8 ポニーテール
日本だと≪貧者のお守り≫が正式名称です。
「これは――……!?」
湊さんのその反応に、渡世はうかつだったと後悔する。
換金所で異界のアイテムを査定中、「貧者のお守り」で湊さんがポニーテールを弾ませたのだ。
「レアアイテムですよっ、コレっ! 貧者のお守りというんですけど中々ドロップしなくて――っ」
両手を上げてまくし立てていた湊さんはヒートアップしていた自分に気づいたのか、キョロキョロ周りを見渡して咳払いする。
「こほんっ……ドロップ方法が分かっていないゴブリンのレアドロップです。渡世さん、やりましたわねっ」
やりましたわね、と言われても、もしやそれで大人っぽい自分を演出しているのだろうか。隣の、湊さんとも仲が良さそうな金髪縦ロール女性審査員を思わず見る。背が高くスタイルのいい、雰囲気が上品な彼女が確かそんな口調だった。というか日本だと鑑定スキル持ちは女性のほうが多いのだろうか。
「ドロップ方法も分かります。確か申告義務があったと思うんですが」
ハンター協会は異界の情報の集積所だ。危険なモンスターはもちろんのこと、ドロップ方法などの情報も収集している。その結果が、『異界図鑑』というハンター協会が編纂編集しているデータベースだ。スマホのアプリで無料ダウンロードもできるらしい。渡世はスマホを持っていないが、ハンターには必需品と言われるほど便利な代物らしい。
「……渡世さん」
湊さんは口に手を当て、声を潜める。
「大きな声では言えないのですが……協会もハンターには先行利益というものが必要だと理解しています」
湊さんが言うには、異界で危険な目に会いながら知恵を絞って手に入れたアイテムや情報を、タダで後続に譲るのはハンターの意欲を損ないかねないと考えており、異界の情報の申告期間に猶予を持ってくれるらしい。
「今回の件は特にハンターを危険にさらすこともないと思いますし、渡世さんがガッポリ儲けたところで協会に申告する形で――」
私が通します、と湊さんは胸を張る。責任は私が取ります、とも言ってくれているが、正直な所、渡世は初情報を協会に報告すると貰える金一封で充分満足だった。
他のハンターにとって雑魚扱いのゴブリンも、レベルの低い渡世にとっては結構厄介なのである。湊さんに治してもらったとはいえ、ゴブリンに切りつけられた肩の痛みは尾を引いていた。
「あの……もしかして余計なお世話でしたでしょうか……」
消極的な渡世に湊さんは肩を落とす。心なしかポニーテールもしょんぼりしている気がする。
「あー……徳さん誘っても大丈夫?」
そのポニーテールに惑わされた――わけではないと思いたいが、渡世は気づけば徳さんを道連れにしていた。
ぴょんっ、と湊さんは体ごとポニーテールを弾ませ、
「はいっ!」
いつも通り、元気に返事をしてくれたのだった。
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