14 セーフハウス
ホイールルート。
4体の女王の縄張りの境目。女王と配下のモンスター同士が牽制しあっている安全なルート。ただあまり高額なアイテムも手に入らない。
ネズミ。
ホイールルートを回すハンターのこと。危険を冒さず安全な探索しかしないハンターを侮蔑する言葉。
湊さんと別れ、渡世は徳さんと一緒に≪女王の庭園≫に潜る。2人で無言で異界の植物や虫を採集し、鉱石を掘り、モンスターと戦う。今回はいつものホイールルートを回るネズミになるのではなく、ハンターらしく異界を探索する。
女子高生に世話を焼かれているという事実に、ネズミのおじさん2人も流石にちゃんと仕事をしようと我が身を省みたのだった。
「ちょっと休もうか」
「うす」
渡世と徳さんはコバルトブルーの湧き水が小さな湖を作っている場所で腰を落ち着ける。木々とツタ、葉と草がドーム状に湧き水の周囲を囲っており、コバルトブルーの湖が優しく輝いている。
≪女王の庭園≫のセーフハウスの1つだ。
異界にはモンスターが寄ってこない場所があり、ゲート周囲のスポーン地点、そしてセーフハウスがある。
セーフハウスの大きさは様々だが、必ず人が休めるぐらいの空間がある。異界に点在しており、セーフハウスは秘境のように壮大で美しい場所が多いため、それを探す専門のハンターもいるぐらいだ。
このセーフハウスも綺麗な場所である。あまりにも美しくてカップルが盛り上がる場合もあるため、『公序良俗に反する行為はお止めください。ハンター協会』と看板が立ててある。それが景観を崩しているとハンター協会にクレームが来るらしいが、撤去されることはないだろう。
その看板の横辺りに火をおこす場所や調理器具が置いてある。水場もあるしキャンプ場みたいな雰囲気だ。
「綺麗なとこですね」
渡世は初めて訪れたのでキョロキョロ辺りを見回す。
「気温も良いし、心地いいよね」
今日は貸し切りだし、と徳さんはペットボトルの残りを首からかけている。
「渡世くん、水は心配しなくていいよ」
徳さんはそう言ってくたびれた体を引きずり、コバルトブルーの湧き水をペットボトルに汲む。
「くぅ~……! キンッキンッに冷えてるぅ~」
まるでよく冷えた生ビールを飲むときのような徳さん。それに釣られて渡世も湧き水を汲む。
「おぉ……」
徳さんの言うようにキンッキンッに冷えているのに、手がかじかんだりはしなかった。ペットボトルを傾け、湧き水を口に含むと、渡世は一気に飲み干した。
口当たりが柔らかく、スーッと体にしみこむようだ。思わず何度も湧き水を汲んでしまう。
ペットボトルで3杯飲んだところで、渡世はゆっくり息を吐いた。ジワジワと失ったエーテルが回復している気がする。
「気持ちいいよね、この水。冷たいのに飲んだ後、体がじんわり温まって」
「サウナみたいな感じですよね。整うというか」
そーそー、と徳さんは間延びした返事を返し、渡世も地面に寝転がる。探索の後の疲れた体にエーテルが染み入る感覚は気だるげな快感がある。
銭湯や温泉の一角でダラダラするおっさんを見事体現した2人は、彼らを狙う影がセーフハウスを囲み始めていることに、まるで気づかなかったのだった。
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