9 ゲートターミナル
「――というわけで、すいません」
「はははっ、まあ湊ちゃんのポニーがしょんぼりしちゃったら僕たち二人は弱いよね」
人の好さそうな風貌の徳さんは朗らかに笑う。
くたびれた袢纏に軍手。いかにも大空を天井にしてきた者という風貌である。
徳さんも元路上生活者で湊さんからハンターに誘われた人だ。恩人である湊さんには弱い。
「僕としては全然かまわないけど、本当に折半でいいの? 僕、何もしてないよ」
貧者のお守りの報酬のことだ。ハンター協会にパーティ申請時に、パーティの報酬の取り分を決めることを薦められるのだが、それを折半にしたのである。これはハンター協会のサポートの一つで、渡世としても異世界で欲しかった制度だ。
冒険者パーティが揉める大半の理由が金と人間関係だからだ。
「いや、ドロップ方法が説明した通り、装備なしでゴブリンとタイマンしないといけないので……他のモンスターを抑えるのが凄く大事なんですよ」
「2人がかりでタコ殴りにしたらやっぱり出ないの?」
「はい――いや、確実にそうとは言えないので、そこらへんも検証しましょう」
「おー、ハンターっぽいねそれ」
徳さんも渡世と同じハンター活動にやる気なし勢である。
ダラダラと雑談を交わしながら、2人はハンターパスを駅の改札に通す。
ハンターパス。
ハンターパスは全ハンターに支給されるハンターの証明書だ。先ほど駅の改札に通したように国内の公共交通機関の乗り物は全てタダだ。身元証明にもなる優れものだ。パスポートの役割だけが、唯一できない。
「あ、装備は借りるんだね」
≪女王の庭園≫のゲートターミナル内、人込みに紛れて装備レンタル所を訪れると、徳さんが声を上げた。ゲートターミナルは異界に行くための発着場である。バスや電車、飛行機に代わるものが≪ゲート≫ということになる。
「装備なしだとゲートで止められると思うので……異界内で脱ぐ形になります」
後半、声を潜めて渡世は言う。
異界に入る場合、装備なしはハンター協会の警備隊員に止められる。過去に装備なしで異界に入り、モンスターと戦うことが一部でブームになっていたらしく、それが危険視されて装備の有無を確認するようになったらしい。ゲームでよくある裸縛りのつもりだったのだろうが、当然の処置である。
異界に繋がる空間の歪み――それを≪ゲート≫というのだが、そこに至るまでの大きな通路の両脇は、ハンターに必要なアイテムが売られている。
ターミナル内には堂々と刃渡り6㎝以上どころか成人男性ほどの大きさの大剣を掲げる武器屋に、重厚な甲冑をまるで小洒落た洋服店のように並べる防具屋、怪しげな乾物や回復薬、毒消し、増強薬などと大真面目に効能が書かれたラベルがしてある道具屋などが軒を並べる。異界直送とのぼりがある素材系の店も数多くあるし、何なら鍛冶屋もある。
その中をファンタジーに登場しそうな見た目の老若男女が練り歩き、普通の学生や主婦、スーツ姿からヒップホップ系などの多岐にわたる日本らしい姿も雑じりあって、渡世はいつも圧倒される。
異世界よりよっぽど異世界に思えてしまう、混沌とした光景だった。
これからは作中特有の用語には≪≫をつけようかなと考えています。
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