そうだろ?」


「…………」


「まだ隠すのかい? 今更無駄だと思うけどさ……」


「…………レジスタンスの一員を捕まえた、それが本当なのかどうかは知らないが」


「ほう? じゃあレジスタンスは迎えに来ると?」


「この数の兵を配置している辺り、そう踏んでいるのだとは思う」


「なるほどな……よし、じゃあ拷問会場は何処にある?」


「知らん、俺はそもそもその件については関わっていない」


 ふいと顔を背け、G18は基地を見る。

 するとA68はにやけた表情で口を開いた。


「なるほど、防音室か……確かにあそこなら音も響かないしアンタらに害ある情報は洩れないもんなぁ」


「…………かもな」


「お?」


 今までと違い、国を小馬鹿にするような言動に珍しくG18は否定的な反応を返さない事にA68は一瞬固まる。

 そしてA68は少し笑い、肘でG18を小突いた。


「なんだ、アンタも意外に話が分かるじゃないか!」


「……うるさい、俺はただ国の為にならない情報を聞かされないならその方がましだと思っただけだ」


「あ~はいはい、まぁ素直な事はいい事さ……たった一つの命、素直に生きた方が得さね」


 A68はカバンをあさりながらそう言うと、一束の麻縄を取り出しG18に手渡す。


「さて、そろそろ始めようか……そいつでアタシの両腕を縛りな……あ、アタシが簡単に解けるように結ぶんだぞ?」


「……そんな器用な結び方は知らん」


「アハハ、じゃあ手のひらにカッターの刃でも握っとくよ」


 カバンからカッターを取り出し、刃を折り手に握る。

 その手をG18は麻縄で縛り、手で握るとA68は嬉しそうに呟いた。


「なーんか、アンタ最初の勢いなら今アタシの首でも絞めそうだったのに……なつかない猫を手懐けた気分だよ」


「……猫か」


「ん? なんか思い出でもあるのかい?」


「前線に行く前のミーティングで迷い込んだ猫が射殺された、それだけだ」


「……その猫って黒い子猫だったかい?」


「ん? ああ」


「……そうかい」


 目を伏せA68はG18に背を向けると、G18は不思議そうに声を掛ける。


「友達か?」


「猫と友達だなんて、アンタ以外にファンシーなんだな……まぁ、残飯処理の仕事の時に偶にエサをやってただけさ……親とはぐれたのか傷だらけでこっちをじっと見ててさ……アタシを見るなりエサを奪ってくだけで懐きゃしなかったよ」


「そうか」


「ああ……じゃあ行こうか、エスコート頼むよ」


 カバンを置いて行き犬の散歩の様にG18はA68の腕を縛る縄を掴み丘を下る。

 そして武装したクローン兵士に見つかり銃口を向けられ、二人は足を止めた。


「そこのお前! 何者だ!」


「G18だ」


「……G18? ゼブラ部隊のか? 前線はどうした、なぜここに……」


「脱走兵を見つけ、引き渡しに来た……部隊は既に全滅しており、再編の要請も届けに来た」


「通信機はどうした」


「アーマーと共に破損した、わずかな戦闘糧食で食いつなぎながらここまで来た」


 一切どもる事なくG18はすらすらと嘘を並べると、クローン兵士は疑う事無く銃を下ろし、G18に近づいた。


「ゼブラ部隊は全滅か……前線はやはりそれ以上前進しなかったのか?」


「通信機が壊れたから現状は分からない……だが目を覚ました時には銃声は既に鳴り止んでいた」


「そうか……実は本部も前線から情報が上がらなくて困ってたらしいんだ、お前は英雄だよ……あんまり言いたくないが、唯一の生き残りかもな」


 慰めるように肩を叩き、クローン兵士は通信機を接続し本部と連絡を取る。


「こちらF778、ゼブラ部隊G18と脱走兵を見つけた……本部の尋問室に入れておく」


『こちら本部、脱走兵は懲罰室に入れておけ』


「了解……よし、じゃあ二人とも来てもらおうか」


 二人はF778に付いて行き、目的地であるカルボニア基地内部への侵入を成功させる。

 敵軍から奪った設備を使っているカルボニア基地内部を歩く二人は、見慣れた景色を眺めていたが鉄格子が嵌っている扉がある懲罰室に辿り着くとF778はドアを開けA68に入るよう促した。


