2 女王の庭園
女王の庭園。
名前の由来はこの異界の生態系の頂点が全て雌型モンスターだからだ。
大きい腹部に黒と黄色の横縞の兵隊蜘蛛や蝙蝠と同じ大きさのハエの頂点が――美しい女性の姿に見える上半身と女郎蜘蛛のような黒と黄色の横縞模様の脚を持つ巨大なアラクネ。
複数の頭を持つ、犬の子と言われる犬型モンスターの主は――腹部に巨大な犬の口があり、下半身は6本の触腕で這って動く。上半身は幼いながらも美しい姿で両手には剣を持つスキュラ。
無数の毒蛇に下半身が女性の姿に頭が蛇の蛇人間たちのボスは――美しい容貌に真っ黒な眼孔、獰猛で残忍な多腕の半人半蛇ラミア。
飛べない鳥、ペンギンに似た足の速い人鳥の群れの憧れが――風を操る長女、怪力の次女、雷を操る三女、三位一体で上空から襲い掛かる女面鳥身のハルピュイア。
4体の大型モンスターを筆頭に、隷属モンスターたちがテリトリーに生息している。
今のところこの4体が女王の庭園の頂点と目されているが、まだまだこの異界は広く果てが見えない、もしかしたらまだ見ぬ女王がいるかもしれないが……。
まあ、渡世はそこらへんは興味がない。異世界で散々化け物どもとやり合ってきたので、日本では静かに暮らしたい。
コソコソと4体のテリトリーの境界を巡り、草をかき分け異界のキノコや山菜を探す。エーテルを含んだ岩盤をツルハシで砕き、鞄に詰める。
あとはモンスターの素材を手に入れたら帰るか、そう思ってペットボトルを傾けのどを潤していると、一匹の兵隊蜘蛛が襲い掛かってくる。
アラクネのテリトリーから外れているからはぐれの兵隊蜘蛛だ。兵隊蜘蛛の攻撃方法は脚での突き刺しと嚙みつき。それに蜘蛛の糸を飛ばしてくるが、アラクネの糸と違い動きを封じるほどの粘着性はない。せいぜい目つぶし程度の効果しかない。それでも群れであったら厄介だが……。
兵隊蜘蛛の脚での突き刺しは空を切り地面に刺さる。そこにツルハシを叩き込み、脚を砕く。脚を失いバランスが崩れのけぞった兵隊蜘蛛の黒と黄色の横縞のぶっとい腹にツルハシを刺す。緑色の汁が飛び出し、青みがかった緑の粒子となる。
ツルハシで頭を吹き飛ばすと兵隊蜘蛛はひっくり返り、脚をシャカシャカ動かした後、緑の粒子となり、渡世に吸収される。
エーテル。
異世界ではマナと呼ばれていた、異界を構成する謎のエネルギーである。これを吸収すると異世界では「階層が上がる」と言われていたが、日本ではゲームにちなんでレベルと表現されている。
兵隊蜘蛛がエーテルとなって消えた場所には緑がかった肉が落ちている。
蜘蛛の肉。モンスターを倒した後のドロップアイテムだ。
(微妙だ)
ドロップしない時もあるためドロップしただけマシではあるが、換金価値が低いアイテムだ。
水を飲んでいる最中に襲われたため落としたペットボトルを拾い、泥を払う。水はこぼれ、残り少ない。
「……帰るか」
飲用水が汲める水場もあるが安全なルートから逸れる。残りの鞄の空きはモンスターたちの縄張り争いのおこぼれで埋まるだろう。
渡世は来た道を折り返すのだった。
ハルピュイアを女面長身と書いていました。
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