16 七条 クレア
7/11 補足を入れました。話の流れは変わってないです。
「湊、ぽやーっとしないの」
「ひゃっ、クレアさんっ」
綺麗な金髪縦ロールが首筋をくすぐる。湊は思わず声を上げた。
渡世達と別れた後、湊は≪貧者のお守り≫のドロップ方法の申請が滞っていることを訴えにハンター協会本部に来ていた。協会本部に訴えたはいいものの、2時間以上は待たされ、ぼーっとしている湊のほっぺたを付き添いで来てくれた七条クレアが突っついたのだ。
「変な声出さない」
「クレアさんの髪が首筋に入ったんですっ」
クレアは背が高く、湊は上から近づかれるとフワフワの縦ロールが首に当たってくすぐったい。
「というかですねっ、もう少し離れてくださいっ」
離れようとするとクレアは腰に手を回して抱き着いてきて、
「えー、どうしてー?」
と、猫のように頭をこすりつけてくる。
「どうしてじゃないでしょうっ、このっ」
しばらく湊とクレアで離れる離れないで揉み合っていると、協会本部の職員が声をかけてくる。
「貧者のお守りは、実は先に他のハンターから申請がありまして――」
「このココア美味しいっ」
「そう? 良かった」
ハンター協会本部最寄りの喫茶店。クレアの行きつけの喫茶店はお洒落で静かなお店だった。高校生の湊には少し入りづらい大人っぽいお店で、大学生のクレアをキラキラした目で見つめる。
大人っぽい喫茶店に連れてきてもらえて湊はニコニコとココアを飲む。クレアは微笑んで湊の口元にクッキーをつまんで近づけ、食べさせる。
「美味し?」
「すごくっ!」
湊は屈託なく笑い、クレアはニマニマと身もだえする。そんな人に見せられない笑みをしていた彼女に連絡が入り、スマホで一言二言交わした後、通話を切る。
「どうでした?」
「貧者のお守りの違法売買に関わったハンター、協会本部の職員、その他大勢――まとめて調査は済んだわ」
つまらなさそうに言ったクレアに、湊はホッと息をつく。
「これで渡世さんに貧者のお守りのボーナスが支払われますねっ。お兄さんにお礼を言わないと」
そう言った湊が満面の笑みなので、クレアはちょっと面白くない。
「兄さんはこれが仕事よ。ていうかね、協会のお偉方なんだから協会の職員が関わったこの件は兄さんの落ち度でもあるわ。礼なんていらないわよ」
「えっ、でも」
「でもじゃないの。兄を気にかける必要ないわ。今回の件はルール違反は勿論だけどハンターとハンター協会のイメージ問題のほうが主題だったの」
クレアは自分もクッキーをつまむ。
「うん、美味し。貧者のお守りはね、幸運値を上げるという珍しい効果を持っていて――つまりオカルトアイテムが現実になったようなモノなの。そしてそういうモノは好事家に人気で、あの連中はそれで荒稼ぎしてたの。ハンターには先行利益があるわけだからその期間中なら別にいいのだけど……というか、増長してアイテムの横流しや協会職員に金を流して便宜を図ってもらおうだのしなければ潰されなかったのにね」
(結局小物なのよね。小金が懐に入って気が大きくなって。巣をちょっと突っついたら大慌てで連絡とり合って所在明らかにして……馬鹿みたい)
心底呆れたように溜息を吐いて、クレアは紅茶に口をつける。
「気にかけるといえば、あの怪しいおじさんも湊が気にかける必要ないと思うけどねー?」
「怪しいおじさんって渡世さん?」
そうよ、とカップのふちを手でなぞりながらクレアは上目づかいで湊を見る。
「あの徳っておじさんは素性が分かったからいいけど……もう1人のおじさんはねー」
「むっ。渡世さんは記憶喪失なんです。周りの人が気にかけてあげないと――」
「それは何度も聞いたわ。まあ、いろいろ探りを入れたけど、少なくとも異界の出現から最近までの10年間の記憶がないのは確かね。記憶喪失の影響か感情の起伏に乏しいし」
「……クレアさん、最初疑ってて渡世さんに冷たかったですよ。あの時のクレアさんちょっと怖かったなーって」
湊はジト目でクレアを睨む。あまり迫力がないため、クレアの目尻も下がる。
「はいはい。今もそんなに温かく接してるわけじゃないけどね。で、その気にかけてるおじさんにしっかりこの件のこと伝えた? 女王の庭園でおじさんを狙ってる悪者たちが張ってるって」
「ちゃんと伝えました。貧者のお守りの件で危険があるから女王の庭園には入らないでくださいって」
「ナニをするつもりなのかしらねー……ま、十中八九申請取り下げの脅迫でしょうけど、残念。来るのは羊じゃなくて犬のおまわりさんでした」
「――私が向かって懲らしめてやってもいいんですけどねっ」
義憤に燃える湊にクレアはクスクスと笑った。
「それは可哀そうよ」
なんか長くなった。女の子はおしゃべり。
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