「とりあえず脱走兵はここに居ろ、いいな?」


「あ~はいはい、了解しやした~」


 ふざけた口調で呟き、A68は中に入ると二重扉の奥にある独房のような場所に入れられる。

 電子ロックを掛けられ、閉じ込められたA68だが一切怯える様子もなくむしろ待っていたと言わんばかりに口角を上げF778が去っていくのを見守った。


「さて……待ってておくれよレジスタンス! アタシを迎え入れてもらうぞ!」


 すぐさまA68はカッターの刃で麻縄を切断し手に握っていたカッターと、ブーツに忍ばせていたニッパーを取り出し準備を始める。

 カッターの刃を使いネジの頭を埋めているシリコンのような物を削り出し換気ダクトのカバーを止めているネジを回す。

 頭がマイナスの形をしていたネジをすべて外し、麻縄をカバーのスリットに巻き引っ張りながらダクトを移動していく。

 狭くて埃だらけのダクトを口元を抑え息を殺しながら這いずり、明かりの差し込むダクトから外の様子を眺めると廊下には誰もおらず代わりに銃声が聞こえる。


「……銃撃? 一体何が?」


 ダクトの外からでは状況が掴めないものの、A68は一旦その場から離れると上階に繋がっているダクトに向かい両手両足に力を込め少しずつ上って行き外へと繋がるダクトが見えた。


「良し、じゃあこれはもういいな」


 手に持って居た麻縄を離し、少し遠くからガシャンとダクトカバーの落ちた音が響く。

 その音を聞き終わるとニッパーでフィルターの金網を切断し外を確認すると基地の裏手に繋がっており、数人の人影が見え頭を引っ込める。


「ちっ……裏手なら大丈夫だと思ったんだけどな……」


 人がいなくなったことを確認し、警戒を強めながらダクトの出口にぶら下がり壁を蹴って二階ほどの高さから飛ぶと、近くにある木に掴まりゆっくりと地上に降りた。

 裏手側に人影はなく、茂みに隠れ様子を伺いホッと胸を撫でおろすA68だが突如けたたましくサイレンが鳴り響きA68小さく飛び跳ねる。


「な、なんだ? さっきの銃声と言い……フィルターが落ちた音で警戒した訳じゃ無さそうだな……」


 予定とは違う状況に頭をひねるが、悩んでいる暇もなく目的を果たす為動き出した。

 割れている窓から中に侵入し、医務室から奥へ向かうと玄関へ通じる道に続き様子を見るが、数人のクローン兵士が倒れておりA68は首を傾げる。


「なんだ? こんな所で雑魚寝なんて……」


 緊急事態にも関わらず寝込んでいるクローン兵士からアサルトライフルとマガジン等を拾い、防音室のある方へと歩いていく。


「武器庫でアーマーを取りたいけど……この騒ぎ、なんか変だな……まるで攻め込まれてるような……」


 外から聞こえる銃声や、玄関で寝ているクローン兵士の疑問を頭の中で整理し一つの答えを導き出す。


「成程、レジスタンスの救助隊が来たって所か!」


 レジスタンスを救出するのが目的だったA68だが、救助隊が来た事により合流がより楽になると思いにやけ面で正面玄関へと走り出した。




 一方その頃、G18は銃を手に取り正面入り口付近にて戦闘を行っていた。


「クソッ……前線に戻る前にレジスタンスと戦闘になるなんて」


 攻め込んできたレジスタンス相手に苦戦を強いられ、一人また一人と装甲の隙間から血を流す死体が積み上がった状況はまさに地獄と表現するのが正しいと言える。


「バ、バケモノ!」


「死神だ! こいつはまさしく……」


「いやだ! こんな所……で……」


「全兵士に次ぐ! 現状報告を優先せよ! 情報が錯綜している!」


「こちらC77! 捕獲していたレジスタンスが居ない! 何が起きてる!」


「E1120! ジャミング装置がエラーを吐いた! エンジニアは至急……ぐあああ!」


 通信機から聞こえる言葉は叫び声や怒鳴り声ばかりであり、G18は次々と死体を積み上げるレジスタンスと通信機からの声に心を痛めた。

 自分もここで死んでしまうのではないかと言う考えが頭をよぎるたびに照準は少しブレ、ハンドガンと剣と言う銃撃戦が主な戦場にそぐわない武器を持つレジスタンスには一切当たらない。


「くっ……何死を恐れてるんだ俺は……今までこんな事無かった筈なのに……」


「ぐああ!」


「うっ……」


 目の前で仲間の首が飛び、血が噴き出すヘルメットがつま先に転がり込み全身が硬直する。

 しかしそんなG18に慈悲を与えるつもり等ないレジスタンスは、首元目掛けて剣を突く。


「う……ああああ!」


 目の前まで迫った死に、遂にG18は声を上げるが突如爆発が起きG18は吹き飛ばされる。


「ぐあっ!」


「ちっ……邪魔しやがって……」


 邪魔が入り、レジスタンスは距離を取り別のクローン兵士を襲う。

「はっははぁ! 派手に吹っ飛んだ!」

 どこか愉快な声が聞こえ、G18はその声の方を向くとA68がアサルトライフルと手榴弾を持ちクローン兵士をを吹き飛ばしていた。


「なんだあいつ! 仲間を!」


「アーマーはどうした! 死にに来たのか!」


 アーマーも着ずにやって来たA68は自殺行為の様に見え、周りのクローン兵士は声を上げるが、A68はニヤリと笑い大声で叫んだ。


「アタシを迎え入れろ! レジスタンス!」


「あの野郎!」


 レジスタンスに向かっていくA68は周りのクローン兵士の怒りを買い銃口を向けられるが、A68はポケットから閃光手榴弾を取り出すと投げようとするが銃弾が手元の閃光手榴弾を撃ち抜きA68の視界が真っ白に染まる。


「うあっ⁉」


 手元で爆発を起こした閃光手榴弾に視界を潰されたA68はその場で立ち尽くし、レジスタンスはその首を切り落とそうと近づくがG18は咄嗟に突き飛ばす。


「おう⁉」


「大丈夫か?」


「その声……」


「アイツ……裏切り者だ! 殺せ!」


「クソ! 俺を巻き込みやがって!」


「これはアタシのせいじゃねぇだろ!」


 G18は咄嗟にA68を背負いカルボニア基地内部へと逃げ込む。

 銃弾を装甲で受け、二人は基地内の人気のない囚人区域内へと向かい扉を閉めた。


「ここなら……」


 囚人区域には一つだけ扉の閉まった収容室があり、その中に居る囚人は二人の方を見て何事かと心配そうに覗いている。


「……すまない騒がせたな」


 G18は囚人に謝り、背負っていたA68を下ろすとA68は地面に立たずに力なく倒れ、その様子を見てハッとしたG18はA68の体を見ると数発の弾丸を腹部に受けており、出血していた。


「しまった……大丈夫か?」


「あ? ああ……危うくあの世の仲間と再会を果たすところだったよ……ったく、アタシを突きだしゃそれで良かったろうに……」


「冗談でも今はそう言う事を言うんじゃない……俺も死にたくはないからな……おい! そこのお前、応急手当は出来るか?」


「多少の心得はある」


 火傷痕のある金髪ロングのクローン兵士は頷くと、G18は電子ロックを解除し扉を開ける。


「すまない、こいつの面倒を見てやってくれないか」


「君は?」


「俺は何とかして出れないか道を……」


「それなら地下の武器庫の倉庫裏にある非常用出口を使うと言い、海岸まで一直線で繋がってる」


「本当か?」


 目の前にいる囚人は自らの服を千切ると包帯の様にA68に巻き、止血を開始するもすぐに血が滲み囚人はG18の腰元に付いているレーザーブレードを奪い取った。


「何をする!」


「焼灼止血だ、焼かないと出血は止まらない」


 レーザーブレードで格子を切り、焼けた断面で傷跡を焼く。

 すると激痛からかA68は叫び声をあげ、その音を聞きつけたのか幾つかの足音が階段を降りる音が聞こえる。


「……すまない、こいつを頼む……俺は奴らを片付けたら脱出する」


「……分かった」


 G18は扉を開け、階段下から他の兵士に銃弾を浴びせた。


「ここから先は通さん!」


「おいG18! 何の真似だ!」


「悪いがここまで来たらヤケだ! 俺は俺の為に人生を使わせてもらう……腐った国民や国の為に命はやれなくなった!」


「何だと! 俺らの存在理由にケチをつけるってのか!」


「っ! 最初はそんなつもりは無かった! だが自由に生きる奴を見て……俺は死にたくなくなった! 絶対に生き抜いて見せる! 俺は! 人間になる!」


 力強い言葉と共に、G18はかつて仲間だった兵士に銃口を向ける。




 それから数十分後、A68は目を覚まし飛び起きると金髪の囚人が目に入り咄嗟に距離をとった。


「おっと……捕まったか!」


「違う、私は君の相棒に頼まれて止血を行っていた」


「相棒? アイツか! アイツ、今何処に居る?」


「階段付近で戦闘している筈だ……銃声は鳴り止んだようだから、見に行くなら今かもな」


「サンキュー! えっと……確かアンタ、一番隊隊長だったよな?」


「……今は違う、唯の反逆者さ」


 金髪の囚人は目を伏せると、A68はバツが悪いかのように愛想笑いを浮かべ階段の方へと歩いていく。

 階段付近には幾つもの弾痕があり、階段の陰でG18は穴だらけのアーマーを脱ぎ壁に背を預け座り込んでいた。


「おい! 大丈夫か!」


「何とか……連中を……」


「ああもう喋るな、無事ならそれでいいんだよ」


「へへ……そうかい」


 今まで見せたことのない表情で笑うG18は、壁に手を付き自力で立ち上がるとA68は肩を貸す。

「ここから武器庫に……倉庫裏から……出口が……」


「……非常出口の事か? よく知ってるな」


「……知らなかったのは俺だけか……」


 血だらけの顔で苦笑いを浮かべる。

 だがその瞬間建物が大きく揺れ、爆発音のような物が鳴り響いた。


「な、なんだなんだ⁉」


「君達! 無事だったか……逃げるならすぐ逃げた方が良い、この感じ……基地の自爆装置が作動したのかもしれない」


「なんだって!」


 部屋から飛び出した金髪の囚人の言葉を聞き、A68は焦った表情を見せる。


「この基地は自爆設備がそろってる……確か武器庫付近にもあった筈だ、早くいかないと武器庫は火の海になるぞ」


「アンタは?」


「私は少し人探しをする……私と戦った彼が居るかもしれん……」


「……何の事だか分からないが、無事を祈っとくよ……どっか生きて会えたらさ、礼をさせてくれ」


「……そうだな、またどこかで会える事を祈ろう」


 金髪の囚人はそう言ってどこかに去ると、二人は急いで武器庫へ向かった。

 幸い武器庫内は煙は上がっているが、火の手までは上がっておらず非常口を使い長くて狭いコンクリートのトンネルを通り、奥にある鉄の扉を押し開ける。

 すると潮風が二人の頬を撫で、丸い月は夜の海を幻想的に照らしていた。


「こ、此処まで来れば……」


「ああ……俺達……生きてるんだな……」


 二人は近くの岩陰まで移動し、A68は慣れた手つきでG18に応急手当を施し月が沈むさまを眺める。


「……なぁ、お前はまだレジスタンスと合流するのか?」


「んあ? ああ……そうしたいが……」


 一隻のボートが海岸を渡って行き、銃弾がそのボート目掛け撃ち出されるも当たっておらず、その様子を見たA68はため息を吐く。


「あの様子だともうここには来ないだろうな……」


「そうか……」


「アンタはどうするんだ?」


「俺か? 俺は……気の向くままに生きるかな、人らしく」


「人らしくか……じゃあアタシもその夢に相乗りさせてもらうぜ、相棒」


「相棒? はは、なんだそりゃ」


 突如相棒と呼ばれたG18は照れくさそうにそう言うと、二人は周囲を確認し岩陰を後にしてどこかへと消えていく。

 その後二人がどうなったかは誰も知らないが、どこかの田舎町で神経プラグの痕を持つ夫婦が営むパン屋が繁盛したという噂が流れ、新聞の隅に乗ったようだが大きな話題になる事は無かった。


残業が開けたと思ったら冬が開けてました、へへ

この数か月間一体何をしていたのか、へへ

分かりませんね、へへ

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